『あなたはここにいなくとも』

町田そのこさんの作品。以下の話が収録されている。

おつやのよる、ばばあのマーチ、入道雲が生まれるころ、くろい穴、先を生くひと

「くろい穴」と「先を生くひと」が好きな話である。真淵さんはとてもずるい人だなと感じた。

栗の渋川煮というのは食べたことがないので、今度食べてみたいと感じた。

「先を生くひと」の藍生は、良い人だと感じた。澪さんの今までの人生を知ると可哀想だと思ったが、澪さん自身は人生の引き際にきちんと向き合っていて、素晴らしいと思った。特に澪さんが自分の家のものを整理する場面が印象に残っている。

印象に残っている文

「清陽の言葉やしぐさ、考え方の端々にあのひとたちがおるんや。パーツみたいなもんかな。おれはそういうパーツでできた清陽が好きやねん。やから、たとえ嫌なことや呆れることがあっても、でもこのひとのどこかにおれの好きな部分も絶対あるんやなあって考えるようにするだけ。それだけや」

ミルに豆を入れて、挽く。豆を挽くのは、わりと好きだ。無心でいられるから。

「女は、ってこれまでの人生で何度言われたか分かんない。小さなころは大人たちから。大人になってからは、いろんなひとから。女はこんなに学歴はいらない。女はもっと男を立てろ。」

泣いている音もあれば、しあわせを思い出す音もある。そしてきっと、やさしさを繋ぐ音もある。

ひとと繋がりを築くというのは、トランプで精巧なタワーを作るのに似ていると思う。常に緊張感を強いられ、維持するのにも注意を払わなければいけない。

己の手で捨てた思い出を掻き集めてかたちにする姿がどうしても自分自身と重なって見えて、なんて虚しいのだろうと思ってしまった。手放したものをちぎった新聞紙で絵に変えて眺めることに、どんな幸福があったというのか。

日曜日の朝が晴れているというのは、嫌なものだ。外に出て早く何かしなくてはいけないのではないかと無駄に気忙しくなってしまう。

「姪の孫と書いて、てっそん。澪さんのお兄さんが、あたしの祖父なの。そういう関係を姪孫と呼ぶんだ」

「菜摘も、覚えておきなさい。あなたたちは、可能性に溢れているのよ。恋も、友情も、夢も、何もかもがこれからなの。そして、どんなことだってできる。最初から諦めなければいけないことなんてない。絶望しないといけない障害なんてない。だから何ひとつ、憂うことはない。後悔しないように、それだけを忘れなければいい。もちろん、大変なことがたくさんあるでしょう。頑張ったからって成果がでないこともある。でも、どんなに辛いことや哀しいことがあったとしても、大丈夫。やっぱり憂うことはないの。だって、きっといつか、何もかもを穏やかに眺められる日が来る。ありのままを受け止めて、自分なりに頑張ったんだからいいじゃないって言える自分が、遠い未来にきっといる。私は後悔をたくさん残してしまったけど、たらればに思い悩んできたけれど、いまは、ここまで生き抜いてきた自分のことを褒めたい。あんたなりにやったじゃない、って思ってる。だから大丈夫よ。この私が、保証する」

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