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アイスランド旅行記 中編ー果てなき道を進む
中編では、4日目・5日目の日記を写真付きでご紹介します。
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DAY4 Seyðisfjörður~Mývatn
ここ数日、明るくなったら起きるという原始的な生活をしてきたので、6時過ぎには目が覚めてしまった。今さら眠れなかったので、歯を磨いて、軽く寝癖を直して、外に出た。
昨日までの嵐が嘘だったかのように、セイジスフィヨルズルの朝は晴れやかだった。
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セイジスフィヨルズルの町は、フィヨルドのちょうど付け根にあり、30分くらいで回り切れてしまうほどの小さな村だ。
朝日に赤く照らされた家々は美しく、聞こえるのは鳥のさえずりと、そよ風の音だけ。村には穏やかな時間が流れていた。
町を一周してから、アルダンで朝食を食べた。
簡素なビュッフェではあったのだが、どれも素材の味がたくましく、特にハムとチーズはそれ単体でも成立するほど、味が良かった。
それから、各々勝手にどうぞ、とパンが丸っと置いてあって、好きなだけ切って食べた。これがまた、ほどよくソフトで、小麦の味もしっかりとしていて、すごく好みだった。まだほんのりと温かかったので、お店で焼いているのだろう。
コーヒーは明らかにインスタントだったので、フレッシュなオレンジジュースをたくさんいただいた。
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お店を出たすぐのところに教会があって、そこに向かう道がレインボーロードになっていた。アイスランドを含む北欧は、ジェンダー平等社会の先進国で、至る所にそのモチーフがある(アークレイリにもレイキャビクにも、こういった道がある)。国民の政治関心度も高いと聞くので、自分たちの意思で社会を作っていく、真の意味での民主主義の形だなと感じた。
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その帰り道、宿に戻ると、前方に大きな船が停泊していた。船の下方がバコっと開いていて、そこから無数の車が勢いよく飛び出してくる。そうか、セイジスフィヨルズルに行くには、地獄のような山越えをしなくても、海路で来る方法もあるのかと、その時知った。
おだやかな町が、車の排気音でにぎやかになった。
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アイスランド1周の旅はなおも続く。
国道1号線に戻るには、この町での平穏に別れを告げ、昨日さんざん苦しめられた山越えをしなければならない。レッドブルを注入し、気合を入れた。
昨日とは打って変わり今日は快晴で、あれだけ苦しんだ山越えも気持ちがいい。どこまでも続く道路と、湖と青空と雪山のコントラストは、これまで見たことのない景色で、どうしても、ちらちらと外を見ながらの運転を迫られて、せわしなかった。
それでも、相変わらずガードレールなんてものはなくて、死はいつも近くにあったので、ガムを噛みしめ、ハンドルを強く握って、絶景に囲まれながら山を駆け降りた。
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無事に山越えを果たした。
出発した時に飲んだレッドブルの影響で頬が火照り、猛烈な尿意に襲われ出したので、スーパーに寄ることにした。
スーパーで、日本人の口に合わないと噂の自転車のタイヤチューブみたいなお菓子を買って、食べてみた。リコリスというハーブが主原料らしい。一口食べて、どう考えても食べ物ではないと身体が拒絶反応を示したので、それ以上はやめておいた。私よりも妻の方が合わなかったようで、反応が面白かった。
火星探索中のような壮大な景色の中を爽快に飛ばしていると、突如としてドライブインが現れた。まさにオアシス。個人的にはアイスランドのドライブイン史上、ベストロケーションだ!
