【ブルアカ】聖園ミカ解説書【動機フローチャート】
2.5周年からブルアカをプレイし始めて、はや半年。
おそろしい完成度を誇るシナリオに圧倒され、すっかりコンテンツの虜になってしまった私ではあるが、これだけは未だに自分の中で消化しきれていない。
聖園ミカは、どうしてこうも魅力的なキャラクターに仕上がっているのか。
以下の記事でも多少言及しているが、彼女の魅力を分析するにはまるで足りていない。
ミカの複雑なキャラクター設計を解体しようと思ったら、彼女個別で分析して一つの記事にまとめなければならない、と考えるに至ったため筆を執った次第だ。
頭の中で漠然と思考を纏めようとしても埒が明かず答えが出ないので、文字に起こして自分なりに腑に落とす、というのが本記事の主題となる。
聖園ミカの動機 フローチャート
ミカを分析しようと思ったら、まずはエデン条約編における彼女の動機、その変遷を纏めなければならない。
劇中にて発露された彼女の葛藤、そして掴みどころのない動機が、数多のユーザの心を動かしたからだ。
①フローチャート「初登場」
第一章三話「ティーパーティー」にて。
エデン条約に対して特に言及はしていない。
裏の動機としては、シャーレの権限を利用して補習授業部(ナギサ曰くゴミ箱)を作るために、先生へ同部活の顧問を依頼。
だが、これはナギサの動機なのでミカには関係ない。
この時点で既にセイア襲撃は起こっていて、表向きは「入院中」と周知している。
事実、セイアは床に臥せてはいるが、死んではいない。
ミネ団長はセイアの身柄を確保し、ミカのような要人にはもちろん、アリウス側にもそれとなく「死んだ」と嘘の情報を流布した。
それによりナギサは疑心暗鬼の闇の中に陥り、親友であるヒフミにさえも疑念の目を向けた。
それによりミカは自分の起こした行動に強烈な後悔を感じて、「行くところまで行くしかない」状況に陥った。
セイアの命を奪ったのだから、中途半端に終わらせるわけにはいかない。もはや最後までやり切らなければ、セイアの命を散らした過去が無意味になってしまう。決して好いてはいなかったが、失って初めて心の裡にある情に気づいた。
また、アリウスの憎悪を見抜けなかったのも動機を分析する要因としては大きい。
殺すつもりはなかったのに、セイアが死んでしまった。だからこそ、ミカは後戻りができなくなった。
しかし裏を返せば、セイアもナギサも幽閉して条約締結の阻止をしようと企てていたことは、(この時点では)限りなく真の動機であると捉えることが可能だ。
故にこの時点でのミカの動機は以下になる。
ミカの動機①(この段階ではユーザに開示されていない)
セイアの死によって後押しされたエデン条約の阻止。
それに付随する形でホストの座を奪うこと(ナギサの幽閉)。
また、ユーザ視点から見たミカの動機は以下だ。
ユーザから見たミカの動機①
無軌道そうな性格だが、ナギサとは真意を共有している。
ミカの心の奥底には真の動機が隠されているわけだが、もはや彼女自身でもそれに気づくことができなくなっており、この時点では盲目的に条約締結の阻止を狙っている。
真の動機よりも、セイアの死という事実が先行し、彼女の死を無意味にしないことだけに注力するようになってしまっている。
ミネ団長の判断は100%間違いではないが、ミカにとっては動機を見失う契機になってしまっている。という巧みなトリックがここには隠されている。
②フローチャート「プールでの会話」
第一章十七話「トリニティの裏切り者」にて再登場。
このシーンには重要な要素が隠れている。
まず、先生をトリニティに招聘したのはミカ本人ということが明かされる。
条約の締結阻止を企てるミカが余計な変数を自陣に呼び込むのは悪手だし(後述するが失敗だったと本人も言っていた)、動機と反していないだろうか、と思うかもしれない。
しかし、ナギサが「裏切り者がいる」と騒ぎ出したため、立場的に何らかの施策を打ち出さざる得なかった。
クーデターの終着点は、ナギサの幽閉及びにホストの座を奪うことで条約締結を阻止すること。ナギサの目を条約の締結だけに向けさせて、襲撃を悟られないようにする必要があった。
そこまで視野に入れていたミカは、どうしてもナギサを黙らせたかった。
そうして打ち出した苦肉の策が、先生の招聘だった。
故にこの行動はミカの動機とは反していない。
劇中での時期が不明だが、「去年」と言っている以上、それなりに時間が経過していると思われる。
その時間の中でミカは真の動機を見失い、ただ計画遂行のために生きてきた。
そう考えると、彼女の心中は推し量るに余りある。
自らの差配で友人を殺害してしまい、なりたくもなかった人殺しの業を背負い続けた彼女が、自分の真意を見失うくらい当たり前だ。ましてやミカはまだ十代。政治に絡む要人ではあるが、精神的に成熟しきっているとは言い難いだろう。
ユーザ目線だとシナリオを一息に読んでしまえるから時間の経過を感じ辛い。
故にミカの言動には同調しきれない部分があったかもしれない。
しかし、ミカ自身には相当の時間が流れていることを忘れてはいけない。少なくとも、自分の真意を悠遠の彼方に置き去りにしてしまうほどの時間が経過している筈だ。
そして、最も重要な会話が次に展開される。
さりげなく話されているが、実はここで真の動機が開示されているのだ。
ミカが一番初めに抱えていた目的。その真意がここで展開されている。
混同してしまいがちだが、ミカは別にアリウスを憎んでいるわけではない。
ただただゲヘナが嫌いなだけだ。
条約を結ぶのは嫌だという気持ちに嘘はないと思うが、それよりもアリウスとの和解という真意が先行していることを忘れてはいけない。
原初の真意は「アリウスとの和解」。
これを大前提に据えておかねばならない。
