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泥中の蓮(ひとりがたり)

私は、エヴァンゲリオンのアスカが好きだ。
彼女はもがいて苦しむ。しかし、その中で光り輝こうとし…だが、沈んでいき、それでもなおももがく彼女が好きだ。

彼女が頑張って頑張って頑張って死ぬほど努力して得たものは、なんだったんだろう。
彼女の地位は、なんにも取り柄のない全くぱっとしない、ポッと出のシンジにいとも簡単に奪われてしまう。
元は母だった綾波レイは重宝され、シンジは司令の息子。
登場は華々しかったのに。最初のシンジとの絡みとか、コメディな所はどんどん消えていく。
後半に行くに従ってあまりにも、あまりにも作品での扱いが辛くなっていった。劇場版も観て、何度も何度も何度もわたしは泣いた。

彼女はとにかく頑張って…なにに勝ちたかったのだろう。
どうしていちばんになりたかったのだろう?
どこの、なんの、だれの?いちばんに?

トラウマは母親の幻影だよねーと簡単に言ってしまえばそれまでなのだけど、わたしには、もっと彼女に重たい呪いがかかっているように思えてならない。

彼女は、何をやっても…アニメでも映画でも報われることが無い。ほのかな恋心を抱く加治はミサトと元恋人だし、後からまた…あの行為である。自身の最大の生命の危機なのに、シンジは彼女の裸を見て…最低で吐き気がする。私は嫌悪感でいっぱいになる。男なんて、大人なんて、大ッ嫌いだ。

だれか、彼女を、泥の中から救い出して欲しい。

彼女は、当時同じ歳だった、私自身だった。

プライドが高くいちばんになろうとし、努力し、いちばんになった…矢先に後から出てきた他の才能に負ける。
そして、何処へ行っても周りとのズレを感じる。
ありのままに話し、振る舞うと周りは誰も居なくなる事を、私は知った。
アスカのように天高くプライドが高い。小学生の時は、頭の回転だけはやたら早く、人を内心で子バカにし、鼻持ちならないキャラだった。
いつも100点で居ることを自分に課した。
なぜかと言うと、100点以外は許されない家だったからだ。

100点は、あたりまえ。それ以外はだめ。

小学生3年生の私は、1~2問間違ったさんすう、こくごなどのテストをごちゃごちゃにして、学校の机の中に押し込んだままにしていた。
テストはまだ返却されないの?と問い詰められる。学校の先生に問い合わせされ、答案用紙が見つかる。
その度になんでこんなぐしゃぐしゃにしたの、点数も取れなかったのと責められた。
私は100点が取れなかった自分を、隠して居なければならなかった自分を恥じ、悔しくて泣いた。
その頃から、どんどん人を、いや、全世界を呪うようになっていったと、今振り返っている。

毒だらけの人生、開幕だ。

別に、めちゃくちゃな貧困家庭だった訳では無い。
母子家庭ではあったが、持ち家だったし、祖父も祖母もいたし、母も働いていた。
だけど、私は家を、家族を、学校を、友達のようなものを、いわゆる世界の全てを呪って生きていた。

小学生4年生で部活が始まり、私は太って居たためか、鼻持ちならない性格のせいか、いじめられた。
家族に言うと、教育委員会にまで押しかけて散々やり、私の立場は逆に狭くなった。
無視されてつらい、と言えなかった。
そんな奴らに負けない、そいつらに勉強を邪魔されたくない、だから頑張って学校へ行く、皆勤賞を取る、などと言っていた。

祖母や母はとても、心から喜んでいた。
私は、祖母や母の欲しかった言葉を言っているに過ぎなかったのに。
そして、歪みが出来た。
爪を噛むようになった。
髪の毛を抜くようになった。
家族は辞めさせようと、手袋をさせたり、監視したり、禿げたところを治す為に皮膚科へ連れて行ったりした。
禿げた所に注射をされ、なんだかよく分からない美容院のパーマネントみたいな機械を被せられ、赤外線?紫外線?ようなものを浴びせられたのを覚えている。
カツラも作った。当時で30万円くらい。
あなたのために、こんなにやっているのよ、なのに、なんで治らないの!?
キレる祖母や母に、貴方たちのせいだと何度も何度も、小学生の私は思った。

