『カーテンコール!』

加納朋子さんの作品。

加納さんの作品は初めて読む。

経営難で閉校する女子大を卒業できなかった学生が、半年間の特別補講合宿に参加することになる。

砂糖壺は空っぽ、萌木の山の眠り姫、永遠のピエタ、鏡のジェミニ、プリマドンナの休日、ワンダフル・フラワーズの6つの話が収録されている。


桃花が主人公の「砂糖壺は空っぽ」が一番印象に残っている話だ。

もし自分がナルコレプシーになったら、地面に硬いものがないかどうか気をつけないと倒れた時に大変だと感じた。

角田理事長はなんて素敵な人なんだと感じた。女学生たちはみんな幸せだと思う。



印象に残っている文

授業はパサパサに乾いたパンで、ひたすらじっと座っていればいいから、それは特にどうということはない。指名されたときに余計な注目を浴びないよう、無難にやり過ごすために多少の予習を欠かさなければいい。問題は、多すぎるマスタードみたいな休み時間だった。

尊敬と畏怖と憧れと、その他色々複雑な思いをこねて丸めた僕の感情は、どうした化学反応を起こしたか、いつの間にか〈恋〉と呼ぶしかないものに変化していた。そうと自覚したとき、僕はうろたえ、悩んだ。どうしていいか、わからなかった。

感情が、ごく素直に表に出てくるタイプだから、僕としては非常にありがたかった。まるでおでこにお天気マークを常に表示しているみたいな子だったから。

騒音は卵の殻を破るように私に突き刺さり、崩れた中身がどろりとこぼれ出す。布団の上に残るのは私の姿をした抜け殻で、本体はアメーバみたいになって布団に染みこんでいる。

遅刻魔は。色んな物を無くす。信用とか友達とか大学の単位とか。だから将来の夢さえ無くす。いつも慌てていて、時間もない。余裕もない。だから身だしなみもどんどん適当になっていき、女の子としての自信もないから、彼氏を作ろうなんて気も無くす。

「いいですか、梨木さん。診断がつくことは、遅刻のお墨付きをもらったわけじゃないんですよ。そこのところは、はき違えないようにして下さい。人間の身体は、自分である程度はコントロールできます。たとえば、動きの悪くなってしまった機械があるとしますね。もちろん、素人にはどうしようもない故障もあるでしょう。けれど多くの場合、ゆるんだネジを締め直したり、部品の間にたまった埃や詰まったゴミを取り除いて、ちょいと油を差してやりさえすれば、また快適に動きだしたりするものです。そういう最低限のメンテナンスもせずに、この機械はもう駄目ですなんて簡単に匙を投げるのは、そりゃ怠慢というものでしょう」

結局あのくすくす女たちは、自分たちの価値観が最上級だと信じていて、そこから外れる人間が許せないのだろう。いい方にも、駄目な方にも。いや、それだけじゃないか。他者を必要以上に攻撃する人間は、実は臆病なのだと聞いたことがある。自分の地位や価値観が脅かされるのを恐れているのだ。だからそうならないよう、先制攻撃をする。『蜘蛛の糸』で、群がってくる罪人どもを蹴落とさずにはいられないカンダタくらいに、必死だ。

人とは勝手なものだ。他人のことなら、駄目なところ、異常なところがすごくよく目につくし、「それじゃ駄目だよ」と言いたくなる。それが、我が事となったとたんに、実に都合良く見えなくなってしまう。

父は努力教の信者だ。人間真面目にコツコツ努力しさえすれば、まず大抵の願いは叶うと信じている。父にとって、目標に到達できなかった者、低い位置に甘んじている者は、己を高める努力を放棄した、唾棄すべき人間なのだ。

「ハイネも言っていましたよ」いっそ朗らかに、理事長は言った。「死ぬことに次いで、眠ることは良い、とね。さあ、その素敵な睡眠を、むさぼるとしましょう」

「前略 未曾有の災害の時に、気象庁は言いますよね。命を守る行動をして下さい、と。ここで私があなた方に伝えておきたいのも、そういうことです。もう駄目だ、耐えられないと思った時、自分の足で逃げられる力を、今のうちに育てて下さい。そして、自分の言葉で、直接『助けて』と言える人を探して下さい。我と我が身を救うための、知恵と勇気を身につけて下さい。私はあなた方に、なによりもそれを望みます。ーー以上、ご清聴ありがとうございました」

「前略 最後に、あなた方の背後に並び咲く、ひまわりの花言葉を捧げます。ついこの間、うちの妻から聞いたんですがね。『あなたは素晴らしい』あなた方は、素晴らしい。過酷な灼熱の太陽の下で、すっくと天を仰ぐ大輪の花のように、とてもとても素晴らしい。これは魔法の呪文です。これから先、何か困難に出会ったとき、自己嫌悪に陥ったとき、そっとつぶやいてみて下さい。『私は素晴らしい』と。そしてどうかひまわりのように、常に明るい方、暖かい方を目指して進んで下さい。そうすれば、そんなに大きく間違えたりはしませんから。あなた方という、素晴らしい花たちと、学園最後の日を迎えられたことを、私は心より誇りに思います」


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