『夫の彼女』
垣谷美雨さんの作品。
夫が会社の部下の星見と不倫をしているのではないか。そう疑った妻の菱子は星見に会いに行き、口論となる。その場に現れた謎の老婆の魔法で、菱子と星見の体が入れ替わってしまう。
PTAの会合の結末が爽快だった。相手の立場にならないとわからないことがたくさんある。菱子と星見は生まれた環境が異なるので、最初は互いのことを理解できなかったと思う。相手の視点に立つということがどれだけ難しいかということを学んだ。夫が良い人だったので安心したと同時に、営業に対する向き合い方や家族のことを思うセリフが素晴らしいと思った。
印象に残っている文
夫と子供たちが出かけたあとが、一日の中で最もくつろげる時間帯だ。
「でもね、離婚して初めてわかったよ。大切なのは心じゃなくてお金だってこと。お金のない暮らしがどんなに惨めか、生まれて初めて思い知った」
「はいはい。将来、将来って、大人はその言葉が本当に好きだよね」
男は中年にもなると、若い女でありさえすれば、こんなにも下品で無教養な女でもいいと思うようになるものなのだろうか。
「営業っていうのはな、相手の劣等感を刺激したら終わりなんだよ。」
「ざけんなよ。勇気がないんじゃなくて、あんたはただ単に卑怯者なんだよ」
母親というのは、自分の子育てを振り返っては反省し、後悔し、一生涯その罪を背負って生きていくものなのだと思う。だけど、振り返ってばかりでは自滅してしまう。
でも、なんかわかる気がした。悲しみや怒りや寂しさで心はいっぱいなんだろうと思う。じっと耐えてきたけど、許容量を超えて溢れ出ちゃったんだよ、きっと。
「そりゃどんな人間でも、長年サラリーマンやってりゃ変わるさ。会社で揉まれ続けてれば強くもなるし、ずる賢くもなる。きれいごとなんて言ってられないよ。それに、大抵の男は、いざとなれば妻子のために汚い手を使うもんだよ」