絵師100人展に行ってきたよ ~イラストの光表現とオールドレンズ~
2024年の9/14から大阪のATCホールで開催されている絵師100人展に行ってきた。
このイベントは文字通り100人を超すイラストレーターの描き下ろし作品を展示する大規模な展覧会で、日本のアニメや漫画などのイラストが好きな人ならぜひ一度は行っておきたい豪華なものだ。
漫画家やライトノベルの挿絵担当、有名VTuberのママ(デザイン及びイラスト担当への敬称)まで、さまざまな「絵師」が丹精込めて描いた絵をクソデカパネルで余すところなく堪能できる素晴らしい時間だった。
本題はここからなのだが、家に帰ってきた筆者がホクホクしながら買ってきた本展覧会の画集を眺めていると、後ろを通りかかってマイファザーがボソッと一言、
「あ、倍率色収差」
……なんじゃそれ。
どうやらマイファザーの棲息するカメラ界隈では既知の現象のようである。
そんなわけで、日頃インターネットのデジタルイラストを摂取して生きている筆者と、フィルムカメラを日常的に愛でカメラに関することなら豊富な知識を持つマイファザーが情報交換することでわかったことを書こうと思う。
実用的な面で言えばこの記事は、カメラマニアにとっては若者ウケする写真を撮る手掛かりに、イラストレーターにとってはコンポジットやフィルタ処理の時短につながるかもしれない。まあ、似て非なる二分野を関連させて眺めて楽しんでもらえたらと思う。
「光」に関する写真のタブー
カメラ・写真界では、「光」に関するいくつかの「よろしくない事象」が存在するらしい。
「ゴースト」、「フレア」、「ぐるぐるボケ」、「にじみ」が主な4つ。
全て「レンズが球面であること」と「複数枚のレンズを組み合わせていること」に由来するもので、カメラを通して写そうとしている風景には存在しないものなので長らく「害悪」とされてきた。カメラの歴史はこれらのよろしくない事象をいかにして抑えるかという改良の歴史であったと言っても過言ではない。
(今更だが、当記事で言う「カメラ」はフィルムカメラなどの機械式カメラを指す。ミリしらの人は鉄オタが持ってるでっかいカメラだと思ってくれればいい。スマホカメラは小さすぎる&薄すぎる&電子的補正満載のカメラとしては超特殊な部類に入るので関連させて言うことはできない。)
ちなみにそれぞれ、
ゴースト
フレア
ぐるぐるボケ
にじみ(色収差)
以上、↓より出典
さてここで、絵師100人展にも参加されている間明田さんの作品を見てみる。
※当記事で引用した一切の作品に対し批判・悪く言うつもりは毛頭ありません。※
中央付近にフレア、腕や周辺の小物に色収差(にじみ)、画像だとわかりづらいが画集や展示作品では左右下の隅にゴーストも描写されている。
もちろん普通に線を引き色を塗っていると描かれないものであって、作者さんは技巧の一つとして何らかの方法でわざわざ描写しているのである。
この作品に限らず、展覧会では他にもゴーストやフレア、色収差を意識したであろう部分を含む作品がいくつも見られた。
↑のように、色収差はイラスト技法のひとつとしてきちんと定義されている。
写真においては「害悪」とも言われる現象が、イラストにおいては技法のひとつとなっている。
先述した通り、収差などはカメラとレンズが発明されてから今日にいたるまで技術者たちが躍起になって潰そうとしてきたものであって、それをわざわざイラストレーターたちが作品に持ち込んでいるのは非常に面白い。
いったいこの認識のズレはなんなのだろう。
イラストの光表現
今回の絵師100人展のテーマが「輝く」なのは面白いめぐりあわせである。
光表現に凝った作品が多く、筆者も会場では
「にじみがシアンとマゼンタになっている……色の三原色だ!」
「周辺をぼかすことで顔に視線が行くようにしているのだろうなあ……素晴らしい!」
などと一人で大盛り上がりしていた。ぼっち参戦なので。
ちなみに先ほどの間明田さんの作品は、レンズの上のチリまで描き、さらにその色収差を描写し、かつピントが合っているところから離れるほど色ズレの幅が広くなるという手の込みようである。すさまじいな。
イラストにおいては光を描写することが難しい。影ならば暗くすればなんとかなるが、単に白色を置いてもそこが光り出すというわけではない。そのため、レンズを通した像特有の現象を(多少大げさに)描くことで、発光とフォトジェニックな効果を得ているのであろう。
またボケは平面的なイラストに遠近感を生む。カメラ界隈ではパキパキとした描写が好まれるそうだが、イラストではそれが逆転している。
ちなみに、収差やフレアは必ずしもすべからくダメというものではなくて、カメラ界隈にもそれらを愛好する人々がいる。主にオールドレンズと呼ばれる古いレンズを好む人たちだそうな。
現代のレンズは3DCADなど発展した技術の導入により収差などが限りなく出にくくなっている。言い換えれば、古いレンズにはそれらが宿っているのだ。
カメラとイラストの相互補完
古いレンズなら色収差が出る。そして世の中にはさまざまなレンズやフィルムをエミュレートするソフトやプログラムがある。ということは、描いた絵をオールドレンズのエミュレータにかければ比較的簡単にフォトジェニックな効果が得られるかもしれない。
逆に、若者にウケる写真を(あえて)撮るならば、オールドレンズを使うなどしてゴーストやフレア出まくりの写真にすればいいということになるかもしれない。所謂「エモ」というやつである。
おわりに
筆者とマイファザーと言ったように、機械式カメラで写真を撮る人たちとデジタルイラストに慣れ親しんだ人々との間にはそれこそ親子ほどの年齢差がある。数十年のタイムラグを経て、好まれるものの特徴が逆行しているのは度々言われているが、画像の分野においても見られたのは面白い傾向だと言えるだろう。イラストにパープルフリンジを入れればバズるかもしれないので筆者は軽率にやっていきたい所存である。