みんな、消えて無くなればいいのに。

小学生のとき、仲良かった友達のお母さんが車椅子だったのだけど、祖母は周りくどく人前には出さないが、裏でとてもバカにしていた。
京都の人みたいな言い回しで。
中国人の子もいて、仲良くしていたのに、その人たちの事も。
遠回し悪口ばかりを言われて、私の心はどんどん麻痺していった。
醜くて、この人の思考はいったいどうなっているのだろうと考える暇を与えさせない、絶対感。
絶対的権力者の彼女(祖母)の言うことをきかないと、この家では生きていけなかったのだ。

中学生になる少し前に、抜毛症はいったん止んだ。
家族のたっての望みで中学受験をした私は、体育でカツラがズレる訳には行かなかったので、無理やり抜くのを我慢して、なんとか髪が伸び、治す事ができた。
小学生時代の数少ない友人とも、お別れになった。

中学時代も地獄が待っていた。
小学生からエスカレーター式に上がってきた子たちが4クラス中3クラス。
受験組は1クラス。
さらに、成績が良い子は無抽選と言って確実に合格で、ボーダーの子達は抽選をされ、抽選組と呼ばれる。
一種のカーストだ。
私は、無抽選組だった。
だが、ここでもやはり、いじめにあうようになる。
ハブられるようになったので、つい口を滑らせたらまーた家族がしっちゃかめっちゃかにし、孤立。
孤立後はまた、髪を抜き始めた。
中学2年のクラス変えで出来た友達との仲も、壊された。
同人誌をつくろう!と活動を始めたのだが、欲しい作家さんの同人誌を買い、届けられた郵便は勝手に開けられ棄てられた。
うまくかけたかも!と思っていた絵も、ぐしゃぐしゃにされ、いつの間にか棄てられた。

そんな事をやっていて、なんになる?
将来、何の役にもたたないだろう、と。

高校は、友達と入りたかったバドミントン部には入らせて貰えず、帰宅部にしなさい、勉強しなさいと言われ…放送部なら…となんとか許可を取り付け入った。
友達はバドミントン部に入ったため、少しずつ疎遠になった。
放送部は1年生が次々と辞め、先輩たちも卒業で居なくなるとの事で、私も誰もいなく、ひとりになってしまう恐怖に怯えた。そして、それを家族に伝えたら、辞めろと言われて退部してしまった…その時私は、家族の言いなりロボットになっていた。
その後、美術部に入りたいんだけど…と顔色を伺いつつ話したけれど、眉間にシワを寄せた彼女の顔を、ねちっこく話す嫌味を、思い出す。

言いなりロボットは、とうとう高校2年生に爆発し、あらぬ方向へ突っ走ってもがいていくのだけど…
全部が全部、おかしな方向へ全力でもがいて逃げようとしていた。
しかし、すべて逃れられない呪縛に絡め取られていた。ネットも無い時代、学校と家が私のすべてだったのだ。
あの頃の私に、祖母がいなかったら、確実に違う未来があっただろう。

あんなにもがいて苦しんだのに、彼女が亡くなったとき、私は私を呪った。
呪縛を解くのには、未だ至っていない。

家族のたっての希望だった大学受験をすっぽかして、とりあえず納得させるような就職をした。賃金を得て、家から逃げるために。なのに、その機会も彼女に奪われた。
ほんとうに、私の人生を返してもらいたいものだ。

私は、社会に出て、ありのままに振る舞わずに仮面を被って笑顔でいると、自分が壊れる事を知った。
壊れた私も、周りから見るととても奇妙なモノ、らしい。
どうしようもない、埋めようが無い疎外感。
それは、エヴァ放送時から今まで、ずっと続いている。
いつか、仮面を被らなくてもいい日が来るのだろうか。
仮面の下を、一緒に深淵を覗いてくれているのは、、、



ボロ泣きした何回も観た「破」から、私はまだ、彼女に会っていない。

ねことコーヒーと牛乳がすきです。