『メグル』
乾ルカさんの作品。以下の話が収録されている。
ヒカレル、モドル、アタエル、タベル、メグル
大学職員のユウキさんが紹介するアルバイトに参加した5人の学生の話である。
物語の中に出てくる不思議な力が印象的だ。「もしかしたら現実にもあるかも…」と思わせるような能力だった。
「モドル」と「タベル」の話が好きである。
「モドル」では、母親の指輪が無事に見つかってよかった。
ユウキさんのことも徐々に分かっていって、面白かった。
印象に残っている文
「最初はお湯を湯飲みに入れるんだ。その湯を次に急須に移す。そうすると急須も湯飲みも温まって、お湯は緑茶を淹れるのに適当な温度に下がるんだよ……」
不快指数九十七パーセントの日でも、汗一つかかないような肌。
父と二人きりでいることに耐えられなかった飯島は、学生の言い訳番付筆頭である『勉強』を口実にして図書館へ行った。
「でもさ、食事は必ず家族皆で食べるのが決まりだった。弁当も仲間とつるんで馬鹿話しながら食った。オフクロはいつも言ってた。食事のときだけは、楽しい話をしろって。そうやって笑いながら食うとさ、どんな飯でも結構うまいんだ。おかずが塩鮭しかなくても、飯、ガンガン進むんだ」
エレンタールーーそれは消火をほとんど必要としない高カロリー成分栄養剤の名前だった。そしてその名前に必ずといっていいほど併記されている病名が『クローン病』。
どんな美味しいものでも、たった一人で食べたら味気ない。
ーー私がいなくても、きっと誰がいなくなっても、季節は当たり前にめぐる。今日みたいに心地よい日が必ずくる。空は高く晴れて、風は爽やかにそよいで、花たちはきれいに咲いて。ーーそれってすごく素敵だと思わない?