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春はもうすぐ「朧月夜~祈り」
暦の上では春とされるもまだまだ寒くてつい出無精になるのですが、この間、近くの元町商店街を歩いていたら花屋さんの店先に菜の花が…。
菜の花といえば、郊外や田畑のそばで咲いているというイメージがあったので切り花は新鮮でした。同じ黄色でも、夏のひまわり、秋の黄葉のような強烈な主張はなく、春のひだまりのような優しいぬくもりのある、柔らかい黄色ですよね。
黄色は、気持ちを明るく前向きにしてくれる色。ですから、菜の花はまさに春の訪れを告げる花なのですが、厳密には「菜の花」という名前の植物はありません。
「菜の花」は文字通り菜っ葉の花、アブラナ科の野菜の花の総称です。
アブラナ科の食用菜には、大根、小松菜、キャベツ、水菜、カブ、ブロッコリー、からし菜、チンゲン菜などがあり、これらの花はみな「菜の花」となります。
しかし、一般的に「菜の花」と呼ばれるのは、セイヨウカラシナとセイヨウアブラナの花で、多くの人の目を楽しませている菜の花畑はだいたいこのどちらか。
いまでこそ観光スポットとして人気の菜の花畑ですが、もともとは菜種油を搾取するために造られたものでした。有名な与謝蕪村の俳句、
菜の花や月は東に日は西に
は、安永3年(1774年)、蕪村が現在の神戸市灘区にある摩耶山を訪れたとき詠んだもの。昔、この一帯は菜種油を生産するため菜の花が栽培されていたのですね。
春の夕暮れ時、一面に広がる菜の花畑の美しさを歌った「朧月夜」は、高野辰之・作詞、岡野貞一・作曲の黄金コンビによる唱歌。「日本の歌百選」にも選ばれています。
誰もがいちどは歌ったことのある歌で、特に一番の歌詞、
菜の花畠に 入日薄れ
見わたす山の端 霞ふかし
春風そよふく 空を見れば
夕月かかりて にほひ淡し♪
わかりやすく、過不足のない言葉でみごとに春の夜の情景を描いています。作詞・高野辰之の故郷(長野県豊田村=現・中野市)は換金作物の菜種栽培が盛んで、春は一面菜の花畑が広がっていたのですね。
「朧月夜」は多くのアーチストがカバーしており、なかでも注目されるのは中島美嘉さん詞と葉加瀬太郎さんの曲を追加した楽曲「朧月夜~祈り」。
(sachiko haradaさんの演奏)
原曲の調べを損なわず、新しいいのちを吹き込んでいます。音楽家にはこういう試みをもっとしてほしい。中島美嘉さんの2枚目のミニアルバム(2004年)に収録されています。
菜の花には花言葉がいくつかあって、そのひとつが「小さな幸せ」。確かに、冬の真っ只中に春の訪れを感じることは「小さな幸せ」なのかも。