アリウスとは以前から交流があり、ミカは和解の道を独自に模索していた。
しかし、そのうち条約の話が持ち上がり、ミカの真意はゲヘナの憎悪を煽られる形ですり替わってしまう。
「アリウスとの和解を目的としたアズサの誘致」ではなく、「条約締結の阻止(自らがホストになりナギサとセイアを幽閉する)のためアズサを誘致する」という目的のすり替わりが起きており、そのことにミカ自身も気づいていない。
自分の口から真意を話しているにも関わらず、それに気づくことができなくなってしまっている。
果たして、ミカの真意は時間の流れによって風化し、濾過された動機は悪意に満ちたものとなった。
この状態のミカは傀儡と言って差し支えないだろう。シナリオ上における真の黒幕(ベアトリーチェ)によって、間接的に操られる人形でしかない。
ここで今一度、それぞれの動機をまとめておく。
ミカの動機②
動機①から変化なし。
強いて言えば、クーデターの邪魔にならないよう先生に疑心暗鬼を齎そうとしている。ユーザから見たミカの動機②
アズサを架け橋にしたアリウスとの和解(真の動機)
③フローチャート「黒幕登場」
第二章十七話〜十八話「そんな世界も(1)」「そんな世界も(2)」より。
ミカは三度の登場を見せる。
自らを黒幕だと明かし、ミカの動機が展開されていく。
それを以下に箇条書きしてまとめておきたい。
条約締結の阻止
真意を見失っているが、現状の動機であることに違いはない。ゲヘナが嫌い
こればかりは本心だと思われる。
理由の無い嫌悪感を煽られ(改めて後述するがベアトリーチェより間接的に)、条約締結の阻止を企ててしまう。
嫌悪と使命感にも似た条約阻止の意思が強く結びついてしまっている。
嫌悪の理由はミカ自身も理解しておらず、明確な理由を探している。
おそらく理由のある嫌悪ではなく、生理的嫌悪なのだと思われる。アリウスと和解したい
真の動機(原初に抱えていた真意)。
最初は純粋な和解だけを目的としていた。
この時点では和解がクーデターの名目に成り下がってしまっている。アズサの扱い
アリウスとトリニティ和解の架け橋になってもらいたい(真の動機)。
今ではナギサを襲った犯人に仕立て上げるためのスケープゴートとしか見れなくなっている。
ここでユーザは一旦騙される。
②フローチャート「プールでの会話」にて開示された「ユーザ視点から見た動機②:アズサを架け橋にしたアリウスとの和解(真意)」は嘘なのだと思ってしまう。
この時点でミカの真意を見抜くことは不可能であり、やはり彼女とはどうあっても敵対する他無いのだろうと諦観を抱いてしまう。
ここで一度、現時点におけるミカの動機とユーザ視点におけるミカの動機をまとめておきたい。
ミカの動機③
ゲヘナを心底から憎み条約締結の阻止を狙っている
ユーザから見たミカの動機③
ゲヘナを心底から憎み条約締結の阻止を狙っている
と、上記のように動機が共有されることになる。
セイアの死を無意味なものにしないために。突き進めるところまで進み、自分の過ちにある種の責任を(更に過ちを重ねる形で)取ろうとしている。
クーデターを起こし、ホストの座に就き、果てにはゲヘナを消し去ることができたのであれば。セイアの死にも意味が生まれる。最悪の形ではあるが、自らの過ちに終止符を打つことができる。兎に角、中途半端には終われない。
補足になるが、ここでミカの言う「ゲヘナへの全面戦争」は動機に入らない。
その場の思いつきで言ったことだと思われるからだ。
しかし、この場でミカを止められなかったとしたら、彼女は本当に戦争を起こしていただろう。それほどの責任をセイアの死に対して感じていた。
しかし。
セイアが無事であることをハナコから告げられる。
そのことにより、ミカはクーデターを起こす気力を失った。
あくまで気力だ。理由は失っていない。
ここで理由を失ってしまっては、「動機③:ゲヘナを心底から憎み条約締結の阻止を狙っている」と矛盾してしまうことになる。
何故なら、ゲヘナが嫌いであることに変わりはない。条約も結びたくない。根底にある生理的嫌悪に偽りはないからだ。
しかしセイアが無事であるのなら、ここで止まってもいいだろう。
そう考えてミカは降参を口にした。
誰かが止めてくれるのをずっと待っていたのかもしれない。
確かに、ここで抗わなければ条約は結ばれてしまうだろう。
が、それ以上にセイアが無事であったことに安堵していた。
つまり優先順位の問題だ。
ゲヘナは嫌いだし条約締結も絶対に嫌だけど、そんな生理的嫌悪よりもセイアの無事という事実の方が大きかった(ミカ視点からすればセイアが無事である確証はないが、胸中を満たした安堵は疑念に勝るほどだった)。
嫌悪とそれに勝る安堵が混在している。
だからミカの動機は複雑になり、一見矛盾しているようにも見えてしまう。
事実、現時点でのミカに対する筆者の印象としては、
「ミカって結局、何がしたかったんだ?」
だった。
表面上の動機が共有されたとはいえ、暴れるだけ暴れて、挙句すんなり諦める様には疑念を抱かずにはいられなかった。ゲヘナを憎む理由も判然とせず、個人的な嫌悪という小児的な動機で幼馴染に危害を加える心理が読み取れなかった。
つまりはミカというキャラクターに全く同調できなかった。
が、この疑念は後に訪れる真意の開示の際、起爆剤として一息に弾けることになる。
今はまだ動線を引いている段階だ。ユーザの心に敢えて靄を残し、ミカというキャラクターにざわと疑念を抱かせている。果たして、動線に点けられた火はじりじりとユーザに迫るが、ユーザはそれに気づけない。
キャラクターに一貫性のない言動を取らせてしまうと、ユーザには設計の粗として目に映る。それはライター側からすれば一方的な不利益だ。手腕すら疑われかねない。
