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イデオロギーは作れる! ②~イラン系移民3世、ゲイ、弁護士(現代アメリカ)~

この記事は「イデオロギーは作れる!」と題してお送りする、新クトゥルフ神話TRPGのPCのバックストーリー作成過程の紹介記事です。


概要はこちら
イデオロギーは作れる!~歴史系シナリオにおけるバックストーリー作成術~

前回の探索者作成例はこちら
イデオロギーは作れる! ① ~ナチスドイツ出身、過去を悔いる産科医(アメリカ、1958年)~




0. はじめに

今回作成したPCの名前は、「マハディ・ファロフザード」。こちらのシナリオ「The Big Gold Ball」に参加するにあたって作成した、イラン系アメリカ人探索者です。


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ただ今回、ほとんど脳内に元からあった引き出し中心に作ったため、第三者が見て分かる記事になるかというと……ちょっとそこは頑張って説明を書こうな……って感じです。がんばります。

先にネタバラシをしておくと、「舞台は現代アメリカ。PCはサンフランシスコのカストロ地区を拠点にしているゲイである」というプレイヤー情報があって、そこからゴリゴリ検索かけたり調べたりする形で膨らませていきました。


それでは、手順に従って、探索者の作成を行っていきましょう!
(手順自体の説明は、上記に記載したこちらの記事で行っています)





1.能力値を導き出す

ダイスを振った。この段階では、DEXが80と高めに出たな~ぐらいの印象だ。


2.バックストーリーを想像する


①舞台となる年を確認する

現代。2020年が舞台だった。2020年、シナリオへの参加が確定した時期は、コロナが世界中で流行してオリンピックが延期になり、BLMハッシュタグが大きな話題となり、といった頃合いだった。どこまで時勢を盛り込むべきか迷い、この時点では、(BLMに対して何らかの「イデオロギー/信念」を表明しているような)黒人の探索者を作ろうか、と考えていたような気がする。



②シナリオのトーン、テーマを確認する

配られた概要、およびプレイヤー情報は以下の通り。


■概要
 本シナリオは現代のアメリカ合衆国のサンフランシスコ州にあるゲイタウン、レインボータウン(カストロ地区)が舞台である。……(中略)……探索者は男性限定であり、ゲイとして作成する必要がある。また、ゲイの恋人がいることをキーパーは伝えなければならない。


■プレイヤー情報
 レインボーフラッグが多く並び立つカストロ地区はレインボータウンとも呼ばれている。探索者らはこの街を拠点にしているゲイである。ゲイバーや男娼館はもちろん、そのほかにも多くのLGBT関連の施設が存在する場所である。
 探索者は最近、恋人である“エディー・ウエスト”の睾丸が大きくなっていることを知っている。そのことについて心配をしているかもしれない。
……(中略)……
※導入はエディーとホテルにいるところから開始される。


ここで探索者がカストロ地区に拠点を置くゲイであり、エディーという恋人がいることが確定した。プレイヤー情報が事前に配られるシナリオでは、それを踏まえた上でのキャラクターメイキングをすると良いというのは、前回の記事で述べたとおりだ。なので、今回はこの「カストロ地区のゲイ」を膨らませる形でキャラクター造形をしていこうと思う。



③時代、地域、歴史を調べる

・舞台となる地域社会の特徴を確認する

カストロ地区は、カリフォルニア州サンフランシスコにある地区で、ゲイ・タウンとして、世界でおそらく最もといえるレベルで、有名な街である。私はこの街、およびカストロ通りのことを、LGBTコミュニティのシンボル的存在として知っていたが、このシナリオに参加するにあたって改めてWikipediaを眺めることにした(元が英語圏なので、当然英語Wikipediaのほうが詳しい)。

日本語:カストロ通り
英語:Castro District, San Francisco

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結果、1960年代後半~1970年代にかけて、カストロ地区は同性愛者の集う場所となってきた、ということがわかった。他にもWikipediaには色々と書いてあったが、まあそれ以前の歴史についてはあまり深追いしなくてもいいかな、と思った。探索者は導入でホテルにいるということなので、(おそらく結婚して同棲しているわけではなく)交際段階にいるぐらいの年齢で、つまり老いていても30~40歳ぐらいまでになり、それ以前の歴史は探索者には直接的には関わってこないだろうと思ったからだ。


