『四百三十円の神様』

加藤元さんの作品。加藤元さんの作品を読むのは初めてだ。

四百三十円の神様、あの川のほとりで、いれずみお断り、ヒロイン、腐ったたぬき、九月一日、鍵は開いた、の7つの話が収録されている。


「あの川のほとりで」では、父親に遊んでもらったことを思い出しながら読んだ。

「いれずみお断り」では、最後の2行でグッときた。

「腐ったたぬき」がとても面白かった。たぬきに恩返しをされるおじいさんの心境などを想像するのが面白いと感じた。


印象に残っている文

「こんな時間に、カロリーの摂り過ぎもよくないです。肥ります」内心、僕は首を傾げていた。死にそうなほど空腹だという時に、なぜそんなことを気にするのだろう。

「けどな、気をつけなきゃいけない。完全な敗北ってとなら、どこか甘い味がするもんなんだ」独り言のように、男が続けた。「だからこそ、いったんそこに落ち込むと、なかなか這い上がれない」

ビートルズのイエスタデイ。小学校のころ、リコーダーで演奏したことがある。出だしはソ・ファ・ファ、だった。

「あなたは、ご自分の子供たちを置き去りにすることで、親と親しい関係を築けなかった自らの幼少期に復讐をしているんですよ」

おじいちゃんは、あなたを語ると、詩人になった。「清楚、可憐、何とでもいえる。けど、どの言葉でも、あのひとを完全には言い表せない。つまり、あのひとはあのひとなんだ。そのほかに言葉はない」

「事実は述べるが、本音だけは言わない。プロ野球選手のホームラン談話みたいなもんやな」中略「まあ、だいたい選手の談話はベンチリポーターによる翻訳やからな。打ったのはストレート。とにかく塁に出たかったので、来たボールを素直に打ちかえすことを心掛けた。少し詰まり気味だったが、うまく風に乗ってくれてよかっあです。とかな、よくある公式発言や」

ほらほら、図星だ。もうね、二十代か三十代くらいの男が、昼酒だ蕎麦屋で一杯だと目覚めだすのは、たいがい落語か池波正太郎の影響だって相場が決まっているからね。

子どもは大人の鏡なんです。それも、醜い部分をより正確に映し出す、鏡。

駅のホームや電車の中でもよく見かけるな、とさと子は思う。衆人環視の中で、つまらないことに因縁をつけ、怒りをぶちまけている人間。老若男女問わず、その主張はひとつだ。オレさまを、このワタクシを馬鹿にするな。決して成熟した大人とはいえない、幼いままの激情。甘やかされた駄々っ子そのもの。


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