『神楽坂のマリエ』

原宏一さんの作品。ヤッさんシリーズの2作目。

かつて神楽坂でカフェを開いたものの、経営に失敗してしまったマリエがヤッさんに弟子入りする。


ただ味の感想を伝えるのではなく、食べた感想をきちんと相手に伝える責任があるということをヤッさんから学んだ。

ヤッさんはマリエの開業資金をカンパしていて、本当に良い人だと思った。

ヤッさんは色々と先を読んで行動していて、すごいと思った。人間関係を築いていくうえで、ヤッさんのような技術を使えるような人になりたい。


印象に残っている文

「何を食べても、やわらかーい、しか言えねえようじゃ味覚音痴だと宣言してるも同然じゃねえか。肉ってもんは、ほどよい噛み心地があってこそ旨えんだ。上等のロース肉には、ねっとりした歯触りの脂の甘みがあるし、旨えヒレ肉には前歯がさくりと入っていく上質な繊維質の食感がある。ただやわらかけりゃいいんだったら綿飴でも食ってりゃいいんだっ」

「結局、古びてるのと汚えのとは天地ほども違うんだ。店が古びてるのは長年愛されてきた証拠だから仕方ねえが、汚え店なのに料理は旨い、なんてことは絶対にあり得ねえ。清潔さってのは飲食店のイロハじゃねえか。インテリアに凝る余裕があるならあるで、それはいいことだが、最も力を注ぐべきは、やっぱ、いかに清潔さを保ってるかだろが」

「そういやおやっさん、なんでこのラーメンが変わらねえ旨さなのか、今夜はちゃんと教えてやってくれねえか」と水を向けた。「それはやっぱり、あれですね。スープの取り方にしろ、麺の茹で加減にしろ、湯切りにしろ、毎日毎日、ちょっとずつでも変え続けてるからですよ」

「そういう食文化の壁をなくしていくのも、ぼくたち料理人の仕事だと思うんだ。うさぎ肉を食べる人が鯨肉を食べる人を非難していい理由なんて、どこにもないんだし」

『だからいいかい、食文化ってものは味だけじゃないの。その土地の人たちの喜びも悲しみも、日常も非日常も、思想も哲学も、歴史も社会も、全部背負ってるの。もっと言っちゃえば、人間の尊厳にまで関わってくる大事なものなの。だから、安易に非難したり、腐したり、笑い飛ばしたりしちゃダメ。慎重すぎるほど慎重に、敬意をもって接しないとね』

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