・大きな歴史上の出来事を調べる

今回は現代アメリカ(2020年)であるので、先述したコロナ禍かBLMがアメリカでは一大ムーブメントだろう。



④探索者の出来事への関わり方を決める

コロナ禍は神話的事象ではないので絡ませるのは難しい。私は政治的要素のほうが取り扱うのは比較的得意なので、BLM要素を取り入れようか、と一度は考えた。ただこれについては、タイムリーすぎて扱いきれないのではないかもしれないという不安があった。シナリオの事前情報で提示された要素(ゲイであること)とは違う要素(人種問題)を、ごそっと組み込むことになるからだ。なので、一旦この案(BLMに対して何らかの活動をしている黒人探索者)は置いて、改めて「カストロ地区のゲイ」である方面から深堀りできないか、考えてみようと思った。

……とはいっても、である。
恋人がいるということと、カストロ地区を拠点をしているということから、ゲイであることを特に隠しては居ないだろうし、オープンリー・ゲイであるだろうというところまでは想像できた。自身がゲイであるならば、ゲイ・ライツには肯定的だろう。

でもそれだけじゃなんかもの足りないなあ。というのが正直なところである。ここでふらふらとカミングアウトの記事とかを読んだり思い出したりするなどしていくうちに、家族に対するカミングアウトが一つ当事者にとっての大きなハードルになっていることに思い至る。

……あ、そうだ、家族がガチで認めてくれない感じにしよう。

決まった。探索者の家族は探索者がゲイであることを受け入れようとしないのである。探索者は家族のことを大切に思っているが、家族からは受け入れられず、有り体な言い方をすれば、その点で心に傷を負っているのだ。

……そういえば、ゲイであることが死刑になる地域のこと知ってるな?

ということに続いて思い至り、イラン的な要素を加えてはどうかなと考えた。舞台が現代アメリカであることは指定されているので、探索者の家族はイラン出身の移民であり、今でも熱心なムスリムであることにしてはどうだろうか。うん。良さそうである。

家系的にイラン系であるという要素を盛り込むことにしたので、「黒人であり、BLMムーブメントのアクティビストである」という要素は、今回は取り扱わないことにした。


⑤年齢を決める

探索者の家系をイラン出身に設定した。

いやまあでもイランイスラーム革命と、それが親世代になるか祖父母世代になるかとか、そのあたりは数字に弱い頭で筆算をしながらなんとか確定させた。結果、祖父母が亡命一世、父母が亡命二世、探索者が三世に該当することになった。



⑥名前を決める

イラン系の名前と姓にしたかったので、「Iranian name」でグーグル検索を行い、「Top 100 Iranian names - Iran」というウェブサイトのリストからなんとなく「マハディ」という名前を選んだ。名字については「Iranian surname」で検索をかけて、それっぽい響きがある「ファロフザード」を選んだ。

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3.職業を決める

探索者はカストロ地区のゲイである。ということはまあ多分ゲイライツにはまあ肯定的になるだろう。自分のことでもあるので。人権意識高い……うーん、弁護士かな……? というぐらいのふわっと感で弁護士に決まった。まあゲイライツが本格的に活動化したのって法的保証を求める過程でもあったしね。いいのではないでしょうか。

そこからの連動して、政治的立場としてはリバタリアン(自由意思主義者)になるしかないなこりゃ! ってなったんですが、そこはあまり詳しくなかったので、ちょっと調べました。いつもお世話になっているwikipedia先生もいいんですが、今回は本棚に積んでいた有斐閣の『政治学』が良いお仕事をしてくれました。

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私はカタカナで「リバタリアン」と認識していたのですが、個人的な自由を重んじる立場というだけではなく、経済的には「保守」、社会的には「リベラル」の性格を有するそうです。

