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アイスランド旅行記 後編ー最高の旅の終わり

後編では、6日目・7日目の日記を写真付きでご紹介します。

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DAY6 Saeberg~Geysir~Selfoss

朝日が昇り切った8時過ぎに目が覚めた。身体はずっしりと重く、ここまでの疲労の蓄積を意識した。意を決して車の外に出ると、空気はキンと冷たく、風も強く吹いていた。外で料理はできなさそうだったので、小屋に移動して朝ごはんを作ることにした。

朝ごはんには、昨日のタラのポトフとクロックムッシュを食べた。もはやタラの身は跡形もなかったが、しっかりとタラの存在を感じた。やはりアイスランドのタラは味が強い。クロックムッシュはこの旅行の定番となりつつあり、安定した味だった(少し飽きてきた)。

タラのポトフとクロックムッシュ

前日にラムのステーキ肉をたくさん買っておいたので、お昼用に焼いておくことにした。ラム弁当である。ローストビーフさながら、表面をこんがりと焼いて、アルミホイルで包んで放置した。後で食べるのが楽しみだ。

手短に洗い物を済ませて、質素なキャンプ場を後にした。

そういえば、このキャンプ場はごみの分別がものすごく細かかった。ペットボトルのラベルをはがすとかは当たり前として、燃えるごみを生ごみと紙ごみで分けたり、生ごみでも野菜くずと卵の殻を分けたり、おそらくリサイクル性を意識して、前もって分けているのだと思う。こうしたところからもアイスランドの環境意識の高さを感じた。

ラム弁当を作る

ここまで来れば、国道一号線の旅も終わりが近づいている。

今日中にレイキャビクに行くこともできるのだが、1日旅程を伸ばしてでも寄りたい場所があった。それが、ゴールデンサークルである。

ゴールデンサークルとは、アイスランドの三大観光名所として知られる、ゲイシール(間欠泉)、グトルフォス(滝)、シンクヴェリトル(大陸プレートの境界)の総称である。それぞれが地球の活動とスケールをダイレクトに感じられる場所だ。いずれのスポットもやや内陸にあるので、メインの道路からは外れることになるが、何としても体験してみたかった。

相変わらず体調は悪いが(おそらく熱もあった)、自然と運転は苦ではないので、交代交代でドライブしていく。

道中、西側の小さなフィヨルド町であるBorgarnes(ボルガルネース)のドライブイン「N1」で休憩をした。駐車も慣れたもので、妻の補助がなくても難なく停められるようになって嬉しかった。

N1の店内で馴染みのドリップコーヒーを買って、車の中で朝に仕込んだ「ラム弁当」をむしゃむしゃ食べた。ボルガルネースは、レイキャビクやアークレイリほど賑やかでないが、必要十分で、暮らしやすそうな町だと思った。

Borgarnesを超え、Hvalfjörðurの海底トンネルを抜けると、国道1号線の終わりが見えた。少し先に見えるラウンドアバウトを左に抜けたら、国道1号線は終わり、国道36号線に入る。

国道1号線を周りきった時、もっと劇的な感情の動きがあると思っていた。でも、実際には驚くほどあっさりと過ぎ去ろうとしていた。いつもと同じようにラウンドアバウトに入り、いつもと同じように二本目の分岐を曲がって、1号線の旅を終えた。きっと、アイスランドでの旅が、気づけば日常生活のように当たり前になっていたからなのだと思う。手短にハイタッチをして、次の目的地に向かった。

ここからは1号線を離れて、シンクヴェリトル国立公園へと向かう。制限速度も50kmに変わって、これまで100km越えで駆け抜けてきた我々としては徐行のように感じた。ゆっくりな速度で、5,6台の車が等間隔に連なっている姿に、なんだかディズニーランドの乗り物みたいだね、と笑いあった。

シンクヴェリトル国立公園に到着した。

ここには、ギャウと呼ばれる大陸プレートの境目がある。ギャウは、アイスランド語で、地面の割れ目や峡谷という意味らしい。片側には北米プレート、もう片側にはユーラシアプレートがあり、今でも年間に数cmほど大陸を東西に押し広げている。こうしたプレートの境界は、通常、海嶺として海の中にあることがほとんどのため、地上に露出していることは珍しい。

その間を、地球ってすごいねぇ、こうなってるんだねぇと、2人で手を繋ぎながら歩いていく。地球の途方もないスケールと、人間の命の尊さを同時に感じながら歩いた。

東京でテクノロジーに囲まれて便利に暮らしていると、つい地球に生きていることを忘れて、自分たちのことを全能で高尚な生き物のように錯覚してしまう。改めて、我々は地球という惑星に住む、1つの小さな生き物にすぎない、という事実が認識できて、何だか救われた気がした。

