Cannes Lions 2022 - セッションダイジェスト(第一弾)
みなさん、こんにちは!ad:tech tokyo 事務局です。
今年3年ぶりのリアル開催となった Cannes Lions 2022に行ってきました。そこで、今回印象に残ったセッションをダイジェストでお届けします。
~全体的な感想~ 「全体の22%を占めたダイバーシティー領域」
日本でも年々関心の高まっているSDGsに関連するセッション、特にサステナビリティー、ダイバーシティー&インクルージョンをテーマとして語る場面が多い印象でした。実際、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)領域をメインテーマとしたセッションが、プログラム全体の中で38セッション(約22%)もあったことが、その印象を裏付けています。ここでは、DE&I領域のセッションを紹介します。
“CMOs in the Spotlight - The Lego Group, L'Oreal, Marriott International”
■ スピーカー
Julia Goldin (Chief Product and Marketing Officer, The Lego Group)
Asmita Dubey (Chief Digital and Marketing Officer, L'Oreal)
Julius Robinson (Chief Sales & Marketing Officer, US & Canada, Marriott International)
■ 本セッションでの注目コメント
Lego Group:
「*Gina Davis Institute や ユニセフと密接に協力し、マーケティング活動のすべてに多様性と包括性を持たせるように努めている」
*Gina Davis Institute:メディアにおけるジェンダーの表現を研究し、女性の平等な表現を提唱する米国の非営利研究組織。https://seejane.org/
「メタバースへの参入をコミットする! 特に意識してるのは、子どもの権利を守ること。現状、メタバースの世界は子どもたちにとって安全な環境であるとはいえない。メタバースでは、子どもたちにも大人と全く同じ経験を、安全に提供したい」
→ それを受けて、Epic Games と長期のパートナーシップを組んだ。
「インクルージョンについて:小さな女の子、女の子を持つ親に対するマーケティングを強化している。ピンクのものを選びたいと感じる男の子が支援されるようなったように、女の子にもLegoを手に取ってもらえるようにステレオタイプを破る取り組みに力を入れている」
「今まで以上にパーパスについて考えている。ブランドパーパスは価値創造とは切っても切り離せない。消費者はよりこれをブランドに求めている」
「これからも、より消費者に寄り添い、近づき、いち早くアクションを起こさなければと感じる」
「おもちゃに対するジェンダー・ステレオタイプは、まだまだ蔓延している。子どもたちはピュアに生まれ育ち、可能性を信じていて、非常に包容力があり、自分たちは何でもできると信じている。しかし、残念ながら親を筆頭に社会は、女の子はこう、男の子はこうと決めつけ始めてしまう。私たちは、そのような状況を打破したいと考えている。女の子の両親や女の子に対するマーケティングを強化し、より多くの子供たちがLegoを手に取ることができるようにすることを重要視している。そして、より多くの女の子に、自分たちには何でも可能なのだと信じてもらいたい。それと同じように、ピンクや紫色のものを手に取りたいと思うすべての男の子に、そうすることは全く問題無いことだと感じてもらえるようにしたい」
L’Oreal:
「過去18ヶ月でデジタルトランスフォーメーションからデータトランスフォーメーションに進化し、さらにデジタルはデジタル化から仮想化へと進化している」
「Web2 で代表的なのは、ライブストリーミング、ビデオ、AI機械学習、SaaS、データ、クラウド、オートメーション。これらはすべて、世界のあらゆる場所で非常に多く展開されている。そして、新しいデジタルリアリティが私たちの生活に浸透し、2021年に転機が訪れ、Web3 とい概念が広がってがきた。Web 3は、ゲームから始まり、AR、VR、ブロックチェーン、スペーシャル・コンピューティング、そして仮想空間といった技術へと発展していくだろう。バーチャルアバター、バーチャルインフルエンス、バーチャルプロダクト、バーチャルグッズなどがそれにあたる」
→ ModiFaceを買収。現在ARビューティーに注力している