個人の自由を尊ぶ、という点については、今回は「カストロ地区のゲイである」ということに引きつけて考えると、成人のカップルであれば、相互の自由な(=強制されていない)意思によって交際が成立する、ということになりそうです。これを踏まえて、キャラクターシートには「愛は平等であり、成人の自由なむすびつきは、(性的関係であろうと、感情的なむすびつきであろうと)正当な関係であり、尊重されるべきであると考えている。」と記入しました。




4.技能を選び、技能ポイントを割り振る

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(※これはセッション終了後のスクリーンショットのため、正気度や技能値に元の値からの変動がある)

近接戦闘(格闘)や登攀、水泳を取得したのは、少々テンプレ的ではあるが、アメリカのゲイ文化における肉体美の重要性を盛り込もうとしたためだ。マハディは、精力的にジムやボルダリングに通う男性なのだ。




5.探索者に装備を与える

今回は特に思いつかなかった。
護身用ということにして、ダメージは1d10ぐらいの拳銃を1つ持ち込んだぐらいであろうか。カリフォルニアは銃が合法なので。




6.おわりに

今回はこのようにしてキャラクターおよびそのバックストーリーを作成した。


容姿の描写
イラン系のアメリカ人3世。中東系の顔立ちを色濃く残している。仕事中はアメリカ英語を話すが、気を抜いたときや同郷を相手にしているときなどは、アラビア語訛りのアメリカ英語を話す。近接戦闘、ボルダリング(登攀)、水泳などで鍛えており、体力はかなりある。

イデオロギー/信念

ゲイライツ運動の活動家。リバタリアンである。マハディは基本的にゲイ=ライツ=ムーブメントの関わりにおいて主張を行っている。愛は平等であり、成人の自由なむすびつきは、(性的関係であろうと、感情的なむすびつきであろうと)正当な関係であり、尊重されるべきであると考えている。要するに、自由恋愛を尊ぶ立場である。

重要な人々

・エディー・ウェスト(恋人)
それまであまり恋愛ごとに関心がなかったマハディに、情熱をもたらしてくれたパートナー。
・祖父母及び両親
1979年(41年前)のイラン・イスラーム革命当時の国王、モハンマド・レザー・シャーに仕えていた官僚一家。ムスリムであり、マハディとエディーの交際を断固として認めない立場。マハディからはホリデーの手紙は送ってはいるものの、返信はなく、絶縁状態にある。

意味のある場所

祖父母と両親の住む家
家族とは、当然多少の反抗期はあったものの、取り立てて問題なく暮らしていた。祖父母と両親はマハディが法曹を志したことを誇りに思っていた。しかし、これはマハディがエディーとの恋に落ちるまでの話である。
ムスリムである祖父母と両親は、マハディとエディーとの交際を断固として認めないと言い切った。マハディと家族は絶縁状態にある。マハディにとって、祖父母と両親の住む家は、帰ることのできない、しかしそれでいて懐かしい場所である。

特徴

ゲイであることを理由に、それまで仲の良かった家族から絶縁されている。マハディ自身の宗教的帰属意識も、それまではムスリムだったが、エディーへの愛情に嘘を付くわけにはいかないとして、(表立って主張はしないが)半ば棄教しつつある。
マハディは、血縁者に絶縁され、宗教的アイデンティティも揺るがされ、それでもなお恋人への愛情を選択した男である。




おわりに

今回のマハディは、そこまで考え込まず、比較的着想のまま素直にできた探索者でした。しかし、これまで見てきたように、探索者のバックストーリーを考えるにあたって、いくつか確認しておいたことがありました。そしてそれが、(詳しく言うとシナリオの楽しみをスポイルすることになるので、抽象的な話にはなりますが)セッション中での「リバタリアン〜〜〜!!」を感じるRPに繋がったのです。

マハディ・ファロフザードは、私にとって、バックストーリーを考えることを通じてキャラクターへの理解が深まった探索者であり、そしてそのバックストーリーを反映したRPを行えたという、非常に楽しい経験ができた探索者でもあります。やはり探索者のバックストーリーは考えておくとセッションそれ自体も充実させられることが多いです。とっさのときのロールプレイや、キャラクター自身の考えを掴む大いなる手がかりになります。

バックストーリーは、楽しい!

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