だからキャラクターには揺るぎない動機を持たせて、その動機に沿った言動をさせる必要があるのだが、ミカには敢えてそのセオリーに反する言動をさせている。
改めて後述するが、一見するとセオリーを破壊しているように見せかける設計こそがミカの魅力に繋がっている。
④フローチャート「ポストモーテム」
第三章二話〜三話「ポストモーテム(2)」「ポストモーテム(3)」より。
ミカによるクーデターは阻止され、彼女は幽閉された。
条約は筒がなく進むように思われ、檻を隔ててナギサやハナコがミカと対峙する。
上記二話では劇中の登場人物でさえミカの動機を分析しようとする。それがまた本編の面白さを助長させているのだが、その前にポストモーテムの意味について押さえておこう。
・一般的なポストモーテム
プロジェクト終了後の振り返り作業。
成功したと思われる点や反省点を分析し、今後のプロジェクト合理化に努めるために行われる一種の会議形態。
・エンジニア的なポストモーテム
Google社が提唱しているシステム管理とサービス運用の方法論(SRE:サイトリライアビリティエンジニアリング)によると、「発生したインシデント、それにより与えられたインパクト。その緩和や解消のために行われたアクション、根本的な原因(原因群)、インシデントの再発を避けるためのフォローアップのアクションを記録するために書かれたドキュメント」。
つまりはシステム運用を管理するエンジニアによる、インシデントの分析と再発防止に備える対策をまとめたドキュメントのことだ。
余談だが、筆者もインフラエンジニアの末端に生きる者なので、後者のポストモーテムの方が腑に落ちやすい。
筆者の現場ではポストモーテムなどと大仰な表現は使わないが、それに類することは度々行われている。
インシデント(障害)が発生した場合には、エンドユーザのシステムを早急に復旧させることに注力。復旧後は必ず上長へインシデント報告を行い、最終的には対応した者が主導でチーム内へインシデントの分析と対策を周知する。
周知されたエンジニアは提示された対策を徹底して守り、二度と当該インシデントが起きないように努める。
これ以上は過去の障害対応が思い起こされ気分が悪くなるので、説明はここまでにしておこう。閑話休題。
本項で重要なのは、ポストモーテムがどちらの意として扱われているかだ。
どちらかと言えば、前者の「一般的なポストモーテム」だろう。
ミカという一つのプロジェクト(動機)に対して分析を行い、今後のミカの動向を考える。と咀嚼すればわかりやすい。
それを踏まえた上で以下の会話を見ていこう。
色々と前置きをしつつも、最終的にナギサが聞きたかったことは「どうして私のヘイローを破壊しようとしたのか」という、この一点に尽きる。
幼馴染だったのに。考えなしだが心根は純朴な筈なのに。どうして殺人なんて真似をしようとしたのか。きっと何か理由があってそうしたのではないだろうか。そうでなければミカが人殺しなんてする筈がない。
条約締結を阻止しようとしたことよりも、幼馴染である自分を殺そうとしたことに納得がいかなかった。自分たちが今まで築いてきた関係は、「ゲヘナが嫌い」という小児的な理由一つで崩れるものだろうか。いや絶対にありえない。
と、信じたくない一心でミカに問うこのシーンは涙なしには見られない。
少し話は逸れたが、ここで重要なのはミカの台詞から真偽を切り分けることだ。
真
ゲヘナが嫌いで(条約を止めるために)幼馴染をも幽閉しようとした。偽
ナギサとセイアを殺そうとした。
ミカが「殺そうとした」などと嘘を吐いているのには理由がある。
「セイアが生きていたとして、彼女を殺そうとした事実が消えることはない」
やはり、この台詞に裏の意図が含まれているからだと考えるべきだろう。
ゲヘナに対する生理的嫌悪感を煽られ真意を見失っているとはいえ、それはミカからすれば全くの無自覚である。
それはつまりベアトリーチェの傀儡としても無自覚であり、また、仮令操られていたとしても幼馴染を襲撃しようとした意思や条約の締結を阻止しようとした行動理念は真実だ。
殺すつもりは一切なかったが、幼馴染を裏切るという意味ではどちらも同じである。
ミカにとっては、結果として幼馴染を裏切ったという事実が最も重たかった。
セイア殺害の意図が誤って伝わっていようと、そこは重要ではない。
故に「ミカがセイアやナギサを殺そうとした」と世間に伝わっているのであれば、敢えてそれを弁解するつもりはない。そう思っているからこそ、ミカは嘘を吐いた。
長々と書いてしまったが、ここで重要なのは以下だ。
マクロな視点で見れば、ミカもゲマトリアの策謀に巻き込まれた被害者であるのだが、幼馴染を幽閉してでもホストに君臨しようとした思考は紛れもなくミカ本人のもので偽りはない。
悪意に曝されれば誤った判断に走ってしまう精神的な脆さがミカにはあるのだ。
つまり、③フローチャート「黒幕登場」より、「ミカの動機③:ゲヘナを心底から憎み条約締結を阻止しようとしている」という動機が完全に固着することになる。
次にハナコとの会話を見ていこう。
ポストモーテムの意に照らすなら、こちらの方が主題となる。
ここまで読んでくれた人ならわかっていただけるだろうが、ハナコの分析は悉く的を射ている。
ゲヘナを憎んだ結果として条約を壊そうとした
→紛れもない真実(固着したミカの動機③と同義)。誰かに煽られたのか、あるいはその「誰か」が居るのか
→正解(ベアトリーチェを指している)。
しかしミカはベアトリーチェの存在に無自覚。最初の計画はセイアを幽閉する程度だった
→正解(固着したミカの動機③と同義)。セイアの死という報告を受けて心が壊れ始めた
