『早朝始発の殺風景』
青崎有吾さんの作品。
以下の作品が収録されている。
早朝始発の殺風景
メロンソーダ・ファクトリー
夢の国には観覧車がない
捨て猫と兄妹喧嘩
三月四日、午後二時半の密室
エピローグ
まさか殺風景という名前の高校生が出てくるとは思わなかった。学校や日常の何気ない謎が解明される。殺人や強盗などは起きないので、安心して読める本である。
「夢の国には観覧車がない」がとても印象に残っている。部活の後輩のさりげない優しさが素晴らしいと思った。
「メロンソーダ・ファクトリー」では、少し気まずい仲になりそうで嫌な話だと思ったが、真実が明らかになって良かったと思った。外見ではわからないので、こういったことに気づくのが難しいと感じた。
印象に残っている文
電車の中で微妙な知り合いに出会ってしまったときほど気まずい瞬間はない。しかも始発の車内で二人きりとか。
朝は、突然やってくるわけじゃない。夜の延長線上にある。
学園祭のクラTって、担任の似顔絵を入れたり流行りの芸人のパロディを入れたり、どうしても身内ネタに走ったものやウケを狙ったものが多くなる。それはそれで面白いのだけど、どこもかしこもそんなデザインだと食傷気味に感じるのだった。
「俺ってそんなにわかりやすかったか」「それはもう磯野家の家族構成のように」
絞り出した言葉の余韻は、煙草の副流煙みたいにいつまでもレストハウスをさまよった。
兄貴はおなかの調子が悪いのにガリガリ君を当ててしまったときみたいな、なんともいえない表情をした。
ーー勉強って、武術の修行みたいなものだと思う。日常生活のために学ぶんじゃなくて、もしものときのために学ぶんだ。悪い奴らと戦って自分や家族を守れるように。だから、日常で役に立たないのは当たり前。
「仲がいいわけでも悪いわけでもない、顔と苗字だけ知ってるって程度の、中途半端な関係のクラスメイトがたくさんいて。そんな人たちと無理に話を合わせながら三年間過ごして。窮屈で居づらくて、気まずかった。青春ってきっと、気まずさでできた密室なんだ。狭くてどこにも逃げ場のない密室」