『答えは市役所3階に 2020心の相談室』

辻堂ゆめさんの作品。

立倉市役所に『2020こころの相談室』が開設された。そこに訪れる人々はさまざまな悩みを抱えており……。


「昼休みのひととき」や「退庁前のひととき」でさらに謎が解明する形式がとても良いと思った。特に第三話の真相にはとても驚いた。

昼休みを中断して三千穂の話を聞いてくれた晴川さんは、とても優しい人だと感じた。

 

印象に残っている文

幼い頃から憧れていた職業への道が、閉ざされた。学校の先生と、二言三言会話をしただけで。コロナのせいで。二〇二〇年現在、ちょうど高校三年生だったせいで。

いつからだろう。お母さんの前で、弱い部分を見せられたくなった。二人きりの母子家庭を支えるため、こんな遅い時間まで身を粉にして働いてくれているお母さんに、自分のことで迷惑をかけたくなくて。

ウイルスが流行る前と後とで、まるで、別の世界を生きているようだった。

「ムカつかない? 私がたまたま二〇〇二年にゆりを産んだから、ゆりが今年たまたま高三だったから、やりたいことが理想の形で実現できなくなるなんて。お母さんだって人生失敗してばかりだけど、今の職場への就職も、あの人との結婚や離婚も、全部自分で選び取ったことだよ。変な運命に弄ばれたわけじゃない。私はね、ゆりにも同じように生きてほしいの。コロナだか何だか知らないけど、そんなよく分からないものに、娘の自由を奪われてなるもんですか」

人生が、突然リセットされたような感覚。

平成がそろそろラストに差し掛かっていたにもかかわらず、昭和かよ、とツッコミを入れたくなるような始まりの日。

それを見て、やっと気づいた。カウンセラーとは、答えを出さないプロなのだ。

「つくづく思います。カウンセラーって無力だなぁ、と」「晴川さんが以前、教えてくれたじゃないか。カウンセリングとは、相談者が自分自身と対話する場なのだと。私たちはただ、彼らを映し出す鏡になればいい」「ええ。限りなくピカピカに、いつでも磨いておきたいものですね」


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