→正解(動機①:セイアの死に後押しされた条約阻止と同義)。
ハナコが口にした時点で動機①も固着したと言っていいだろう。アリウスがナギサを殺すのが怖かった(故に姿を現した)
→正解(固着した動機①から発展してナギサに適用)
しかし、それら全てをミカは否定している。
その上、「私も大概だけど、ハナコちゃんも結構残酷だねえ」なんて台詞を挟んでいるから余計にややこしい。
ミカが否定する理由は既に話した通り、「幼馴染を裏切った事実は消えず、条約阻止の行動理念は偽りではない」から、いちいち弁解していないだけだ。
自暴自棄とか見栄とかで否定しているのではなく、自分の起こした行動に堂々と向き合おうとしているミカの姿勢がここに表れている(それはある種の開き直りかもしれないが)。
それを踏まえた上で、「私も大概だけど……」の台詞からミカの真意を汲み取れば、自ずと答えは出てくる。
台詞を意訳すると以下のようになる。
「その分析は概ね正解だし、だからこそ自分の過ちを改めて指摘されるのが辛い」
殺意はなかったが、人殺しとして周知されているのであれば、その方がシンプルだ。幼馴染を裏切った事実に変わりはないし、条約阻止の意図も本物だから、いっそのこと石を投げられるくらいで丁度いい。
だから殺意についても否定しなかったのに、わざわざ犯人(ミカ)の動機を分析して、それを本人の目の前で開示するだなんて残酷じゃないか。
さて。現時点におけるミカの動機。そしてユーザ視点から見るミカの動機は、それぞれ変化しておらず統一されている。
ミカの動機①:セイアの死に後押しされた条約阻止(動機②も同じ)
ミカの動機③:ゲヘナを心底から憎み条約阻止を狙っている
見ての通り、上記二つはほぼ同じである。
しかし順番が違う。時系列順にまとめよう。
動機③→セイアの死という偽情報を受け取る→動機①
そこに「ユーザから見たミカの動機②:アズサを架け橋にしたアリウスとの和解(真意)」を加えると以下になる。
ユーザから見たミカの動機②(真意:アリウスとの和解)
↓
動機③:ゲヘナを心底から憎み条約阻止を狙っている
↓
セイアの死という偽情報を受け取る
↓
動機①:セイアの死に後押しされた条約阻止
まず最初に原初の動機があり、その後に憎悪を利用され過ちを犯し、セイアの死という報告を受けて後戻りができなくなり、最終的な変化を遂げたのが動機①だ。
つまり、ハナコの分析とほぼ一致する。
厄介なのは、「ベアトリーチェの姿が見えていないこと」と「ミカ本人が傀儡であることの自覚がないこと」、そして何より「真の動機がミカ本人からもユーザからも隠されていること」である。
故にこの時点においてもミカの動機は複雑怪奇にユーザへ伝わっている。
ここまで読んだ当時の筆者としても、まだミカとは同調できていなかった。
そして、これまでの総まとめとしてハナコと先生の会話が展開される。
初めてミカの真意について触れられる。
が、③フローチャート「黒幕登場」にてユーザから見たミカの動機は一度破壊されているため、先生の核心を突いた台詞は読み流されてしまう。
更に、ハナコは真の動機に対する結論を出す前に、話を「楽園の証明」へと移す。
そのため、先生の核心を突いている台詞に対する最終的なユーザの認識は「先生の希望的観測」という安易なものに据え置かれてしまう(これに関しては次のチャートでも言及する)。
⑤フローチャート「憎しみの正体」
第三章十六話「いくつかの欠片たち」、第三章十七話「憎しみの正体」より。
ミカの幽閉より時は流れ、条約締結の場は成った。
しかし締結に割り込む形で現場にミサイルが撃ち込まれ、本来権限を持っていたアリウスは条約の解釈を捻じ曲げてしまう。
両陣営はひどく混乱し、やがて互いに攻撃を開始。ミサイルに巻き込まれた各学園の首脳陣は行方不明であったり、意識不明であったりして、政治的機能は完全に停止。その混乱は両陣営の学園内にまで波及し、果たしてミカは釈放に至る。
しかし、ミカは全面抗争を断り、自らの動機の行方すらもわからなくなる。
それも当然だ。セイアが無事であることに安堵し気力を失っている状態に加えて、学園の混乱から条約破棄を察したミカが乗り気である筈がなかった。
また、当シーンを介したことにより、「全面抗争」は思いつきで口にしただけという説が補強される(ミカは考えなしで喋るきらいがあるので別に不思議ではない)。
次いで差し込まれるセイア主観の過去回想。
「アリウスと和解したい」というミカの動機は真であることが、ここで強調される。
④フローチャート「ポストモーテム」にて先生の放った希望的観測が、早くも真実味を帯びるのだ。
和解への政治的意図などは差し置いて、ただ手を取り合えばいい。それは本心から出た言葉であり、事実、「自分がホストであればすぐにでも動いた」と発言している上に(後述するが)アリウスと個人的に接触している。
また、くどいようだが、「戦争もいいかもね?」なんて言っているあたり、ゲヘナとの抗争はやはり思いつきなのだろうと解釈できる。
問題なのは、ここでユーザの認識に齟齬が発生することだ。
アリウスとの和解なんて無理難題に本気で乗り出そうとしている心根の純粋なミカが、どうしてクーデターなんて起こしたのだろう。キャラクター設計と動機が矛盾しているのではないか、と。
そしてミカ自身でさえも、矛盾に気づく。
ここで今一度、動機の変遷を参照したい。
ユーザから見たミカの動機②(真意:アリウスとの和解)
※ユーザの視点
↓
動機③:ゲヘナを心底から憎み条約阻止を狙っている
※ミカの視点
↓
セイアの死という偽情報を受け取る
↓
動機①:セイアの死に後押しされた条約阻止
これまでも再三説明してきたが、真意(原初の動機)はユーザからもミカからも隠されいる状態だ。
