『傷跡のメッセージ』

知念実希人さんの作品。

亡くなった父の遺言に従い遺体を解剖すると、胃の内壁に暗号が見つかった。その一方で、28年前の連続殺人事件と酷似した事件が発生する。


千早が父親の病理解剖に立ち会う姿を見て、自分だったらできないと感じた。

桜井の鋭さに驚いた。

紫織の母親と祖父がなった家族性高コレステロール血性という疾患を、初めて知った。

印象に残っている文

検査や手術によって採取された細胞を観察する病理診断は、臨床の現場ではとても重要だ。とくに腫瘍に対しては、それが良性のものか、それとも悪性、つまりは『癌』と呼ばれるものなのかは、病理医が腫瘍細胞を顕微鏡で観察して判定を下す。そのため病理医は『ドクターズ・ドクター(医師の中の医師)』とも呼ばれていた。

癌患者、とくに末期まで癌が進行している患者はいつ急変して命を落としてもおかしくない。それは癌治療に携わる者の常識だ。

「汚れや匂いなんて、クリーニングに出せば済むことです。ご遺体に最大限の敬意を払うなら、できるだけフォーマルな服装で臨む。それが私のスタイルです」

特別捜査本部の第一回捜査会議において、事件内容の説明をするのは所轄署刑事課長の仕事だ。しかし、所轄署にとって自らの署に特捜本部が設置されることなど、数年に一回程度の出来事で慣れてはいない。

捜査本部が設置されてからの二十一日間は、『一期』と呼ばれ、捜査員の大部分は武道場で寝泊まりする。そこで食事をしたり、酒を飲んだりしながら、お互いが得た情報をやり取りするのだ。

「ねえ、陣内さん。あなたの目ね、まだ太陽が出て明るいのに瞳孔が全開なんですよ。だからまぶしくて、さっきから目を細めているんでしょ。シャブをやると、そうなるんですよ。後略」

家族性高コレステロール血症。悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールが異常に増加する遺伝性の疾患。その患者は適切な治療を受けなければ、若いうちに狭心症や心筋梗塞を起こすことが多い。

「お言葉ですが有賀さん、私は癌細胞なんかじゃありません。ちゃんと、みんなと同じ方向を見ていますよ。なんとしてもホシを挙げて、ホトケの無念を晴らすという方向をね」

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