ADHD当事者が語る:不注意には理由がある!
日常生活の中で、ADHDの人や「ADHDに違いない」と密かに思っている人と接する機会がありますか?
そして「彼らはなぜそんな行動をとるのだろう」と感じ、イライラすることはありませんか?
ADHDの当事者として、また18年以上教育業界に関わり、多くのADHDの子どもたちと接してきた私が、その根底にある理由と本音をお伝えしていきます。
今回は、ADHDの3つの特徴である「不注意」「多動性」「衝動性」の中から、「不注意行動の特徴」に焦点を当ててお話ししていきます。
【DSM-5】9つの不注意症状
この青い本を見たことがありますか?
これは、DSM-5と呼ばれる、精神疾患の診断と統計マニュアル、第5版です。世界中の精神科医が患者さんの精神疾患や発達障害を診断するために使う診断基準が書かれています。
DSM-5では、ADHDの不注意を特徴づける症状として、以下の9つを挙げています。
全ての症状の根源とは?
上記の不注意の9項目を見て、全ての項目の根源となる「ADHDの特徴」があるなと感じました。1つは、
「退屈に耐えられない」という特質です。
ADHDは究極的に退屈な作業をすることが嫌いなのです。もう「嫌い」を通り越して「生理的にムリ」なのです。
実際私も、洗濯物を畳んでしまう作業が苦手で、できれば見てみぬふりをして放置しておきたい家事の一つです。
それでも「やる」となったら、Youtubeをお供にしないとまずできません。
何もない状態でやるなら、相当な覚悟が必要です。さもないと、身体がズシンと重くなったり、頭が痛くなったり、と本当に身体に不調が表れるほどイヤなのです。
この基本的な根源を念頭に置いていただいた上で、
「ADHDはなぜこのような行動ととってしまうのか?」一つ一つ解説していきます。
1. なぜ頻繁にケアレスミスをするの?
これも「退屈に耐えられない」という特性が関係しています。
その課題が退屈、つまらない、キライ、やりたくない、だから「早く終わらせたい」と言う気持ちから、細部に注意を払えなくなり、ミスをしてしまうのです。
ですから、退屈な作業が「やっともうすぐ終わりそう」ってところで、もうすでに次のことに気持ちが移ってしまうのです。
その結果、詰めが甘く、ケアレスミスが起こりやすくなるのです。
2. なぜ注意を維持できないの?
ADHDは好きなことにしか注意を継続できません。
集中できないのは、心から楽しんでいないからです。これは意図的ではなく、ほぼ無意識にそうなってしまうのです。
側から見たら「わがまま」に見えますよね。
3. なぜ直接話しかけられても聴いていないように見えるの?
それは、頭の中でめちゃめちゃ考えている最中だからです。
「聞いてないように見える」ので、何も考えていないで、ぼーっとしているように見えるでしょ?でも本当はその逆であることが多いです。
ADHDはいつも楽しい刺激を求めているので、基本的に人の話を聞くのがとても好きです。
しかし、ADHDは「楽しい刺激に対する探究心」が強すぎるため、あなたとの会話の中で、たまたま自分の興味のある単語が出てくると、そこから無意識のうちに、自動的に「頭の中の連想ゲーム」が始まってしまい、しばらく自分の頭の中の世界に没頭してしまうからです。
4. 指示に従わず、最後までやり遂げないのはなぜ?
指示に従わない理由はいくつかありますが、最も大きな理由は、
「その指示に本心から納得していないから」ですかね。
そして最後までやり遂げられないのは、
「エネルギー切れ」のせいです。
納得していない課題を無理に続けるには、相当なエネルギーを必要とするので、途中で疲れ切ってしまうのです。
ADHDは究極的に自分に正直すぎるところがあります。
頭では「それが大切」とわかっていても、自分が心からそれを「やりたい」と思わないと、継続してやり続けるのが結構難しい。できたとしても、人一倍エネルギーを使っているので、完遂できなかったり、異常に疲れを訴えたりします。
5. なぜADHDは「課題や活動を順序立てることが困難」なの?
これを実行機能と言います。実行機能とは、個人が自分の行動を計画、整理、制御するのに役立つ認知プロセスです。ADHDの中核的な症状の1つは、実行機能の障害と言われています。
また、いくつか課題が同時に提示された場合、全て同じくらい大切に感じてしまうので、順番がつけられないのです。全部まとめていっぺんにやろうとして結局できない、とか、いっぺんにやることに圧倒されて、何からやったら良いかわからず、結局手もつけない、ゲームなど他のことに逃げることもあります。
6. なぜ持続的な精神的努力の維持を要する課題を避けたり嫌ったりするの?
精神的努力の維持が必要な課題であっても、それが本人にとって「やる価値のあるもの」「楽しく刺激的なもの」なら、過集中で取り組みます。しばしばやめられなくなることがあります。
7. なんで必要な物を失くすの?
その理由は「常に楽しい刺激を探してしまう本能」に邪魔されるからです。
そのからくりはこうです。
どんなものでも、使い終わった瞬間は「用無し」になりますよね。
例えば、
ポテチの袋を手で開けられず、ハサミを探しているとします。この段階では、ハサミはとても価値あるモノです。
ハサミを見つけ、袋を開けました。この瞬間に、ハサミの価値は失くなり、価値は袋の中のポテチへと移行しました。価値を失ったハサミは適当なところに置かれたまま、価値あるポテチを食べます。
そのうち喉が渇いてきて、冷蔵庫から飲み物を持ってきます。価値は飲み物にも分散されていきます。もうこの時点では、ハサミは完全に忘れ去られています。
ですから、数日後に再びハサミが必要になった時に、どこに置いたかさっぱり思い出せず、見つからないのです。
8. 容易に注意が逸れるのはなぜ?
前述の通り、退屈に耐えられないため、常に何か面白そうなことを無意識に探しているからです。
9. 日常生活で、もの忘れが多いのはなぜ?
日常生活における物忘れは、常に無意識に何か面白いことを探しているために起こります。よりおもしろそうな刺激が無意識的に入ってくるので、注意力を保つことができず、もの忘れが多くなります。
まとめ:ADHD不注意の根源は「退屈=苦痛」
★「退屈=苦痛」なので、生活の中で常に、無意識のうちに刺激的なこと、面白いものを求めてしまう。そのため、何かをやっていても、面白そうなモノを見たり、思いついたりすると、すぐにそちらに意識が向かってしまうので、ミスが増えたり、課題をこなせなかったりする。
★「退屈=苦痛」なので「やらなければならない課題」や「守るべきルール」をやり通すのが難しい。
「こんなの無駄だな」「やる意味がないな」と感じたら、もう苦痛で苦痛で仕方がない。
それでも頑張ってやり通すには、かなりのエネルギーを必要とするので、すぐに疲れ果ててしまう。その結果、課題を終えることができない。
本人が納得している課題やルールさえもやり通すのが難しいのは、どんな課題でも必ず「退屈な部分」があるため、そんな時に気持ちが課題から離れてしまいやすくなってしまうから。
以上のような行動は、普通の人たちと大きく異なるので、基本的にには理解されません。社会的に不適切な人、としてみなされてしまうこともあるでしょう。
ADHDが一般的な基準に合わせようとすると、相当なストレスがかかりますから、ウツや不安障害など、二次障害を負ってしまうこともあるでしょう。