『若桜鉄道うぐいす駅』

門井慶喜さんの作品。

鳥取県にあるうぐいす駅の取り壊しに賛成派の村長と、反対派の名誉教授。村長の孫である涼太は2人からうぐいす駅の歴史の改ざんを頼まれ、板挟みとなってしまう。


表紙の絵で作者の名前が表示されているのが、とても良いと思った。

涼太は2人に頼まれてからすぐにうぐいす駅へ行ったので、フットワークが軽いと感じた。

涼太の先を見通す力がすごいと感じた。「負けるが勝ち」という言葉が合っていると思う。


印象に残っている文

ふだんはテレビと井戸端会議と孫からの電話のほかに何の娯楽もないこの村にとつぜん騒ぎがもちあがったんで、おそろしさ半分、おもしろさ半分でわざわざ見に来た住民たちだった。

どこの局のアナウンサーも、前もって談合したみたいに「無言の帰宅」「しめやかに」「沈痛なおももち」の三つのキーワードを使いきり、一瞬間を置いてから次のニュースを読みはじめた。

好きな女の子に自分史をほめられるのは照れくさい。その女の子が年下なら、なおさらだ。

われらが鶯村のいちばんの観光資源は、ほかでもない、このゆっくり流れる時間そのものなんだ。

私はだんだん切迫してきた。息がせわしくなって、下腹部に何かが集まって、足の先がしびれて、あやうく悠花ちゃんの小さな口のなかへ雄大なる天の川をほとばしらせるところだったんだ。

透明な液体をみたした逆三角形のグラスに夜景の光がうつりこんだ。美しいことは美しいけれど、東京っていう巨大な生物をそっくりホルマリン漬けの標本にしたようにも見える。

お通夜というのは、ウィットを競う場ではない。どれほど人とおなじ発言ができるか、どれほど没個性的にふるまえるかが問われる場だ。

人の群れは、理では動かない。情で動く。私はこの選挙を通じて、そのことを嫌っていうほど学んだんだ。

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