故にミカは原初の動機を「動機③」だと思い込んでしまっている。
が、この時点でのユーザは原初の動機を客観的な視点を経て察している。
だから認識の齟齬が発生し、あたかも矛盾しているように感じてしまうのだ。
動機の始発点がユーザとミカで異なるのだから、それも仕様のないことである。
そして最後にセイアの総評が展開される。
この台詞を介することで、ようやくミカの心情が浮き彫りになっていく。
ミカはもはや自分の動機を見失っている。
故に第三者からミカの心理を描写してやる必要があった。
その役割を担ったのがセイアである。
何故、心根は純粋なミカがクーデターを起こしたのか。
その答えがここには在る。
ゲヘナへの生理的嫌悪。それに対する答え探し。
これがクーデターを起こすにまで至った最初の理由だ。
生理的嫌悪に大した理由はない。
ミカの言を借りるなら、「嫌いだったから。嫌いなものは嫌いだったから」。
ただそれだけである。
例えば、筆者は虫が嫌いだが、そこに大した理由はない。
配管を通った黒光りするアレは純粋に不潔だから、複数の脚が蠢いている様が見ていて気持ち悪いから、羽音が不愉快だから。
そんな理由から虫を生理的に嫌悪している。
筆者からすれば、虫を愛する好事家を理解することはできない。
それと同じでミカもゲヘナを好きな(或いは嫌悪しない)人を理解できない。
自分の主観に極めて偏った感情が生理的嫌悪なのだから。
故にミカの生理的嫌悪にもきっと大した理由はない。
劇中で言っていた「あんな角が生えた奴らなんか」という台詞が全てだ。
自分たちが携えている美しい翼とは対照的な悪魔の翼、禍々しい角。
自分にはないモノを心から嫌悪していた。
そしてセイアの言う通り、(本人に自覚はないのだろうが)理由を求めていた。
自分はどうしてこんなにもゲヘナが嫌いなのか。
そんな疑問を抱えて生きてきたミカは、密かにアリウスと交流を続けていく中で、サオリを通じて、ベアトリーチェより嫌悪の理由を植え付けられた。
ベアトリーチェは話術と恐怖だけでアリウス全土を支配してきた女だ。
ミカ一人を傀儡にする程度は造作もなかっただろう。
この辺りは明確に描写されたわけではないため想像する他ないが、兎に角、理由を植え付けられたミカはそこで狂ってしまった。
真の動機を見失い、アズサを道具としてしか見れなくなり、ここで言う「動機③(ゲヘナを心底から憎み条約阻止を狙っている)」が原初の動機だと思い込んでしまった。
「アリウスとの和解(本来許されるべき我儘)」と「生理的嫌悪に対する理由」。
その天秤が後者に大きく傾いた瞬間だった。
そうした背景を持ったミカとユーザの差には大きな隔たりがある。
故にミカの動機は読み取り辛い。
⑥フローチャート「すれ違い」
第四章
三話「檻の中のお姫様」
六話「折れてしまった翼」
七話「選択と決断」
より。
更に時は流れ、罪人であるミカは聴聞会への出席が命じられる。
条約破棄による争いはひとまず鳴りを潜めたが、世論は荒れに荒れて、ティーパーティーの権威は地に堕ちた。
他の勢力が幅を利かせ、ナギサの心労は過積載。
それでも変わったものはあった。
ナギサは証明しようのない他者の心を信じることに決めた。
セイアはミカを理解するよう努めて(夢の中で)彼女を許した。
ミカは友人の大切さに改めて気づき、自らの過ちを恥じた。
聴聞会直前のミカにおける動機は白紙に戻っている。
濾過されたのは「ゲヘナに対する生理的嫌悪(これは消えようもないので仕様がない)」、「セイアへの罪悪感」だけだった。
今はただセイアに謝罪したい。その一心で檻の中にて自省に努めた(※)。
(※)時系列としては(これも意見が分かれるところだが)エデン第三章→カルバノグの兎一章→エデン四章の流れのため、ミカはそれなりの時間を檻の中で過ごしていると思われる。
もはや条約について言及すらせず、当然、ゲヘナへの全面抗争も頭にない。
二度と訪れないと思っていた関係修復の契機を掴み取りたい。ただそれだけを胸の裡に宿していた。
セイアは限りなくユーザ視点で心理描写をしてくれるので、現時点のミカにとって何が最も重要なのかを伝えてくれる。
それは「自分(セイア)の生存が心の拠り所になっている」という一点に尽きる。
その事実があるからミカの心は壊れずに済んでいる。
しかし。
セイアとミカの間に致命的なすれ違いが起こる。
セイアはまだ「夢の中でしか」ミカを許せていない。故に相対して直接自分の口から伝えようとしていたが、ベアトリーチェの魔手に堕ちたことにより、肉体が異常を来す。
先生の命が危ういことを知り、ミカと会話をするどころではなくなってしまった。
挙句、「君が先生を連れてきたから!」などと心無い罵倒を浴びせてしまう。
果たして、セイアとの関係修復という道は絶たれ、唯一の心の拠り所であったセイアの命が再度危険に晒されたことによって、ミカの動機は再び変化する。
ユーザから見たミカの動機②(真意:アリウスとの和解)
※ユーザの視点
↓
ベアトリーチェに生理的嫌悪感の理由を植え付けられる
↓
動機③:ゲヘナを心底から憎み条約阻止を狙っている
※ミカの視点
↓
セイアの死という偽情報を受け取る
↓
動機①:セイアの死に後押しされた条約阻止
↓
白紙
↓
動機④サオリへの報復
なお、動機④はミカは勿論のこと、ユーザにも共有されている状態だ。
セイアに許されなくても仕様がない。これはミカの本心だろう。
ただセイアの命が危険に晒されることは絶対に許容できなかった。
セイア襲撃から向こう、彼女の肉体に何らかの負担がかかってしまったのなら、それは事の発端である自分(ミカ)のせいだ。と思っているからだ。