アイスランドのドライブインといえば、ホットドッグである。なかば反射的にコーラとホットドッグを注文し、慣れた手つきでソースをかけ、むさぼり食った。ここでは、サータアンダギーみたいな食べ物も売っていたので買ってみたが、味は想像通りだった。
アイスランドのホットドッグは、ほとんどがSSという食肉加工会社の名前を冠したSSホットドッグなのだが、今回は初めて、SSではなかった。確かに、ソーセージの質感が違う。個人的にはSSの方がうまいと感じた。ホットドッグ舌が肥えてきてしまったようだ。
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それから、このドライブインでは、2組のハッピーキャンパー達(Happy campersでレンタカーをした人たちのこと)とすれ違った。我々夫婦は、道中ハッピーキャンパーの車とすれ違うと、「Happy camper!」と声を出す癖がついていた。
ハッピーキャンパーの車は極彩色でとても目立つので、なんとなく仲間意識が芽生えていたのである。どうやら、向こうも同じだったようで、お互いに気づくや否や、「良い旅を!」と笑顔で手を振り合った。こういうちょっとしたコミュニケーションがとても嬉しい。
それから、給油の際にホースが全然伸びてくれなくて、2人で綱引きみたいに引っ張ったのは、ここのガソリンスタンドである。あの時は、普通に焦ったが、振り返るとほほえましく、良い思い出だ。
ここで妻に運転を代わり、今日の目的地であるミーヴァトンに向かった。
実は、今朝方、目的地にしていたキャンプ場が臨時休業していることがわかり、予期せず今日もホテル泊にすることになっていた。
ミーヴァトンは一周40km程度の湖で、ちょうど半周した先にホテルはあった。西向きだったが、開けていて眺めもよく、急拵えにしては申し分ないホテルだった。
16時過ぎにはホテルに着いてしまったので、暇を持て余した我々は、地熱地帯にMyvatn nature bathというラグーンがあると聞いて、そこに向かうことにした。
広大な敷地の中に大きな露天風呂が二つあって、横にはサウナも備え付けられていた。注意点が一つだけあるとすれば、サウナも露天風呂も非常に「ぬるい」ということだ。露天風呂に関しては、おそらく35℃もないくらいである。
ちなみに、奥側の大浴場の方が明らかに眺めが良いのだが、なぜだかそちらの方が5度ほどぬるく、ほとんど人がいない。我々は景色を求めて、そちらに行ってみたのだが、地熱にムラがあるのか、逆に熱々の場所もあり、穴場を見つけられて得した気分だった。
ラグーンを満喫したところで、体調はますます悪くなっていったので、その日の食事は簡単に済ますことにした。
Googleマップを眺めていたら、近くになかなかな評判の良いフィッシュ&チップス屋さんがあったので、試しに食べてみた。
魚の味が濃厚で、それでいて身はふっくらしていて、これはうまい。こんなにおいしいフィッシュ&チップスが世の中にあるとは!
最高のフィッシュ&チップスを食べても、体調は一向に回復しなかった。
ホテルに戻り、日本から持ち込んだ、どん兵衛を食べた。出汁っていいなぁ、最近のどん兵衛はゆずの味がするんだなぁとしみじみしていたら、うつらうつらしてきた。そこからの記憶は朧げで、電気をつけたまま、布団もかけずに、気絶するように眠っていた。
妻も疲れていたようで、同じように眠っていた。夜の22時くらいに一旦目が覚めて、歯を磨き、電気を消して、布団をかけて、さらに深い眠りについた。
DAY5 Mývatn~Saeberg
朝日を見ようと、6時ごろに起きてみた。
相変わらず体調は悪かった。喉が痛いし、鼻水も出る。何よりも身体がだるい。それでも朝日を見たい衝動が勝ち、ジャケットを羽織って外に出た。
前方には湖がある。
すでに日の出の時間を過ぎていたが、厚い雲に覆われていて、太陽はなかなか顔を出さない。
15分ほど眺めていると、雲の隙間から朝日が顔を覗かせてくれた。この時、ああ、なんて暖かいのだろうと思った。冷え切った身体が、みるみる温められ、身体の底から活力がみなぎってきた。
極夜がある北極圏の国々にとって、太陽がいかに大きい存在なのかを、身をもって感じた。
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温かい光を存分に堪能したあとは、朝食ビュッフェに向かった。
このホテルには、ツアー客ご一行が宿泊しているようで、朝からとても賑やかだった。
ここにも手切りのパンがあって、やはりうまかった。それから、コーヒーはマシンで抽出するタイプではなく、ポットに入っているタイプの方があっさりしていて我々好みだという、とても小さな発見をした。マシンはエスプレッソ、ポットの方はドリップらしい。
相変わらず体調が悪かったので、フルーツをたっぷり食べることにした。
外国人にならって青リンゴを丸一個手に取ったのだが、レストランでかじりつくのは恥ずかしかったので、部屋に戻って、こそこそ食べた。
この日は、アイスランド第二の都市であるアークレイリを経由して、さらに100km程度先を行き、無人のキャンプ場で久々の車中泊をする予定だ。
道中、「レイキャダルル」という、川そのものが天然温泉になっている場所があるというので、妻のナビの元、そこに寄ってみることにした。そろそろ目的地に着きそうといったところで、あたりを確認するが、一面広大な牧場で、温泉らしきものは何もない。初日に行った山奥のプールよろしく、タオルを持った観光客が向かい側からやってくるでもなく、そこはただの農道だった。
