『二歩前を歩く』

石持浅海さんの作品。

一歩ずつ進む、二歩前を歩く、四方八方、五ヵ月前から、ナナカマド、九尾の狐の6つの話が収録されている。

スリッパが勝手に移動する、歩いてると人から避けられる、浴室の電気が勝手に点くなどの謎を、研究所で働く小泉が解決していく物語である。


「一歩ずつ進む」では、さまざまな検証を重ねるシーンが理系らしいと感じた。

「二歩前を歩く」では、もし自分がその状況に置かれたら、絶対周りの人に相談するだろうと思った。

「五ヵ月前から」では、切ない結末になったと感じた。

「九尾の狐」が一番印象に残っている。最後がとても良かった。

印象に残っている文

「独身男の部屋に、何も期待してないよ」

「理系だからこそ、現代科学でわかっていないことは山ほどあることを知っている。だから文系の連中よりも、はるかに超常現象を肯定する心理的傾向があると思う。事務屋さんはどんな超常現象を目の当たりにしても、ちゃんと理屈をつけて説明できなければ処理できない。だから報告書では目撃者の勘違いと断定するか、現象そのものをなかったことにしてしまう。そうしなければ、報告書そのものの信憑性が疑われるから。理系の技術者は違う。報告書には『この現象は、まだ説明できない』と書けば済む。現象そのものを否定することはない」

「今この瞬間に、僕の背後には何もいないでしょう。だいたい、いたら会社でも大騒ぎになりますよ」「そりゃそうだ」答えながら、わざと僕の肩越しに視線をやる。軽く会釈した。「はじめまして」

「うん。このために買った。たいして高い物じゃなかったし、真相を知りたかったから」さすがは自分の金を自分一人で使える独身者ーーこの男にしては珍しく、考えていることが丸わかりの顔をした。

会社には、嫌な奴やひどい奴もいる。中には、同じ会社にいるのが恥ずかしくなるくらいの人間さえいるのだ。しかし小泉は、会社にこの人がいてよかったと思わせるタイプだった。


いいなと思ったら応援しよう!