つまり。動機が白紙状態だったミカは、セイアの命が危険に晒されれば、いつでも動機③に立ち戻ってしまう危険性があった。が、条約は既に破棄されているので、立ち戻るのではなく、新たな動機が生まれてしまう。
それが「動機④:サオリへの報復」だ。
本来であればベアトリーチェへ向く筈の憎悪は、サオリへと向けられた(ここでも分かる通り、ミカはベアトリーチェの存在を知らない。アリウスの憎悪を植え付けられたサオリによって、ミカは間接的に干渉されていた。故に憎悪を向ける先はサオリを置いて他にはいない)。
現状、ミカの手許には文字通り何も残っていない。
権威も無い、関係修復の契機も無い、思い出の品も燃やされた、唯一の心の拠り所だったセイアの命さえもこぼれ落ちそうになっている。
失うものが無いのであれば仕様がない。あとはもう奪うしかない。これ以上、堕ちることができないのであれば、自分と同じ位置に誰かを引き摺り下ろすしかない。その対象を探した時、ミカの脳裏には瞬時にサオリの顔が閃いた。
ユーザからすれば、ミカとサオリは鏡写しだ。
ベアトリーチェに憎悪(理由)を植え付けられ、掌で転がされた挙句、大事な物(サオリにとってはアツコ、ミカにとってはセイア)を奪われようとしている。
マクロな視点で見れば、双方悪事を働いたとはいえ、被害者である。ユーザからすればサオリに報復するのは違うのではないか、と思ってしまう。
が、ミカの視点からすれば違う。全ての元凶をサオリだと誤認せざるを得ない状態に陥っていた。
⑦フローチャート「真意との対峙」
第四章
十話「アリウス自治区へ(2)」
十一話「追撃者」
十二話「アリウス自治区」
十三話「残されたもの」
十七話「対決」
十八話「もう一人の私たち」
十九話「無限の可能性」
二十一話「至聖所へ」
より。
複数話を一気に跨いで、ようやくミカの真意が明かされる。
故に、ここが最も重要なチャートだ。
ミカの心が壊れた頃、先生はアリウスと手を組み、アツコ救出に乗り出していた。
そのことにより、ユーザの視点は限りなくサオリへと寄り、かつて敵対していたスクワッドメンバーとの共闘に同調している。
夜明けまでにアツコを救出しなければならないのに。暴走したミカと再度対峙しなければならないことをユーザは察する。
ツルギと互角に渡り合えると評された、壁を壊すほどの膂力を持った怪物に対して、今度はスクワッドのメンバーだけで挑まなければならない。シスターフッドの軍勢を借りてようやく止めることができたミカを。
今度は恐怖演出でもユーザの心を揺さぶろうとするのだから驚きだ。
果たして、脱獄したミカとアリウス率いる先生は対峙。
また、ここでは彼女の口から改めてセイアへの想いが吐露される。
襲撃を経て、セイアが死に瀕するところまでを経験しなければ、友人の大切さに気づけないミカの性格は傲慢だ。その上、八つ当たりにも似た報復をしようとしているのだから小児的でさえある。
これまでもティーパーティーの権威を盾にして好き放題やってきたのだろう。染みついた横暴は急に直せるものではなく、この後に及んでもミカは自身の動機を貫き通そうとする。
直情的で考えなし。だが、それ自体は非難されるべきものではない。
話のスケールが大きいのでキャラクター設計を見失いがちだが、ミカはまだ十代。自分の感情を優先して周囲を巻き込む程度のことは、許されて然るべき年齢だ。
自分が学生だった頃を思い出してほしい(或いは現在進行形で学生であるのなら、より明確に理解できるだろう)。あの頃の我々は自分が世界の中心だった。
最も優先されるべきなのは自分の感情であり、それは何もおかしなことではない。特に彼女はその傾向が強かった。ただそれだけの話である。
悪事を働いた自覚はある。が、それでも自分だけ全てを失うのはおかしい。クーデター計画を共有したサオリ(スクワッド)も、自分と同じだけ失わなければ嘘だ。
自分は権威も、財産も、友人も、全てを失ったのに。計画を共に実行したサオリ(スクワッド)が何も失わないことを許したら、自分の顛末は無意味になる。
エデン条約を台無しにして、友人さえも手にかけようとした。それだけではただの政治犯だ。しかもそのどれもが自らで願った顛末ではない。サオリ(スクワッド)からも同じだけ奪い、魔女として自らを確立しなければ、聖園ミカという一個は限りなく希薄な存在になってしまう。
このままでは、「結局、アイツ(ミカ)は何がしたかったんだろうな」などと語り草にされるだけだ。だからせめて、「クーデターを起こし、あまつさえ計画を共にしたメンバーも手にかけた正真正銘の魔女」として、自分を定義しなければならない。
どうせ失うものは他に何も無いのだ。であれば、もはや自らを正真正銘の魔女として定義する以外に道は残されていない。そこまで実行できてようやく、自分を納得させられる。そこまで実行してようやく、開き直ることができる。
今、サオリらを見逃したら、それすらも叶わなくなる。それだけは絶対に許せない。
暗に以上のことを嗚咽混じりに吐露する他なかった。
それほどまでにミカの精神は追い込まれていた。
ちなみに、サオリもアツコを奪われようとしているので、現在の境遇的にはミカと変わらないが、ミカ視点ではそれを認識することは不可である。
アリウス率いる先生の前から二度退いたミカは、三度サオリの前に現れる。
そして、ミカにとってもユーザにとっても重要な会話が展開される。
そう。原初の動機をサオリの口から明かされるのだ。
ここでやっと、約三章分も跨いで、真の動機がミカにも共有される。
ユーザから見たミカの動機②(真意:アリウスとの和解)
※ユーザの視点 ※ミカの視点
↓
ベアトリーチェに生理的嫌悪感の理由を植え付けられる
↓
動機③:ゲヘナを心底から憎み条約阻止を狙っている
↓
セイアの死という偽情報を受け取る
↓
動機①:セイアの死に後押しされた条約阻止