「Women in science という取り組みで、私たちはもう何年も科学界の女性を支持しています。過去10年間で、世界中の4000人以上の科学者と仕事をし、現在もさらに多くの科学者と仕事を続けていますが、そのほとんどが女性です」
「BOLD という取り組みでは、L’Orealにとっての新しいビジネスチャンスになりうる事象に投資をしています。女性ファウンダー向けに2,500万ユーロの資金提供を発表したばかりですが、起業に関しては、他のファウンダーと比較して、女性ファウンダーにどれだけの投資が行われているかという点で、まだギャップがあります」
「STANDUPという取り組みは、ストリートハラスメントに対抗するプログラムです。私たちは、女性や男性に対するセクシャルハラスメントとの闘いにおける専門家であるHollaback!と提携しています」
Marriott International:
「カスタマーが存在する場所にいたいという想いから、2020年にメタバース領域にも少し足を踏み入れた」
「Web3参入について:流行に流されるのではなく、インターナルコアバリューを失わないように気をつけないといけないと感じる」
「数年前に Love travels というプログラムを立ち上げた。これは、私たちの多様性に対する約束を実際に形にしたもので、多様性、包括性、環境保全、人権に焦点を当てている」
「マイノリティーのオーナーや、多様な女性がホテルのオーナーになることを支援する Bridging The Gap というプログラムを最近スタートした。多くの人は、私たちのホテルを実際に所有できることを知らない。このプログラムは、資金やトレーニング、教育によってギャップを埋め、次の100〜200人のマイノリティオーナーをホテル業界に生み出すことを目的としている」
"By 2030 Every Ad Will Be a Green Ad"
- by Advertising Association and Cannes Lions
このセッションでは、世界の広告業界における大企業や団体のリーダーたちが、2020年11月に英国で設立された「AD NET ZERO」をグローバルに展開をしていく意向を表明しました。
今後は、毎年夏に開催されるCannes Lionsで進捗状況を共有し、議論を続けていく予定とのこと。
AD NET ZERO 賛同企業:
世界の主要広告代理店からは、電通インターナショナル、Havas、インターパブリック・グループ、オムニコム、ピュブリシスグループ、WPP。世界最大の広告主の1つである、ユニリーバ。そして世界的なグローバルテック企業である Google、Meta。ヨーロッパのメディア企業であるSky。米国の業界団体からは、ANA (全米広告主協会)、4A's (アメリカ広告業協会)、IAB (インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー)。欧州およびグローバルエージェンシー協会からは、EACA (ヨーロッパ広告業団体) とVoxcomm (広告主業界団体のグローバルアライアンス)。そして、世界の広告主を代表するWFA (世界広告主連盟)、IAA (国際広告協会)。
■本セッションでの注目コメント
Stephen Woodford (CEO, Advertising Association) :
「つまり、すべての広告は、持続可能なビジネスによって作られ、持続可能な生産プロセスを用い、持続可能なメディアのサプライチェーン(やるべきことはたくさんあります)を通じて配布され、より持続可能な製品を促進しなければならない」
「これは、私たちが力を合わせれば実現可能なことだと考えている。規模が大きいため複雑な課題だが、意図をもって複雑化することで、課題を解決することができる。英国は400億米ドルの市場であり、世界の広告の約5%を占めていて、米国では40%。もし私たちが気候変動にインパクトを与えようとするならば、これを英国だけでなくグローバルに展開する必要がある。」
ー 英国は、2030年までにすべての広告を”green advertising” にするビジョンを掲げるとのこと
Aline Santos (Chief Brand Officer and Chief Equity, Diversity and Inclusion Officer, Unilever) :
(彼女が「UNSTEREOTYPE ALLIANCE」を結成したときの体験談と、それが企業においての、AD NET ZEROの実践にどう役立つかが紹介されました)
