『みちづれはいても、ひとり』

寺地はるなさんの作品。

夫が失踪中の弓子と弓子の隣人の楓が、弓子の夫を探すために2人で島へと出かける。


弓子と楓のように、隣人でここまで仲良くなるのはすごいと思った。

楓がスーパーの担当者の青田に対して正論を言った場面はスカッとした。

性交して目が覚めて財布の6万円を盗まれたら、自分だったらめちゃくちゃ怒るだろうと感じた。

シズさんの過去の話を聞いて、最初は変な人だと思っていたが同情してしまった。

印象に残っている文

隣室のトイレの便座の上げ下ろしをする音が聞こえるほどだ。隣人の部屋に出入りする歴代の男性の便座の上げ下ろしの動作が軒並み雑なせいかもしれないが。

眉の描きかたが雑だった。「面倒ですが、するという決まりになっているので、一応しています」というようなやる気のない化粧だなと思いながら、あたしは隣人になりたてほやほやの女の顔を見ていた。

恋というのは、面倒なものだ。食べものの好き嫌いとか、インドア派かアウトドア派かとか、あと家族構成とか、預金残高とか、それらのことをすこしずつ探りあて、記憶に止めていかねばならない。性的嗜好のすり合わせも行わなければならない。

女同士は必ず敵対するものだ、とかたくなに思いこんでいる人が、一定数いる。仲良くしているけど心の中ではぼろくそにけなしているに違いない、というのもよく聞く。おばさんは若い女の子に嫉妬をするものだ、と思っている人もやっぱり一定数いる。あれはいったいなんなんだろう。

周りだの世間だの気にすることは別に構わないが、それを他の人間に押しつける人はやっかいだ。

ねえ、大人になっても、世界は自分の思い通りになんかならない。自由にやれることはすくない。大人になってからも、周囲の人はいろんなことを言うよ。でもね、すくなくとも自分で食べるものを、自分で用意することはできる。王子さまが現れなくても、自分の足で歩いていけるよ。だいじょうぶだよとは、私は言わない。そんな無責任なことは。でも、生きて。どうか生きのびて。心から、そう思う。


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