読書所感「発達障害」と言いたがる人たち 香山リカ
タイトルに惹かれて購入し、読了したので所感を書きます。
ちなみに、今回は比較的長文で、文面もかたく、わかりづらい部分もあると思います。あくまで個人的感想ですので、ご了承ください。
1章 増加する大人の発達障害
この本が出版された2018年6月で、それから7,8年ほど前(2010年ころ)から「発達障害」ではないか?と受診を希望する(特に女性)が増えてきたという。
さらに、その後の問題として、「(診察をした結果)障害が無い」と伝えると、「失望する(がっかりしたり、怒り出したりする)女性たちがいる」とも。
要は、「うまくいかないことは、発達障害のせいにしたい。心のよりどころが欲しい。」と、いうことにしたいのが理由で、受診をしているのではという。
確かに、今の時代は女性の社会進出も増え、そういった“心の問題”が増加しているという部分で、とても理解できる気がした。
2章 発達障害はなぜわかりにくいのか?
数年前、NHKのいくつかの番組で、“発達障害”が特集され、取り上げられた。(実際に私もいくつかの番組を観たり、ネットの記事を見たことがある。)
一般には広く浸透したものの、発達障害は、「生まれつきの脳の発達のアンバランス(障害)のために起こり」、「社会生活に困難が発生する障害である」という部分を「正確に、誤解の無いように理解する」必要を感じた。
発達障害の障害特性は、ある種「だれもが生活の中で経験すること」でもあり、社会生活で特性が強く目立たなければ、問題とならない。(実際に診断もつかないということ。)
ここではさらに、“医師の間でのわかりにくさ”も書かれていて、発達障害の基準(DSMなどの基準)が、時代によってかなり変更されること。
あるいは、発達障害が内視鏡や血液検査などで目で見ることができる疾患と異なるという難しさなどが書かれている。
それから、常時スタッフの介助が必要なほどの“重度の発達障害者”の話、“おとなの発達障害”の話なども書かれている。
この点は、自らの“発達障害”について考えさせられる部分でもあった。
3章 そもそも発達障害とは何か?
この章では、“発達障害は病気ではない”ことなど、「発達障害」について、細かく書かれている。具体的には「うまれつき」であり、「しつけやストレスは関係ない」こと。当然、「薬や手術で元に戻ることはない」ことなど。「ADHD」が現在の形に位置づけられるまで、なども詳しく書かれている。
4章 発達障害が活躍する時代が来る?
スマホ課金の話などは、若干ASDの特性にこじつけている感は否めないとも思えたものの、”確かに”と思われる部分もあった。
他に、驚きだったのが「ASD型ライフスタイル」という概念。
「ASD型人間」と、それをターゲットにするビジネス。
これらにも驚くと同時に、『なるほど』という納得感もあった。
5章 過剰診断という悩ましい問題
この章に書かれている通りで、私も、「発達障害専門」と標榜している病院は、診察の予約が非常にとりづらいということを承知していたので、事前に都内のクリニックを受診し、紹介状を書いてもらうことにしていた。
(しかし、それは生活上で本当に困っていたからであり、「自分も特別な脳を持つ人間と認められたい」と思ったから受診を希望したということではない。念のため。)
この章で興味深いのが、発達障害の“実際の診察の流れ”として、「丁寧コース」と「簡単コース」があるという部分。
私自身はここでいう、「丁寧コース」で診察を受け、検査を経たうえで“確定”となったが、そうではなく、ちょっと信じがたいが、「簡単コース」で確定診断を受けている人も少なからずいるそうだ。
ちなみにここでも書かれているが、“発達障害”には、他にも隠れている疾患がある可能性が高いのも事実であることから、「簡単コース」での診断は危険、とも書かれている。
また、精神科医の診察、診断の難しさや、患者と医師との関係、医療と製薬会社との関係などは非常に興味深く、目からウロコと感じた部分だった。
6章 発達障害はどこへ向かうのか?
この章ではいわゆるグレーゾーンの話も出てきた。
たしかにDSM-5では“自閉症スペクトラム”と区分されるようになり、スペクトラム=英語で連続体・分布範囲という意味であることから、どこまでが障害で、どこからが障害でないのか。という疑問が出てきたとされる。
【“ただの人”でいたくない。強烈な個性がほしい】というのは、たとえが適切かはわからないが、近年の“無名YouTuber”、“あおり運転者”などの言動からも、共通して理解できる気がするが、私自身は、”「自己顕示欲」のベクトルが変な方向に動いているだけ”な気がしてならない。
この章では他に、
・女性たちが書く“汚部屋ブログ”にちなんだ話
・1992年のダニエル・キイスのノンフィクションベストセラー
『24人のビリー・ミリガン』
(※ビリー・ミリガンは多重人格=解離性人格障害を持つ)にちなんだ話
・堀江貴文氏のホームページに記載された、堀江氏と村上世彰氏との対談
などが書かれていて、当事者の私としてもどれも非常に興味深かった。
加えて、“発達障害あるある話”と言っても過言ではない、「過去の偉人たちの話」にもすこし触れられていて、
アスペルガー障害(傾向)を持つ著名人・偉人として、スティーブン・スピルバーグ、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、エジソン、アインシュタイン、映画『シャイン』のモデルとなったピアニストのヘルフゴット、スーザンボイルなどの名が挙げられている。
あるいは、サヴァン症候群、ギフテッドのことを、“発達障害を持つ人のうち、ごく一部の側面”として、書かれていることが印象深かった。
他の部分で著者は(語弊、誤解があるかもしれないがという前置きをしたうえで)、「発達障害は、一種の流行(トレンド)」とも書いているが、確かにそう思われるふしもあると、私は納得した。
結論
1 発達障害についての知識、啓蒙をすれば「言いたがる人たち」も減るのではないか。
たとえば、発達障害だからといって特別な才能があるわけではないこと。思っているより、大変な生活を強いられている発達障害者は多いということ。(発達障害者を支える社会の基盤がまだまだ整っていない。)
2 発達障害と診断されても、されなかった人も、それを受け入れて生きるしかない。
発達障害と診断された人と同様に、されなかった(グレーゾーンと言われる)人達もまた、それを受け入れて生きていくしかない。そのためには診断が不可欠で、5章でも書かれていた通り、時間がかかっても「簡単コース」ではなく、「丁寧コース」を受けることが必要。
3 真に、発達障害を持つ人々が活躍できる社会を願う。(教育を受け、働くということ)
まやかしではなく、真に社会で活躍できるという環境を速やかに整えていくことが社会全体で求められると思っている。
今後、私自身も“当事者”として、何かできることがあれば協力していきたい。
本書内で出てきたいくつかの本をご紹介します。
ちなみに画像は読書所感的な感じ。
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