『ラストラン』
角野栄子さんの作品。角野さんの作品は初めて読む。
74歳のイコは「残された人生でやっておきたいこと」として、バイクのツーリングを選んだ。
もしバイクで走るイコさんとすれ違ったら、カッコいいと感じると思う。
幽霊も悩みを抱えていると知り、親近感が湧いた。
幽霊の道夫の願いが印象に残っている。
イコさんが同級生と建物の裏階段で会ってたときに、お互いの手を握るだけという行為が素敵だと感じた。
印象に残っている文
ゆっくりと、少しずつなにかが私から消えていく。それは確かだ。でも人が歩む道って、いろいろあって曲がりに曲がったとしても、だんだんと細くなって、いつの間にか見えなくなってる、そういう形をしているものなのじゃないの。
もう一度、バイクで思いっ切り走りたい! 風をまともに受けて、走りたい! 自分が道か、道が自分かわからなくなるような、あの不思議な一体感をあじわってみたい。
「前略 昆虫はね、生きる時間が短いから、心残りのかたまりでしょ。だから元気なうちはやたら走り回りたいんじゃないの。あせってるんだ」
ふーちゃんは死を、顔洗うみたいに軽く口にする。
「かんがえすぎると、ややっこしいね。イコちゃん。ゆうれいって、なんでも出来るように見えるでしょ。でも本当はできないことばっかりなんだから。こんなふうに透き通って、自分でも、自分がいるような、いないような心ぼそいのよ」
ゆうれいに未練はつきものとしても、その原因はいつも過ぎてしまったところにある。いくらただをこねたって、時間はもどすわけにはいかないのだ。ゆうれいにゆるされている自由は、納得するか、あきらめるしかないのに。
「リンゴって、まんまるで、嘘がない形してて、だいじなことがぱんぱんにつまってる、それがすてきでしょ」
「でもね、このドキドキした気持ちって、かなしいだけじゃなかった。こんなあたしでもわくわく嬉しい気持ち感じた。好きになるって、嬉しいね」「そうね、幸せなことよね。心がときめくなんて。生きてる人でもみんなが、みんなそういうわけにはいかないもの」