『思い出は満たされないまま』

乾緑郎さんの作品。ある団地に住む人々の物語。


元レスラーの話と、溜池で釣りをする老人との交流の話が特に好きだ。

「サンタフェの奇跡」が文中で挙げられていたので、画像を見てみた。本当にこの階段を使って大丈夫なのか、心配になった。

団地の役員というのは、とても大変そうな仕事だと感じた。

ルイスキャロルが『不思議の国のアリス』を作ったきっかけを知らなかったので、勉強になった。


印象に残っている文

「こういうことは、若い人にお願いするのがいいと思うな」やっぱりだ。年寄りは提案するだけして、実際にやるのは若い人、というわけだ。

ささやかな希望というのは、本当にたちが悪い。パンドラの箱が開かれ、災いが解き放たれた時、箱には「希望」が残されていたというが、あらゆる災いが閉じ込められていたという箱に、何故、「希望」が入っていたのかを、少し考えてみるべきなのだ。

「グッド・レスラーの条件って何だと思う?」中略「必要なのは、人に見せるべき『何か』を内に秘めているかどうかさ」

「ダーガーの場合は、たまたま発見されて世に出たけど、そうやって人目に触れないまま消えていった小説って、けっこうあるんじゃないかな。『不思議の国のアリス』だって、そもそも数学者だったキャロルが、アリスって名前の知り合いの女の子の気を引くためだけに書かれた小説だっていうぜ」

「一級建築士的な立場で言うと、実在しているものを、物理的にあり得ないなんて言うのはナンセンスなんだ。だが、理論上では可能であるということと、それを実際に作ってしまうというのは、わけが違う。例えば、理論上は時間移動が可能であっても、それでタイムマシンが作れるわけではないのと一緒だ。実物を見ないことには、どうも解せない……」


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