『世界のすべてのさよなら』

白岩玄さんの作品。

美大の同級生だった悠と瑛一と翠と竜平の4人。それぞれの視点から物語が進んでいく。


竜平がバーの男から持っていたキーホルダーのことを聞かれて、「拾ったんです」と答えた場面が印象に残っている。

瑛一のように一見聞き上手で悩みもなさそうな人が、実は周りをうまく頼れていないというのが意外だった。

悠が墓参りに行くシーンが「めぞん一刻」みたいだと感じた。

翠がプレゼントしたタバコを見てみたいと感じた。


印象に残っている文

新入社員のときも相当時間がない日々を送っていた記憶があるけれど、今の方が三倍くらい忙しい。それでも体はいつのまにかこのペースに順応しているし、負担のかかった重いペダルを漕ぎ続けることができるようになっている。でも、だからといって決して仕事ができるようになったわけではなかった。エアロバイクで八年間鍛えれば誰だって脚が太くなるように、ただ昔よりは少しだけ足腰が強くなっただけのことだ。

バカみたいな言い方かもしれないが、自分の大切な人が笑うという以上の幸せな空気の震えを俺は知らない。

美和子は俺に気を遣って前向きなことを言っているわけではなさそうだった。でも少し追い立ててしまったのかなと自分のしたことを反省する。美和子の心の柔らかいところに土足で上がって勝手に掃除をしてしまった感じがした。

「うーん、良くも悪くも、そういう生き方しかできないっていうのが大きいと思うんだよね。なんていうか、その人にとっては、それが必要なパーツみたいなものなんじゃないのかな。そのパーツがないと、自分っていう人間がうまく成り立たないっていうようなさ」

いい具合に薄暗かった部屋の電気をいきなり点けられたような気分だった。

カメレオンの尻尾は「第五の足」とも言われ、木の枝に巻き付けて体のバランスを取るのに使われるため、損傷すると生活に支障をきたし、最悪の場合死んでしまうこともあるそうだ。

「……翠の言う通りだよ。でも僕は昔から人を頼るのが苦手なんだ。だから今も話したい気持ちはあるけど、どういうふうに話せばいいのかがわからない。本当のことを言おうとすると、自分っていう人間が崩れて元に戻らなくなるような気がするんだよ」

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