『昨夜のカレー、明日のパン』
木皿泉さんの作品。
病気で夫の一樹を亡くしたテツコと、一樹の父親〈ギフ〉の心温まる物語。
岩井さんの砂漠に置いてかれたエピソードが強烈すぎて驚いた。
パワースポットにすがるのではなく、自分たちで作ってしまうという発想には驚いた。
虎尾がカーセックスの妄想をしてしまい、自分だけ電車で帰った話が面白かった。
折り紙で天の川を作れる夕子がすごいと思った。
登場人物の中で岩井さんが一番好きだ。
印象に残っている文
「自分には、この人間関係しかないとか、この場所しかないとか、この仕事しかないとかそう思い込んでしまったら、たとえ、ひどい目にあわされても、そこから逃げるという発想を持てない。呪いにかけられたようなものだな。逃げられないようにする呪文があるのなら、それを解き放つ呪文も、この世には同じ数だけあると思うんだけどねぇ」
街は、もう自分の馴染みの場所ではなかった。かつて自分は街の一部ですらあったはずなのに、今はまるで関係のない、CGでつくったセットの中をさまよっているようだった。
「死んだら星になるって言うでしょ? あれ、ボク、信じられないンですよね」中略「でも、本当にそうだったらいいのにね。星になって見ててくれたら、それだけで、救われる部分はあるよね」
「卵が一番うまくおさまるのは、桐の箱でもなきゃ、チタンのスーツケースでもない。プラスチックの卵ケースなんだよ」
深津は、「オレ、元坊主」と自分のことを指さした。「脱サラじゃなくて、脱テラですか?」テツコが言うと、「そう、脱テラ」と元坊主は嬉しそうに繰り返した。
そーなのだ。墓もラブホもよく似ている。もったいぶったラッピングをほどこしたプレゼントを開けてみたら、とっても実用的な、例えば耳掻きみないなのが入っていた、みたいな感じた、と虎尾は思った。
特に母がよく使っていたものは、その持ち主がいなくなったというだけで、茶碗も、鏡台も、イスも、そのイスに敷かれていた座布団も、かつては、生き生きとそこにあったはずのものが、誰も行かない博物館にひっそりと置かれているようなものになってしまった。