ここで改めてマップをよくよく見てみる。
すると、ここは「レイキャダルル」ではなく、「レイキャダルサ」という地名らしい。どうやら、レイキャダルルとレイキャダルサを誤ってマッピングしてしまったらしい。本物のレイキャダルルは、レイキャビクから40kmほどの場所にあった。我々は、ただの川に向かっていたのだ。
2人で爆笑しながら、本物のレイキャダルルに行くのはあきらめ、次の経由地であるゴーザフォスに向かった。
快走を続けていると、右前方に裂けた大地が出現した。その隙間から、白く流れる塊が、奈落に向かって落ちている。その壮大な光景に、なぜだか疑うことなく、あれがゴーザフォスの滝だと思った。ゴーザフォスは、アイスランド語で「神々の滝」という意味を持つらしい。
アイスランドを車で回っていると、本当に唐突に、滝やらクレーターやら火山やらが現れる。観光地として誰かに独占され、隠されることもなく、ただそこにある。自然は誰のものでもないのだから、勝手に来て、勝手に眺めればいい、何となくそんな思想をアイスランドの景観からは感じる。
奥側にある大瀑布に向かって、歩いてみる。滝の音は徐々に轟音となり、それに伴い、しぶきも強くなる。滝をダイレクトに感じられて、気持ちが良かった。歩いていると、滝の上に虹がかかり、つくづくついてるなと思った。しばらく絶景を堪能し、写真をたくさん撮って、滝を後にした。
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その後は、アイスランド第二の都市、アークレイリに立ち寄った。車を降りると、軽く雨が降ってきた。
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お昼間際でお腹がすいていたので、小走りで町一番のホットドッグ屋に向かった。ここには黒いホットドッグがあったので、食べてみた。黒いという情報がどうでもよくなるくらい、パンがふかふかでおいしかった。ナイスホットドッグ。
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アークレイリには、これまでの町には存在しなかった「お土産屋さん」がたくさんあり、興奮しながら歩いた。アイスランド発のアウトドアブランドicewearで靴下と帽子を、雑貨屋でアイスランドの写真集と、ROUTE1のプレートを買った。
アークレイリで美味しいコーヒーが飲みたくなったら、この店を強くお勧めする。内装は北欧感満載でワクワクした。美術館が併設されているからか、アートにもこだわりが感じられた。肝心のコーヒーだが、アイスランドでは珍しく、ドリップコーヒーが浅煎りだった。北側の厳しい寒さも相まって、沁みわたるおいしさだった。
アークレイリを後にした我々は、近隣のスーパーでキャンプの買い出しをしたのち、本日の宿泊地である、無人のキャンプ場に向かった。
道中は天気に恵まれ、土砂降りとなった。ただ、キャンプ場に着くころには雨も上がり、やはり持っているなと思った。
ナビが示す場所には、本当に小屋しかなかった。ここがキャンプ場であることを疑うほどに簡素な施設だった。小屋の入り口の張り紙に「適当に車を止めてキャンプしてよい」と書いてあり、ここでようやく、この場所がキャンプ場であることに確信が持てた。
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小屋に入ると、大きめのダイニングテーブルが数個と、キッチンが完備されていた。5-6組であれば、余裕で過ごせそうな広々とした空間だ。
設備はたしかに簡素ではあるのだが、不思議と生活に必要なものは全て揃っていた。人間の営みに最低限必要なものは何かを、徹底的に突き詰めていった結果がこの小屋なのだろうと思った。だから、簡素であっても、不自由な思いは一切しなかった。ミニマリズムの本質を垣間見れて、なんだか嬉しかった。
この無人キャンプ場には、なぜか露天温泉も備え付けられていたのだが、案の定、ぬるすぎて風邪をこじらせそうだったので、入るのはやめておいた。どこかの国の人達は、ビールを飲みながら2時間くらい浸かっていて、とても愉快だった。
いよいよ風邪がひどくなりかけてきたので、今日はタラのポトフを作ることにした。固形のコンソメなどはないので、とにかく大量の野菜を煮込み、タラを投入して、さらに煮込み、塩を一振りしただけの、ごくシンプルなポトフだ。でも、素材が良かったのか、身体が求める、最高に沁みる味になった。
この時、身体はだるく、鼻水も止まらず、頭も痛かったので、ただただ無言で、むしゃむしゃ食べた。妻には、苦労と心配をかけてしまったと反省している。そそくさと食事を済ませ、片づけをして、休息の準備を整え始めた。
キャンプ料は、19:00過ぎくらいに愛想の良い女性がやってきて回収してくれた。小屋は無人で、原始的な空間だが、キャンプ料の支払いはカード決済が使えて、えらく驚いた。
今日は、きちんと歯も磨いて、20時頃には眠りについた。北側の寒さは厳しく、寝袋だけでは耐えられなかったので、車に備え付けの布団もかけて眠った。
オーロラが見えないかと、0時過ぎに外に出てみたが(通称オーロラチャンス)、一瞥して分厚い雲に覆われていたことがわかったので、そそくさと温かな布団に戻った。