↓
白紙
↓
動機④サオリへの報復
少しややこしいが、ミカの視点がユーザの視点と共有されていない状態だと、アリウスとの和解という真の動機は「偽」のままだ。
ユーザの視点のみが真意に置かれている場合。それはあくまでユーザの推測という域を出ない。ミカと視点が共有されてこそ、ようやく真意はシナリオ上で「真」となる。
分かり易くVBA風に書くなら以下だ(それぞれの視点は何らかの変数に格納し、取得されている状態とする)。
IF ミカの視点 = ユーザの視点 Then
MsgBox “アリウスとの和解は真である”
Else
MsgBox “アリウスとの和解は偽である”
End IF
ユーザとミカの間で視点が共有された段階で、シナリオにおけるミカの真意は「真」であると証明されるのだ。反対に、そうでない限りは必ず「偽」になる。
サオリとの会話を通さず、ミカの視点が動機③に置かれたままでは、「ミカの真意はアリウスとの和解にある」と結論を下すことは絶対にできない。
つまり、サオリの口からミカの真意が展開されてようやく、ユーザから見たミカの動機②が固着することになる。
上記のプロセスを経て、ミカもユーザも互いに真意を共有することで、ユーザは一気にミカとの同調が可能になる。当然だ。二者間の視点が共有できてこその感情移入。
じりじりと迫った導火線はここでようやく起爆剤に到達するのだ。
更には、サオリも心のどこかでは「トリニティとの和解」を望んでいたことが明かされる。アズサであればきっと象徴になれる。そう思い和解の架け橋としてアズサを選抜。ミカの善意とサオリの願いは完全に一致していた。
が、ベアトリーチェより幼い頃から憎悪の英才教育を受けていたサオリは、既に洗脳されている状態だった。ベアトリーチェの魔手はサオリを通じて間接的にミカへと迫る。
ここで時系列が少しややこしくなるので、事象を付随する形でフローチャートを更改したい。
・ユーザから見たミカの動機②(真意:アリウスとの和解)
サオリとミカ接触(互いの善意は一致している)
ベアトリーチェ、ミカからインスピレーションを受ける(曰くミューズ)
※ユーザの視点 ※ミカの視点
↓
・ミカはベアトリーチェに生理的嫌悪感の理由を植え付けられる
↓
・動機③:ゲヘナを心底から憎み条約阻止を狙う
エデン条約の話が持ち上がる
ベアトリーチェ、目的の邪魔になるであろうセイア襲撃を命じる
ミカは真の動機を失念
↓
・ミカはセイアの死という偽情報を受け取る
↓
・動機①:セイアの死に後押しされた条約阻止
皮肉にもアズサをスパイとして利用
↓
条約がベアトリーチェによって歪曲される
ミカ投獄(動機は一旦白紙に)
↓
・動機④サオリへの報復
果たして、傀儡となったミカはサオリへの報復に辿り着く。
いつの間にか、サオリへ復讐することが最終目的になっていた。
どうして自分は今、サオリに復讐したいのか。それすらもわからなくなっていた。
しかし、ミカは最後の最後で踏みとどまる。
自分とサオリが鏡写しであることを自覚するのだ。
鏡写しであるサオリを殺し、サオリに救いはないと証明することは、翻って自らにも救いがないと証明することになる。
故にサオリを手にかけることなどできない。
そして、そんなミカの下へ先生が駆けつける。
ここの台詞ね。もう本当に完璧すぎる。これ以上の台詞はどこにもない。
この一連の台詞には、ミカというキャラクターを端的に表現する言葉がこれでもかと詰められている。
また、(規模が大きとはいえ)過ちを犯すくらい子供として当然である、と諭すことのできる大人としての姿勢もユーザに共有されているのだ。
以下、先生の台詞の意である。
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自らの感情を最優先して周囲に迷惑をかけて、それによって招いた顛末を受け入れられない。それは大人であったら大問題だ。大人であればその顛末に責任を負わなければならない。
しかしミカはまだ子供である。自らの過ち、そして招いた顛末を受け入れられない矛盾くらい持っていて然るべきだ。しかもミカは純真で染まりやすく、大人(ベアトリーチェ)に操られていたのだから尚更仕様がない。
何せキヴォトスには真面な大人がいない。真っ当に導く存在がいないのだから、子が過ちを犯すくらい起きて当然である。
真っ当な大人は「先生」をおいて他にいない。
子供の犯した責任は自ら(先生)が負う必要がある。
故に一度や二度過ちを犯した程度で、ミカの人生が終わってしまうことなど、あってはならない。その責任は大人である先生が背負うし、チャンス(進路)ならいくらでも作り出す。
だって子供には文字通り「無限の可能性」があるのだから。過去の過ち程度でそれを摘んではならない。先生という立場として、それは許容できない。
だから「ミカは魔女じゃない」。「人の言うことを聞かないだけの不良生徒だ」。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そうですよね?」とユーザに問いかけているのが、このシーンだ。
上記台詞を通して、ユーザは完全にミカと同調する。120%感情移入できる。
この台詞は現在進行形で学生であるユーザよりも、成人したユーザの心に刺さる。
子供であれば当然間違えるという客観的事実を改めて感じ取り、これまでのミカの矛盾しているような言動を腑に落とすのだ。
そして。
120%ミカと同調(感情移入)できた上での共闘シーンである。
ズルいだろそれは〜〜〜〜〜〜〜!!💢
ここでみ〜〜〜〜〜〜〜〜んなミカのことが好きになってしまう。
ほら気絶してる人は起きて!!!!!!!!!!!
動機チャート更新だよ!!!!!!!!!!
