『告白の余白』
下村敦史さんの作品。
英二の双子の兄の英一は、土地を生前贈与してくれと両親に頼んだ後、自殺してしまった。英二は兄の死の真相を探るため、京都に行き兄になりすます。
葵祭の主役となる斎王代という制度が興味深いと感じた。
京都の知識について知らないことが多かったので、とても勉強になった。
自分と似た顔の人がいたら、どんな気持ちになるのか想像がつかない。
物語の終盤、英二が観光客の舞妓を見分けた場面を読んで、成長したなと感じた。
印象に残っている文
二十代後半だろうか。滲み出る大人の色香を、ぴっちりと着こなしている控えめな柄の着物がほどよく抑え込んでいた。大和撫子という表現が適切で、一月の寒い季節にもかかわらず、桜が咲いたような華やかさがあった。
踵を返した彼女からは、まるで看板を裏向けるかのような有無を言わせぬ拒絶を感じた。
高知の女性はしっかり者で気が強く、“はちきん”ーー金玉が八つある。男四人分働くーーと言われるほどだ。
彼女と一緒にいれば、腕時計から目を離せない多忙なビジネスマンでも、仕事を忘れてリラックスした時間をすごせるだろう。
「ちゃうよ。お饅頭屋は、一般家庭で気軽に食べられるお饅頭やお団子を売ってるお店で、和菓子屋は伝統と格式がある老舗。昔から朝廷に献上したりする和菓子を作ってたって誇りがあるから、一緒にしたら怒られんで。『京福堂』はお茶席用の茶席菓だけやなくて、茶道の家元さんとか大寺院がお得意様やし、御所にも献上してるんやから、値段も全然ちゃうし」
「おかあさんは舞妓の面倒を全部見なあかん。一人が一人前になるまで三千万はかかんねん」
座敷では、客が高野参りーートイレに立つことーーのときは、芸舞妓が廊下を案内し、ドアを開け、入り口で脱いだスリッパもさっと揃える。常に客を気持ちよくもてなすのが芸舞妓だった。
「芸舞妓の世界には『無言参り』いうものがあるんどす。毎夜一回七日間無言でお参りできたら、願いが叶うと言われているんどす。途中で誰かと言葉を交わしてしもうたら、置屋からやり直さなあきまへんさかい、人目を避けて……」