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02. 【第一部】不倫を正当化する人々に見られる暴力的・支配的な思考の原因の解説



はじめに、不倫という行為は、単に倫理や道徳の問題にとどまらず、個人の内面に根差す心理的要因や発達過程、さらには社会文化的背景が複雑に絡み合った現象です。中でも、不倫を正当化するために、暴力的または支配的な思考パターンが働くケースは、個人の深層心理における未解決の葛藤や自己肯定感の欠如、権力への執着が背景にあると考えられます。本節では、その原因について以下の観点から詳細に考察します。

1.1 幼少期のアタッチメントと情緒発達の影響

心理学のアタッチメント理論においては、幼少期に形成される親子関係や養育者との結びつきが、その後の対人関係や自己の価値観、さらには対人行動に大きな影響を及ぼします。不倫を正当化する人々の中には、幼少期に十分な愛情や安心感を得られず、自己価値の不安定さを抱えた者が多いことが指摘されています。
• 情緒的な欠乏感と補償行動
 幼少期の情緒的な欠乏や過度の批判、もしくは無視といった経験は、自己肯定感の低下を招きます。その結果、大人になってからは、他者との関係性において自らの存在意義や優越感を過剰に求める傾向が現れます。不倫という行為においては、禁断の恋愛や裏切りのドラマを自己の存在証明の手段として利用し、相手に対する支配や操作を正当化することで、内面的な空虚さを補おうとするのです。

1.2 パーソナリティの歪みと自己愛性の側面

現代心理学では、自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder; NPD)や反社会性パーソナリティ障害の特徴が、不倫を正当化する行動やその背後にある支配的な態度と関連付けられることが示唆されています。
• 自己愛性パーソナリティの影響
 自己愛性パーソナリティ障害の傾向を持つ人は、自らの優越性や特別感を強調し、他者を単なる「道具」として扱う傾向があります。彼らは、自己の欲望や快楽を追求するあまり、パートナーの感情や権利を軽視し、暴力的・支配的な行動に出ることもしばしばあります。たとえば、恋愛関係において「自分の都合で相手を選び、相手が自分に従うべきだ」という信念が、行動の正当化材料となり、倫理的な自己批判を回避するメカニズムとして機能します。
• 反社会性パーソナリティとの関連
 また、反社会性パーソナリティ障害の特徴として、社会的規範や他者の権利を無視する傾向が挙げられます。こうした傾向を持つ個人は、不倫においても「ルールは自分にとって都合の良いときだけ存在する」という認知の歪みが働き、暴力や支配的な手段を通じて自己の欲望を満たす行動を取ることがあります。自己中心的な思考とともに、他者への共感の欠如が、行動の倫理的な問題を見過ごす要因となります。

1.3 認知の歪みと合理化のメカニズム

人は自己の行動に対して、内面的な葛藤や社会的非難を回避するために、様々な認知的合理化を行います。不倫を正当化する思考パターンにおいても、以下のような認知の歪みが観察されます。
• 責任の転嫁と外部要因の強調
 自分自身の内面的な問題や過去のトラウマを、パートナーや家庭環境、社会的なストレスに転嫁し、「相手が原因である」といった形で責任を外部に求める傾向があります。これにより、自分の行動に対する内省や反省が回避され、暴力的・支配的な行動も正当化されやすくなります。
• 自己正当化と認知的不協和の解消
 行動と内面の価値観との間に生じる不協和(認知的不協和)を解消するために、本人は「自分の行動は仕方がなかった」「相手も一部責任がある」といった自己正当化の言説を構築します。このプロセスにより、暴力や支配の行動があたかも合理的な判断であったかのように錯覚され、行動そのものの問題点が曖昧化されるのです。

1.4 社会文化的背景と性役割意識

さらに、日本を含む多くの社会では、性役割やジェンダーに関する伝統的な価値観が未だ根強く残っています。こうした文化的背景が、男女間のパワーバランスや支配・服従の関係を暗黙のうちに助長している場合もあります。
• 伝統的な男尊女卑の影響
 伝統的な価値観においては、男性が支配的な立場を取り、女性は従属的な役割を担うことが理想とされる側面があり、これが現代においても無意識のうちに影響を及ぼしていることがあります。結果として、不倫関係においても、男性側が自らの権力を誇示するために暴力的・支配的な手法を用い、女性側がその関係に巻き込まれてしまうケースが見受けられるのです。
• メディアの影響とロマンティシズム
 また、映画や小説、ドラマなどのメディアにおいて、不倫関係がロマンティックでドラマティックなものとして描かれることが、暴力的・支配的な行動の正当化を助長する側面もあります。物語の中で、反抗的な男性主人公が魅力的に描かれたり、禁断の愛が美化されたりすることにより、現実の行動においても自己の行動を「ロマンティックな挑戦」と捉えやすくなるのです。

1.5 個人の内面的葛藤と防衛機制

最後に、不倫を正当化する背景には、個人が抱える内面的な葛藤と、それに対処するための防衛機制が大きく影響しています。
• 内面の孤独感と承認欲求の充足
 内面的な孤独感や自尊心の欠如がある場合、本人は他者との関係性において強い承認欲求を抱くようになります。不倫という行為は、禁断の関係性において「自分は選ばれるべき存在である」という自己肯定感を一時的に満たす手段となり得ます。こうした状況では、暴力や支配的な態度が、相手に対する支配感や優位性を示す手段として利用され、自己価値の証明として合理化されるのです。
• 防衛機制としての合理化と投影
 また、フロイト的な防衛機制の観点からは、自己の内面にある不安や葛藤を外部に投影することで、自己の責任を軽減しようとする働きが見られます。暴力や支配という行動は、実際には自分自身の無力感や劣等感に対する反動であり、他者にその感情を転嫁する形で、自己の行動を「必要な正当防衛」として解釈することがあるのです。

以上のように、不倫を正当化するための暴力的・支配的な思考は、幼少期のアタッチメントの問題、パーソナリティの歪み、認知の歪みおよび合理化メカニズム、さらには社会文化的背景や性役割意識、内面の葛藤と防衛機制といった多角的な要因が複雑に絡み合った結果として現れます。これらの要因は、個々の背景や経験によって様々な形で現出するため、一概に「この原因のみが不倫正当化の根源である」と断定することは難しいものの、上記の観点を踏まえることで、その心理的メカニズムの全体像に近づくことが可能です。

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