アフターダークだ
5〜6年前だったか、友人達とカラオケに行った際のこと。
基本的にいつものメンバーとカラオケに行くとレパートリーやそのセトリまでもが大凡決まっていて、それを咎める者もなく、むしろそのルーティン化されたカラオケが心地よいとも言える。仕事の付き合いで選曲に気を使う必要も無ければ、気になる異性の前だからと気を張って歌う必要も無い。その場に居る全員が互いを認め、自由な歌唱を許している。いきなりギャグマンガ日和の主題歌を歌っても皆が笑ってくれる。
この日もまた、いつもと変わらぬカラオケを楽しんでいた。
とは言え、気分を変えるスパイスも不可欠だ。自分が最近発見したり、カラオケで歌うことのなかった曲を歌うことで、慣れ親しんだ曲を歌うときとは少し違った快感を得ることが出来る。彼らとのカラオケではほぼ毎回、そういうのを披露し合うボーナスタイムが発生する。
私は確かこの時BLEACH熱が上がって居たので、そのボーナスタイムにアジカンのアフターダークを選曲した。
普段からアジカンを歌うことは珍しく無いが、その時期から“軽率にソラニンを歌うと全員死にたくなる”という理由から敬遠されていた。
私がアフターダークを予約すると場が少しざわついた。マイクを握って歌唱に集中していた友人も(おや?)と言いたげなアイコンタクトを送ってきた。
アジカンは良いんだ。お前らにも今日それを改めてアフターダークで刻み込む。今日は何か違う風が吹くと予感していた。
そんな思いで私はマイクを手に取った。
夜風が運ぶ辺りで私の体に何かしらが運ばれてきた。
街角血の匂い辺りで少しづつ体内で実体化し始めた。
ドロドロ流れる辺りでその正体の核心に迫った。
最後の 全てを奪い去る でその正体を暴いた。
そして遂に
進め と言えずに蹲ってしまった。
何故なら、腹が死ぬほど痛くなったから。
「っ、やべえ...腹痛過ぎる...」
私のマジの白い顔面と瀕死の姿に友人等は恐悦に冒され「ッカッカッカッ」と笑い転げていた。
結局数十分くらいその場に横たわり、歩けるようになると通夜のような雰囲気でカラオケ店を後にした。
この出来事から、腹痛がアフターダークと代名された。
誰かが腹痛の兆しを見せればすかさず「アフターダークだ」と言われ、ふとアフターダークを口ずさめば「それ危ないよ」と言われる。そして私はもはやアフターダークという単語で腹痛が起きそうな気がしてくるし、少し痛くなるときもある。パブロフのアフターダーク犬だ。
これを書いていたら少しお腹が痛くなってきそうなのでトイレに行きたいと思います。皆さんもアフターダークに気を付けましょう。