『ハケンアニメ』

辻村深月さんの作品。

アニメ業界に関わる3人の女性を中心とした物語である。

王子は天才だからちゃちゃっと作品を描いてしまうのかと思っていたら、途中でそうではないということがわかった。努力を続けていることや、新たな作品を生み出せるかという悩みを抱えていると知って、同じ人間なのだと安心した。

香屋子のように人のことをきちんと思える人が現場に立つと、とても雰囲気が良くなって仕事が上手く行きやすいと感じた。


印象に残っている文

弾まないことがわかっているボールを、それでも打ち続ける苦行を強いられているようだった。彼には賛辞を受け止めるつもりが、一切なさそうだ。

監督とプロデューサーは、芸能人とそのマネージャーか、ある意味ではそれよりもずっと濃い関係をペアになって結ぶ。

アニメ制作にはお金が莫大にかかる。制作費にだいたい一クールで一億二千万円から一億五千万。二クールになると二億近く。

終電や始発の区切りがなければ、この業界は本当に昼夜の感覚をなくす。

「できるかどうかなんていつもわかんないよ。昔できたからって、今回で躓かない保証なんて誰もしてくれないんだから」

アニメ業界内同士の恋愛は、昔から、憧れか尊敬か、そのどちらかだと言われている。

アニメーターたちは職人だ。賃金が安く、勤務環境も劣悪と呼ばれるこの業界で、最後に残るのは仕事にかけるプライドだ。儲からないと言われる現場で、さらに時間に制限までかけられ、まだ手がかけられると思っている状態の原画を強引にむしり取られるように提出しなければならないジレンマはよくわかる。納得できないものを提出するのは、誰だってつらい。

アニメもフィギュアも、男も女も、この業界周りで働く人たちは、皆、総じて“愛”に弱い。自分のやっていることに誇りをもっています、これが好きです、というのを見せられてしまうと、簡単にたらされ、ほだされてしまう。

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