・ユーザから見たミカの動機②(真意:アリウスとの和解)
サオリとミカ接触(互いの善意は一致している)
ベアトリーチェ、ミカからインスピレーションを受ける(曰くミューズ)
※ユーザの視点 ※ミカの視点
↓
・ミカはベアトリーチェに生理的嫌悪感の理由を植え付けられる
↓
・動機③:ゲヘナを心底から憎み条約阻止を狙う
エデン条約の話が持ち上がる
ベアトリーチェ、目的の邪魔になるであろうセイア襲撃を命じる
ミカは真の動機を失念
↓
ミカはセイアの死という偽情報を受け取る
↓
・動機①:セイアの死に後押しされた条約阻止
皮肉にもアズサをスパイとして利用
↓
条約がベアトリーチェによって歪曲される
ミカ投獄(動機は一旦白紙に)
↓
・動機④サオリへの報復
↓
・動機⑤:サオリ(スクワッド)の救済
サオリと自分は鏡写しである。それを自覚したミカは、スクワッドの境遇を理解し、僅かではあるがサオリと同調した。アツコの危機を知り、また、アツコとセイアの存在を重ねた。そうすることによって、共闘が成立。
セイアがミカの心の支えであったように、サオリもまたアツコを心の拠り所にしている。だからアツコを救って、自ら(サオリ)をも勝手に救えばいい。
そう決断して、バルバラの足止めを買って出たミカ。
しかし、まだ問題は残っている。
最後のチャートに移ろう。
⑧フローチャート「答えはお姫様」
第四章
二十三話「少女たちのためのキリエ(1)」
二十五話「大切な人」
より。
最後に残った問題。
それは「ミカ自身が救われていない」ことである。
サオリの境遇を腑に落として赦した。先生が進路を拓いてくれると未来を信じた。
それでも「セイアの生死が不明」なことや、「犯した過ちによる自省」は消えない。
事実、ミカはこの後に及んでも自らを「魔女」と揶揄する。
しかし先生はミカの下に再度駆けつけて、「お姫様」宣言をする。
シリアスな最終局面に対して、決め台詞に「お姫様」という陳腐な響きを混ぜるのは戴けない。と、感じたユーザは少なくないだろう。
台詞も二つに分けられているので、正直なところ、ここは意見が分かれるところだと思うが、筆者は以下のように解釈した。
「私の大切なお姫様に何してるの」←こっちがルビ
「私の大切な生徒に何してるの」←こっちが台詞
が、仮にエデン条約編が映像化したのであれば、読まれるのは当然ルビの方だろう。
絶対に先生は「お姫様」を口に出す。間違いない。花京院の命を賭けてもいい。
何故か。答えは簡単だ。
劇中で散々言われてきたミカを比喩する「魔女」と「お姫様」。
その回答が上記の台詞に表れているからだ。
一般生徒の弾圧に始まり、セイアも「寓話の中の魔女」と比喩、果てにはミカ自身でさえも自らを「魔女」と認めてしまっている。
しかし先生からすれば、「それは違うだろう」と。「この子はいつまで自分を魔女なんて呼んでいるのだろう」と。「散々魔女じゃないと否定したのに、まだ言ってるよこの子は」と。そう思わざるを得なかっただろう。
故に「お姫様」。
それが陳腐な響きであろうが関係ない。
惜しげもなく「お姫様」であると宣言することで、いい加減ミカ自身にも「魔女」を否定してもらおうと願っての上記台詞なのだ。
寓話の「魔女」とは対をなす存在、「お姫様」。それは物語の主題である。
つまりは。
ミカという人生においての主題は君自身だ。魔女なんて脇役に自らで成り下がろうとするんじゃない。と、先生はそう言いたかったのだ。
そう考えれば、「お姫様」という単語は途端に真実味を帯びてくる。
まるで陳腐な響きじゃないと咀嚼することが可能だろう。
そもそも、これまで「魔女」と「お姫様」の単語をこれみよがしにユーザへと提示してきたのは、これが理由である。
最終的な答えに「お姫様」を出しても違和感を与えないようにする仕組み作りが、シナリオには潜んでいたのだ。
言い換えれば、「お姫様or魔女」はエデン条約編における副題だ。
最終的にミカというキャラクターがどちらに傾くのか。それが明らかに問われているのだから、「お姫様」という単語は陳腐でもなんでもない。
文字通りの「答え」である。
果たして、エデン条約編の幕引きとともに、ミカは救われる。
セイアの生存を知り、自らが人生の主題なのだと気づき、ようやく前を向くことができた。
以下、チャート更新ラスト。
・ユーザから見たミカの動機②(真意:アリウスとの和解)
サオリとミカ接触(互いの善意は一致している)
ベアトリーチェ、ミカからインスピレーションを受ける(曰くミューズ)
※ユーザの視点 ※ミカの視点
↓
・ミカはベアトリーチェに生理的嫌悪感の理由を植え付けられる
↓
・動機③:ゲヘナを心底から憎み条約阻止を狙う
エデン条約の話が持ち上がる
ベアトリーチェ、目的の邪魔になるであろうセイア襲撃を命じる
ミカは真の動機を失念
↓
ミカはセイアの死という偽情報を受け取る
↓
・動機①:セイアの死に後押しされた条約阻止
皮肉にもアズサをスパイとして利用
↓
条約がベアトリーチェによって歪曲される
ミカ投獄(動機は一旦白紙に)
↓
・動機④サオリへの報復
↓
・動機⑤:サオリ(スクワッド)の救済
↓
ミカ自身の救済
総評
ここまで長々と書いてきたが、そのせいで「つまりどういうこと?」と思った人もいるだろう。
だから最後にミカの魅力を端的にまとめたい。
ユーザとミカが同調(感情移入)できるタイミングが秀逸
移ろいゆく動機に翻弄され、ミカというキャラクターに疑念を抱いていたユーザを最終局面で一気に感情移入させる。その仕組み作り自体がミカの魅力に繋がっている。キャラクター設計が破綻しているかのように見せかけていること
一つの動機を持たせるのではなく、複数の動機を保有させて次々に展開。
また、真の動機をユーザからもミカからも隠すことで、一見キャラクター設計が破綻しているように見せかけるトリック。シナリオと強く結びついたキャラクター性
エデン条約編があるからミカが居るのではなく、ミカが居るからエデン条約編が展開できた。シナリオとキャラクターが強く結びつき、ミカがシナリオの旨みを最大限に引き出している。
だからミカは魅力的に仕上がっている。
だからエデン条約編は面白かった。
そして何より、ミカの複雑な動機にシナリオ自体が振り回されている。
これが最も凄いことなのではと思う。
普通はシナリオという一つのキャンペーンがあって、その中でキャラクターが動き、その中で輝きを放つ。
が、ミカは違う。
キャラクター自体が主体となり、シナリオを振り回している。
舞台を動かせるのはゲームマスターだけである筈なのに、ミカは舞台という大枠を飛び越えてシナリオを動かしているのだ。
「秀逸な仕組み作り」と「常軌を逸したキャラクター設計」。
それがあるから、ミカはこうも魅力的に見えるのだ。