「2016年、広告の現状を知るための調査を実施した際、私たちは40%の女性が広告で正しく表現されていないこと、広告を拒否し、広告に関与していないことを発見した。私たちはすぐに何かしなければならないと思った。そこでユニリーバでは、UNSTEREOTYPEというプログラムを立ち上げた。」
→ 2016年時点で、Unstereotypical (非ステレオタイプ) とされるユニリーバの広告はたった50%。2021年には、97% がUnstereotypical (非ステレオタイプ) に
ユニリーバでこの取り組みを始めるために行った5つのステップを紹介
1:コラボレーションが鍵。
それぞれの違いを脇に置き、人間性を最優先すること。
2:手を取り合えば、より早く学べる。
社外からの協力があれば、学習が促進され、より早く発展することができる。2017年に24社のパートナーからスタートし、現在では230社のパートナーがいるとのこと。
3:"Measure what you treasure"
「大切なものは計測すること」これは、 ユニリーバが常に使っている言葉。企業は必ず進歩の有無を測定しなければならない。
4:システム的な変化を促すために、すべてを再検討する。
情熱的な個人は、新しいアイデアやムーブメントをもたらすことができるが、企業はシステム的な変化を起こす必要がある。
5:年功序列、優先順位はない。
誰もが責任を持ち、リーダーとして説明責任を果たす必要がある。変革はトップからもたらされなければならず、上級管理職がそれを支持することも大切。
"Future Gazers - Inclusive Innovation, Livestreaming and Gen Z"
業界全体から厳選された Future Gazers (先見者たち) を集めたセッションで、インクルーシブ・イノベーションの未来、ライブストリーミングの未来、Z世代の未来が語られました。
■ スピーカー
「ライブストリーミングの未来」の解説を担当
→ Paul Nesbitt (Director of International Insights and Measurement, Twitch)
「インクルーシブ・イノベーションの未来」の解説を担当
→ Rachel Lowenstein (Global Head of Inclusive Innovation, Mindshare)
「Z世代の未来」の解説を担当
→ Ziad Ahmed (Founder and CEO, JUV Consulting)
■モデレーター
Dina Elrayyes (VP Video, Ascential)
■本セッションでの注目コメント
ライブストリーミングの未来について:
「広告がよりクリエイティブで没入的になるにつれ、アテンション・エコノミーは広告の効果測定において本当に重要になり始めている。代理店やブランドが測定を希望する時それに適したツールが存在するよう、ここに多くの時間を投資している。」
「Z世代やアルファ世代を見ると、80%以上がゲーマーだと言っている。つまり、ゲーマーはもはやニッチな集団ではない。」
「Z世代、アルファ世代、Twitch世代(私はそう呼びたい)は、コンテンツに関連する広告について、まったく異なるニーズと期待を持っている。特に先進的なブランドは、アルファ世代について考え始めているようである。そして、ブランドにおいては、もっとクリエイティブでインタラクティブなことをする必要があると理解する、極めて重要な時期に来ているのだと感じる。」
「私がとても興味を持っているのは、モーション測定。これは、来年の中旬から年末に登場してくるのではないかと思う。モーション測定をどう活用するかは、今後非常に重要になってくる。」
インクルーシブ・イノベーションの未来について:
「あなたのブランドを成長させたいなら、多様なコミュニティに語り掛けなければいけません。そのコミュニティが聞きたいと思っている言語を話せるかどうかわからない場所や空間に、ただ現れて同じことを適用しては上手くいきません」
「これからの18ヶ月は、テクノロジーやマーケティングメディアのブランドが、虚栄心ではなく、人類の向上のためにイノベーションを起こす、そんな時代になる。そして、それは他の種類のイノベーションにも同じことが言えると思う。ライブストリーミングの新しいフォーマット、新しいメディア、私たちはインクルージョンを特別扱いすべきではない。」
「昨年行った調査では、80%の人がブランドに対して社会的な問題や個人的な問題を解決することを期待しているという結果が出ている。イノベーションのエコシステム全体においてより包括的であることは、ブランドの成長を促すと同時に、人々のためにもなる。」
今後1年半の間に見られるであろうインクルーシブ・イノベーションの3つの重要な要点は?
