『たわごとレジデンス』 佐平荘具 2023年12月24日 17:39 原宏一さんの作品。介護付きの高級マンションを舞台にした短編集である。ジムでスポーツは悪だと語る老人の言い分がとても興味深かった。特に怖いと思ったのが、「奈落のリビング」である。自分がもしそのような状況に陥ったら嫌であるのと、真相をすべて明かされたときの心理を考えると絶望しか残らないと思う。大変そうな管理組合の話を読むと、管理組合の役員にはなりたくないと思ってしまう。印象に残っている文「そう、理不尽な怒りが渦巻いてる高齢者に反論したり、問い返したり、なだめたり、あるいは怒りに同調したりするのはご法度だ。理不尽なことを言われても、そうなんですが、勉強になります、と否定も肯定もしない。相槌を打ちながら頃合いを見て、では、そろそろつぎのトレーニングに、とさりげなく場面転換する。シニアの健康のために健気に業務に打ち込む若者を演じて、いなすわけだ」「陰謀論を唱える人って、自説を否定されると自分自身も否定されたように感じるわけ。だから陰謀論自体は否定せず、陰謀論を振りかざす人の内面にも潜んでいるストレスに目を向けたほうがいいと思う」この国の選挙は民主主義でも何でもなく、いかに多くの有力者や支援者と太いパイプを繋ぐかで勝負が決まる。その接着剤となるのが裏金だ。脳梗塞や脳腫瘍などが原因で発症する閉じ込め症候群は、意識はクリアで視覚、聴覚、痛覚も正常なのに、四肢麻痺や顔面神経麻痺などによって体が動かせず言葉も発せない特徴があるという。言葉を選ばずに言えば、シニアとの付き合いほど面倒臭いものはない。その人物の好い部分も悪い部分も、突出した部分も劣化した部分も、温かい部分も冷たい部分も、やたらデフォルメされて突きつけられるストレスたるや生半可ではない。近頃はあまり使わないが“シャンシャン総会”という株主総会に端を発する言葉がある。ろくに議論もしないで形式的に議事を進行し、経営側の仲間が、異議なし! 賛成!と声を張り上げ、シャンシャンと手締めをしてさっさと終わらせる。「結局、一番いけないのは無関心じゃないですかね。今回もそうだったように、無関心が過剰に歪んだ自己愛を助長させてるんじゃないかと。だから私たちは常に、上に立ちたがる人物を精査して監視して、多少なりとも危険な兆候が見えたら、みんなの力で別の人物に差し替える。差し替えてもダメなら、また別の人物に差し替える。その繰り返ししかない気がするんです」「もちろんほんと。だって、あたしにも女性が好きな気持ちが眠ってたと気づいたから言うんだけど、男が好きでも女が好きでも両方好きでも、それぞれでかまわないし、その境界って微妙なものよね。そこに白黒つけたがるから悲劇が生まれるわけで、その違いを理解した上で楽しく共存していけばいいと思うの」 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #原宏一 #たわごとレジデンス