『築地の門出』

原宏一さんの作品。ヤッさんシリーズの3作目。

主人公は再びタカオ。タカオの妻のミサキが、本物のそば職人を目指すために茨城のそば農家に住み込みで働くことになった。残されたタカオは再びヤッさんに弟子入りする。


ヤッさんが襲撃されたという話を聞いて、逆に返り討ちにされそうで怖いから誰も手を出せないのではと思ってしまった。

鮨まなの真菜の話が一番印象に残っている。もし自分が真菜の立場だったら、ヤッさんにあのような言葉を掛けられて号泣してしまうと思った。

閉店屋の五郎さんが終盤で出てきたのが嬉しかった。

タカオとミサキの夫婦は見ていてとても応援したくなる2人だと感じた。


印象に残っている文

「いいか高松、いまのおめえみてえなやつは意地を張ってるとは言わねえんだ。引っ込みがつかなくて、めめしい見栄を張ってるだけの話じゃねえか!」

「世の中には、テレビによく出てる料理人の店だって言われただけで、おいしく感じちゃう人がたくさんいるんだよ。だから繁盛してるからって旨いとは限らない」

「いまも日本橋で頑張ってる老舗はみんなそうだが、早え話が、王道を忘れたらおしめえってことだ。王道に軸足を置かねえであれこれやったところで、ふらついた挙げ句にパタンと倒れちまう。あんたが何に悩んでるのか、それは知らんが、世の中ってえのはそういうもんなんだ」

場内市場には暗黙のルールがある。たとえば仲買人は、知らない人間に魚を触られるのを極端に嫌う。

「なあに、大丈夫ですよ。何かをやるのに早いも遅いもないんです。要は、性根を入れてやるかやらないか、それだけなんですから」

料理人が使い込んだ包丁には、その人特有の力加減や刃の傾け方によって刃先に癖がついている。の癖を織り込んで研がないと、やがては刃先が歪んだり曲がったりして刃こぼれしやすくなるのだが、いつも自分で研いでいるとそうした癖に気づけなかったりする。

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