1:意図的な投資
意図的な投資の考え方はシンプル。クリエイティブだけでなく、マーケティングのエコシステム全体に、ブランドの価値観や自分の振る舞いを反映させること。
2:human safety, not brand safety
ブランドの安全性は明らかに重要。しかし、それが人々にとってより安全なインターネットを作り出したわけではありません。今後1年半の間に、ブランドにとってより安全な環境を作るだけでなく、マーケティングが人間に与える影響にもっと焦点が当てられるようになると思う。
3:交差的で包括的なメタバース
メタバースについて私が確実に知っていることはただ一つ。より没入感のあるインターネットと、より没入感のある世界がやってくるということ。そして、私たちはWeb 2で起こったのと同じ問題をWeb 3で複合させるわけにはいきません。Web 2は、女性差別、人種差別、有色人種差別、トランスフォビア、ホモフォビアを構造的に組み込んだものですが、Web 3やメタバースは、より直感的で人間らしいものになるかもしれない。同じ構造的問題やテクノロジーを持つわけにはいきません。
Z世代の未来について:
「Z世代を理解するうえで重要なことは、リーチしようとするのではなく、彼らの声に耳を傾けること。」
「Z世代の55%が、パンデミック前よりもハッスルカルチャーを気にしなくなったと言う。自分がこの会社を立ち上げたのは16歳の時でしたがこれだけ働いてきたことを誇りには思えません。もっと子供でいるべきだったと感じていて、働くことを要求されない世界になってほしいと感じる。そして、Z世代の60%が、ブランドに対して、自分たちのミッションを反映させるために社内プロセスを一新する措置を取ることを期待している。」
「Z世代の70%がエシカルブランドを好むと回答している。そして、99~98%のZ世代は、ここ数ヶ月の間に多様性について議論している。これらは、私たちが友人たちと話している話題である。」
“When Women Tell The Story - Shifting the Culture of Inclusive Storytelling”
Prime Video のホラー映画「Master」を制作した、主演女優兼プロデューサーのRegina Halls。彼女は本作品のスタッフとして、全員、女性を採用しました。
このセッションでは、以下の3つのテーマについて語られました。
女性がストーリーテリングの主導権を握るとどうなるのか?それは何か違いを生むのか?
どうすれば女性を業界の最前線に押し上げ、より多様で包括的な物語への道を開くことができるのか?
そしておそらく最も重要なことは、より多くの「新しい声」が、包括的なストーリーテリングの文化を前進させるための選択肢を得られるようにするにはどうすればよいのか?
■ スピーカー
Ukonwa Ojo (Global Chief Marketing Officer, Amazon Prime Video and Studios, Amazon)
Regina Hall (Actress and Producer)
■ 本セッションでの注目コメント
Regina Hall:
「世界はエネルギーだと考えると、男性的なエネルギーと女性的なエネルギーがあるわけで、(昔を思い出してみてください)母系社会があった時代もあったし、その文明は古い。だから、今、絆の話になると、話の伝え方、感じ方がすごく変わってくると思う。私は、番組の中で、女性監督と男性監督とディレクターの両方がいることが好きなのですが、どちらも素晴らしい。どちらもパワフルであり、ひとつのアプローチや方法に限らず、アーティストとしての異なる資質が引き出されるのだと思います。そして、物語を語り始めるとき、新たな視点が加わることで、広がりが生まれる。」
「その場にいることだけでなく、直感的に正しいと思うことを主張できるほど、その場が居心地がいいということが大事。女性には信じられないような第六感があり、その感覚は私たちのストーリーテリングにも活かされるし、必要なもの。」
「あまり攻撃的になりたくない・・などと思うこともあるかもしれない。でも、自分の発言したい内容が、その場にいる他の誰よりも価値があるということを知ること、自分という人間を減らさないこと、自分の声を減らさないことが重要」
「自分の考えや意見を述べたり、反対意見・賛成意見を述べたりするために、発言する力を十分に感じなければなりません。反対・同意、なんでもいいんです。ただ<声を上げなければならない>ということを知ることが重要。」
Ukonwa Ojo (Global Chief Marketing Officer, Amazon Prime Video and Studios, Amazon) より:
「ストーリーテリングの役割を担う女性は、すべての役において、ポジティブな影響を与える。女性が主役になると、より多様なキャストやセットが生まれ、それは誰にとっても良いこと。」
ー そして最後に少し、授賞式での様子について
2020年~2021年は「Cannes Lions Live」と称してOnline開催を余儀なくされた本式典。今年の授賞式では、授賞式が始まる前に必ず「過去2年の間でこのテーマで賞を受賞した人たち、会場にいますか?ぜひ立ち上がってください!みんなで拍手を送りましょう」とリアルでの受賞を経験することができなかった受賞者たちにスポットライトを当てる時間が設けられていました。
各Awardのハイライトはこちら:https://www.canneslions.com/enter/awards/awards-highlights
ad:tech tokyo でも、Cannes Lions に関連した情報をお届けする予定です!お楽しみに
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