左右に大陸プレートがあり、その間を歩けるようになっている

次はゲイシールに向かった。

ゲイシールはアイスランド有数の地熱地帯で、間欠泉を至近距離で見ることができる。間欠泉とは、地下に溜まった水が地熱によって温められ、沸騰して水蒸気圧が上がり、地表に噴出する現象である。日本をはじめ、世界中に間欠泉は存在するが、ゲイシールの間欠泉は、現代的な言葉で表現するとかなりタイパ(タイムパフォーマンス)がいい。長くても10分おきくらいに吹き出してくれるのだ。

我々は、間欠泉と一緒に、ベストな写真と動画を撮影すべく、6度ほど間欠泉チャレンジを行った。それでも滞在時間は30分ほどだったと記憶している。ポイントは、吹き出す際の予兆が全くなく、急に吹き出すため、ずっと笑顔を保っていなければならないことである。撮影が終わるころには、笑顔が張り付いてしまった。

吹き出す瞬間をおさえる

満足のいく写真が撮れたので、ほくほくした気持ちでゲイシールの土産屋を散策した。アイスランドで回った、どの土産屋よりもデザインのセンスがよく、毛布やらマグカップやらを爆買いしてしまった。これからアイスランドに行く方々には、強くお勧めしたい。

引き続き体調が悪かったので、今日はキャンプを控え、ゲイシールの近くにあるコテージに泊まることにした。ゲイシールの駐車場から35号線を進むと、荒涼とした道の片側に唐突にコテージが表れた。一瞬通り過ぎようとしてしまったくらいである。オアシスのようだった。

2人で2万円弱と、物価の高いアイスランドのホテルにしては格安だったのだが、快適すぎるほどだった。何よりも、ここのホットタブが熱いことにはえらく感動した。40℃あるお風呂はアイスランドにきて初めてだ。熱いお風呂、最高!

お風呂に入った後から、身体がどんどん重くなってきたので、ソファで横になっていたら、妻がタラのリゾットを作ってくれていた。味わい深く疲れた身体に沁みる味だった。食べ終わった後の記憶はあまりなく、あたたかい布団で気絶するように眠っていた。妻はその間に、洗濯物を全て済ませていて、女神だと思った。

リゾットを作る後ろ姿

DAY7 Selfoss~Blue Lagoon~Reykjavík

8時前くらいに目が覚めた。
今日はアイスランド滞在の実質的な最終日である。

レストランがやっていたら嬉しいなと思い、寒い中外に出てレセプションに向かってみたのだが、案の定閉まっていた。

部屋に戻って、日本から持ってきていたカップヌードルと味噌汁を食べた。これでだいぶ身体が回復したように思う。しんどい時には食べ慣れた故郷の味が薬になる。

熱い風呂があまりに名残惜しかったので、今朝もホットタブに浸かり、9時過ぎにチェックアウトした。

コテージを出て35号線をしばらく進むと、唐突に巨大なくぼみが現れた。駐車場がありそうだったので、せっかくだから入ってみると、kerid(カリース)と呼ばれるクレーターだった。クレーターといっても、隕石の衝突によってできたものではなく、火山活動によるものらしい。噴火後の火口の陥没によって長い時間をかけて徐々に形作られたもののようで、地球の果てしない時間スケールを感じた。

クレーターの淵に立って

今日は、世界最大の地熱温泉であるブルーラグーンを満喫し、レイキャビク市内で最後の晩餐をする予定だ。

まずはブルーラグーンに向かうため、国道1号線に戻ることにした。国立公園を通って南側に抜けたこともあり、初日に通ったセルフォスの町に合流した。

初日には立ち寄れなかった町なので、ここで朝ごはんを食べていくことにした。スーパーの横にぽつんと立っているkaffi krusという店で、ラムのハンバーガーと、骨付きラムを柔らかく煮たやつを食べた。愛想の良いおじちゃんが接客をしてくれて、とても気分が良かった。コーヒーをテイクアウトして、ブルーラグーンへと向かった。

骨付きラム
ラム肉のハンバーガー

あらためてgoogleでルートを調べると、南側と北側の2つのルートが表示された。ただ、ブルーラグーンのサイトで調べてみると、どうやら南側のルートは現在閉鎖されているらしい。もし南側から入った場合、100kmほどロスしていたことになるので、早めに気づけて良かった。

北側から入るということは、あのレイキャビクの複雑な道路を通るということである。初日のトラウマでレイキャビクを通ることはなるべく避けたかったが、仕方なく北側から向かうことにした。

