『連鎖犯』

生馬直樹さんの作品。

凜と翔はある日、夜にコンビニへ出かけたところを謎の人物に誘拐されてしまう。


凜と翔が保護されたとき、「あれ?」と感じた。見つかるのが早くないかと思った。

2人を誘拐した犯人が、とても意外な人だった。

児童養護施設の職員の現状を聞いて、少し悲しくなった。

周りの大人のエゴが見えて、嫌な気分になった。


印象に残っている文

吸い込んだ夜気は少しひんやりとしていて、甘いシャーベットの味がした。

瞬間、なぜか凜の胸がざわついた。カラスが黒い羽根をひとつ、わざと落としていったかのような不安が広がる。

「私の母も低所得のシングルマザーだったから、いろいろと不足した環境の中で育ちました。栄養とか学習資源とか、気を休める場所だってろくになかった。働きづめの母のストレスといったら、そりゃあ半端なくて、虐待もネグレクトも経験したなあ。子供のころはひたすら我慢の日々で、その環境が自分の能力にどう影響するか考えもしなかった。」

「たとえば教科書が買えない、病気になっても医師に診てもらうお金がない、働きづめの親と話す時間がない、テレビやゲームなどの娯楽もないーー。本当にお金のない家庭で育つって、そういうことなんですよ。ぜんぶ一緒くたにして、貧乏を言い訳にするな、落ちぶれたのは努力が足りないからだ、と論ずるのは強者の理屈でしかないと思う」

「きっと、刑事さんにもありますよ」「何がです?」「恵まれた人たちだけが持つ、心ない刃」

人が生きるうえで心の豊かさというのは、とても大切なことだと思う。愛、夢、希望、娯楽、安心ーー。お金がない、ということが直接、それらの豊かさを奪うとは思わないけれど、それでもこの社会が、経済的貧困によって「心の貧しさ」を生み出すような仕組みになっていることは否めない。

「たとえば、わたしたちが何かを伝えようとしても、マスコミを通しちゃったら、ただの不幸自慢にしかならないと思うんです。不幸な人がたくさんいる世の中で、そんなことをしたって、なんの意味もないから。本当に知ってほしいのは、わたしたちのことじゃないし」

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