『月夜行路』
秋吉理香子さんの作品。
出版社に勤める夫が浮気をしているのではと疑い、妻の涼子は家を出る。ふとしたことから銀座のバーのママと一緒に、涼子は自分の初恋相手を探しに大阪へ行くことになる。
文学好きにはたまらない作品だと思う。大阪にこんなにたくさんの文学スポットがあるとは知らなかった。
バーのママのルナさんが実はカズトなのではと推理していたのだが、そうではなかった。
カズトが急に結婚を破棄した理由を知って、カズトは何て心優しい人なのだろうと思った。
他の人が羨むことでも、当事者の立場になると気づかないということを学んだ。
印象に残っている文
都合の悪い時だけ仕事だと押し付けられ、そうじゃない時には仕事じゃないと揶揄される。わたしがしていることはいったい何で、そしてわたしの存在は、なんなのだろう。
文学部で裸眼2.0なんてきっと俺だけだよ、と笑うカズトは、太陽の下にはためく白いシーツのように、どこまでも清潔でまぶしかった。
「現在進行形の恋愛がうまくいかないと、女の脳は過去形になるものよ」
「どうして専業主婦でいることに胸を張らないの? 専業主婦が、どうして取り柄がないってことになるのよ。大役をこなしてるのに」
「でもね、あたしも誰かの夢なのかもしれない。女性として生きたくても許されない人や、銀座でバーを開きたい人から見たら、こんなあたしだって夢を実現しているのかもしれない。そう思うとね、ちょっぴり生きる勇気が出るのよ」
「あら、挫折は新しい章の始まりよ」「新しい……章?」「挫折や後悔、痛みを経験して、成長するたびに新章が始まるの。そのたびに物語が豊かになると思えばいいわ」
これまでに紡いできたわたしの物語は、どれほどの厚みがあるのだろう。そしてこの先、何ページほど残されているのだろう。いつか必ず、物語は完結してしまう。だけど最後の句点が打たれるその時まで、わたしは主役を張り続ける。