『イノセント・ツーリング』

湊ナオさんの作品。湊ナオさんの本を読むのは初めてだ。
朋美は二十歳の頃に親友の瑞穂と一緒に熊野のツーリングへ行った。十年ほどして、瑞穂は残念ながら亡くなってしまった。
朋美はふとしたことから、瑞穂の夫と息子とともに熊野のツーリングに再び行くことになる。

紀伊半島はまだ人生で一度も行ったことがないので、いつか行ってみたい。本州最南端の地で写真を撮ってみたいと感じた。
未来の自分に向けた手紙を預かるライダーハウスというのが素敵だと思った。
最後に、お互いに取り決めた爆竹の暗号が使われたのが嬉しかった。
コロナ禍で溜まってしまったストレスを発散できるのは、このような自然を味わう行為なのだと思った。

印象に残っている文

ただ、ランドナーという自転車は、そこに有るだけで勝手に語ってしまうのだ。私の持ち主は旅というものを愛する人種ですと。

チューターというのは生徒たちの利害にほとんど関係しない愉快な共通のネタ元であって、特段人気があるわけでもない自分のようなチューターのちょっとした発言でさえ、場合によっては雑談のネタとして拡散される。

あっけない死を間近で見てしまうと、悔いのないように生きようと強く思い願う。そして、そう思っていたのに時間が経つうちに忘れ、忘れていたのにまた思い出すような出来事が押し寄せてくる。

「意味を考えるより、まず行為することそのものが大事なんじゃないかな」

「だいたい今の日本って、中央値にいない、違うポイントにいるひとを珍しがったり、話題にしたりしすぎだよね?」

生徒たちに聞こえている音が聞こえなくなることそのものは、怖くない。怖いのは、そんなことがあるかもしれないと生徒の言葉に耳をかたむけ、その差をおもしろがって楽しむ自分自身の幼さを失うことだ。時間がないからと、そんな話をおもしろがる自分を忘れ、仕事で両手をいっぱいにし、話しかける生徒にも気づかずに廊下を一気に駆け抜けてしまうことだ。

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