『或る女』
有島武郎の作品。
早月葉子という女性が主人公である。
実話をもとにした作品だとは知らなかった。
不倫は当時の社会で姦通罪とされていたため、ある程度立場のある倉地はよくそのようなことができたと思った。いくら葉子が美しかったとしても、自分だったらそのようなことはできないと思った。
倉地のことを当初嫌いだと言っていたにも関わらず、葉子は倉地と恋仲になっていてプライドが高いのかなと感じた。
葉子が倉地の手を噛んだ場面がとても印象に残っている。
印象に残っている文
こう云う事が屹度あると思ったからこそ、乗り込む時もそう云おうとしたのだのに、気が利かないっちゃないと思うと、近頃になく起きぬけから冴え冴えしていた気分が、沈みかけた秋の日のように陰ったり滅入ったりし出して、冷たい血がポンプにでもかけられたように脳の透間という透間をかたく閉ざした。
始めてアダムを見たイブのように葉子はまじまじと珍らしくもない筈の一人の男を見やった。
「お初に(と云って一寸頭を下げた)二人とも美しいねえ」
神がかりに遇った人が神から見放された時のように、葉子は深い肉体の疲労を感じて、寝床の上に打伏さってしまった。