しかし、我々には1,500kmのドライブで得た経験値がある。筋肉は裏切らない。想定よりもずっとスムーズに複雑怪奇なエリアを抜けることができた。

空港方向にさらに40kmほど進み、しばらく火山地帯の荒涼とした大地を進むとブルーラグーンに到着した。

ブルーラグーンは、想像の数倍はハイテクで、リストバンドでロッカーの開閉も、飲食も、すべてを管理できるタイプの温泉だった。これまでキャンプをしてきて、コインシャワーも経験してきた身としては、施設の便利さときれいさに、まず驚いた。

着替えを済ませ、小さな入口(出口?)から外に出ると、そこには桃源郷が広がっていた。

全方位に幻想的な湯気が立ち込め、美しく白濁した温泉が、果てしなく先まで続いている。視界は隣にいる妻の顔がわずかに見える程度である。人気の施設なので、ものすごい数の人がいるはずなのだが、不思議と混んでいる感じが全くしない。

ブルーラグーンの視界

そして、これはアイスランドを一周してきた旅行者の、正直かつチープな感想になってしまうのだが、ブルーラグーンはお湯が温かい!ということは声を大にして言いたい。

したがって外気温は5度程度でも、身体は全く冷えないのでどうか安心してほしい。広大な敷地を、くまなく温めることのできる地熱活動のパワフルさも感じることができた。

ブルーラグーンの基本料金には、1ドリンクと泥パックが含まれている。
ドリンクはレモネードとグリーンスムージーにした。ゆったりドリンクを楽しんだ後で、泥パックをもらいに行った。思ったよりもパックが固まるのが早くて、2人でせかせか塗った。笑うとパックが崩壊するので、しばらく無表情のまま過ごし、とんでもない水圧の滝で泥パックを落とした。心なしか、艶が出た気がした。

その後はサウナに行ってみた。サウナはスチームが温度違いで二つと、ドライが一つで、いずれもしっかり熱々だった。水風呂はなかったので外気で冷やしたが、しっかり整えた。

だらだらとしていたら、ちゃんとのぼせてきたので、夕方ごろに退散することにした。施設を出たところで、この旅ではじめて、日本人のご家族に話しかけられた。新婚旅行ですか?と。見た目でわかったのかしらと、少し照れくさかったが、写真を撮ってもらった。どうやら我々に写真を撮るために近づいてきてくれたみたいで、優しいご家族だった。

優しいご家族が撮ってくださった写真

レイキャビクに向かう。
夕方を過ぎると、交通量が多くなり、あわせて道も難しい。初日のトラウマがフラッシュバックし、道案内にも熱が入った。

レイキャビク市内に入ると、車通りは穏やかになった。今日は、airbnbでおさえた一軒家で最後の夜を過ごす。公共の駐車場に車を止めて坂を登ると、しばらくして宿を発見した。開錠して中に入る。すでに部屋は暖かく、綺麗で、北欧テイストなおしゃれ空間だった。

軽く荷解きをしたのち、夜ご飯を散策することにした。
google mapで何軒か目星をつけ、宿を出た。道中、これまでの旅でも何度か見てきたレインボーロードを通り、海辺に向かった。

色々と物色した結果、KOPARで最後のディナーをとることにした。

とれたてのタラのステーキと、カニのリゾット、そして小麦の香りが強烈なパンと上品な塩気のあるバター、白ワインも飲んじゃったり。美味しいご飯を食べたら、何だか良質なデザートが欲しくなって、爽やかな甘さのチョコレートムースと、サクジュワ触感なチョコマフィンを食べた。どの料理も、本当に美味しかった。

最高の最後の晩餐になった。
もしレイキャビクに行く機会があるなら、また行きたいな。

とれたてのタラ

ディナーに夢中になっていたら時刻は20時ごろになっていて、すっかり日は落ちていた。アイスランド最後の夜を噛みしめながら歩く。

レイキャビク市内には、宇宙一美味いホットドッグ屋があるのは知っていたのだが、KOPARの豊かな余韻を壊したくなくて、寄るのはやめておいた。ホットドッグなら、もう十分食べたし。

レイキャビクの中心には有名な教会がある。
夜遅くて中には入れなかったのだが、ステンドグラスの美しさは外からでもわかるほどだった。今度は中に入ってみたい。
この夜がずっと続けばいいのにと、少し遠回りして宿に帰った。

宿に着いてしまった。

明日の朝一でレンタカーを返して、10時にはアイスランドを発つ。
ゆるゆるとパッキングしながら、道中聞いてきた沢山の音楽を流し、2人でこの旅を振り返る。

身体は疲れていて、眠いはずなのに、寝たくない。
寝たら、この旅が終わってしまうから。二人してそう思えるほどには、この旅は素晴らしいものだった。

次はどんな旅をしようかな。

アイスランド旅行記
これにておわり。


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