【ブルアカ】対策委員会編【シナリオ考察と感想】
以前から気になっていたが、これ以上コンテンツを増やすのもなあ、と迷い続けて幾星霜。
2.5周年を迎え無料100連やら確率2倍やらが始まり、どうせ気になっているのなら、このタイミングで手をつけよう、ということでプレイ開始を開始。
ダウンロードが終わり、いよいよゲームが始まると、「(プレイヤーの)名前を呼ぶ」のでプレイヤー名を入力しろと言われる。
名前を呼ばれるシステムとは珍しい(案の定、読み上げ音声)、と思うと同時に、挑戦的だなとも思った。というのも、最近のソシャゲは競合他社の嵐でユーザの引く手数多のため、力の入れ用が尋常ではない。故にゲームのガイド役にボイスが付いているくらいは最早あたりまえの世界だ。
そんな現代でガイド役が自動音声。これには違和感を覚える人も少なくないように思える。
とはいえ、声優は起用しているから肝心のシーンではちゃんと喋るし、そもそもガイド役の「アロナ」自体が、システムAIのため自動音声でも違和感のない辻褄合わせができているので全く問題がないと言える。OSのバージョン都合で音声(声帯)に不具合有りという理由付けもちゃんとしている。
と、余談はさておき。名前入力が終わるとプロローグが流れる。
「我々は覚えている七つの古則を」「シッテムの箱へようこそ」「私のミスでした。私の選択によって招かれたこの全ての状況」
幻想的な背景を携えて列車内の座席と思われる場所にて。血に塗れた女性から意味深な台詞を投げられる主人公。
「この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。そこへ繋がる道は、きっと見つかるはずです。だからどうか、先生──」
話の途中で目覚める先生(プレイヤー)。血に塗れたキャラクターの台詞からも、世界はループしている可能性が示唆される。故にこれはエピローグだったのかもしれない。
プロットとしては以下のように繋がるか?
エピローグ(改変前)→現在→本編→エピローグ(改変後)
目を覚ますと、眼前には『連邦生徒会』の七神リンが。
「あなたが、私たちの呼び出した先生、ですよね」などと、またもや意味不明な台詞を投げられ、「シャーレ」と呼ばれる謎の組織に属することに。
・シャーレ
連邦捜査部の題目の下、数千の学園が集まるキヴォトスの生徒を制限なく加入させられる超法規的存在(便利言葉)のため、どんな政治事情に介入可能。
特に、あらゆる学園の生徒を加入させる権限というのは、募集(ガチャ)で所属の異なる生徒を従わせる方便になるので上手い設定だと思う。学園間で紛争している地域もあるらしく、対立している生徒を一堂に会させる理由付けは必要だ。
それにしても、この先生とやらは状況に適応し過ぎで気味が悪いくらいだ。
ここがどこかもわからない。何故、シャーレに属することになったのかもわからない。連邦生徒会長(おそらくプロローグに登場した血まみれの女性)とやらに任命された理由も不明。だというのに、疑問すら持たず自身の役割を受け入れ、戦術指揮のスキルまであり、行政管理を担うサンクトゥムタワーとやらの制御権さえ有する(今は連邦生徒会に譲渡済み)。
……ユウカのセリフから察するに、先生は薄給で、にもかかわらず10万くらいするフィギュアを買ってしまうほど刹那に生きる人物のようなので、そんな権限をこの人に任せても大丈夫なのだろうか、と疑問が頭を過ぎる。
また、この時点で、先生はプレイヤーとイコールの存在ではなく、先生というキャラクターとして自律稼働していることも伝わってくる。
そうでなければ、こんな無茶な言動を先生にさせず、もっと無難な台詞回しで無機質に立ち振る舞わせる筈だからだ。先生をプレイヤーとイコールの存在にさせるには、いささか言動が突飛に過ぎるし同調できない。教職という堅いイメージの役職に加え、何やら重要な機関の席まで用意された人物が、衝動的に趣味へ走る癖がある、というのも同一キャラクターの要素として乖離がある。
要するに、「君たちユーザと先生は別の存在だよ」ということを暗に示している。伝わるかわからないが、シャニマスにおけるプロデューサーみたいな感じだ。
だから、先生に我々が格納されているのではなく、俯瞰的な視点で先生の追体験をしているのだ、と思った方が無難だろう。
果たして、超法規的な権限だけはあるのに目標がないシャーレにて最初の任務。
対策委員会編が始まった。
・砂漠に覆われ孤立したアビドス学園
・失脚した学園を見限って生徒どころか住民すらも移住していく有様
・学園は「悪徳金融」から9億円以上の借金を背負わされている(法外な利子付き)
借金の桁がアホの子の考える数字だが、どうやらこの世界において学園とは一つの国家のようなモノらしく、そう考えれば違和感は払拭できる。
そこで新たな生徒と出会い、先生はこの問題に真正面から対峙することを決意。ユーザは本格的にキャラクターに触れていくことになる。
以上の愉快な仲間たちと物語は進行していくのだが……冒頭からカタカタヘルメット団なる集団から「銃火器で」襲われるという、またもやプレイヤーを置いてけぼりにするシーンからスタート。
登場するキャラの耳は動物然としていたり、エルフ然としていたり、頭上には天使の輪のようなモノが付いていたり……先生の存在や世界観を含めて何一つとしてわからないまま事態に対処していく様を見届けていく。
と、これだけ聞くと悪手に思えるようなシナリオ展開。だが、世界観の要点を説明されなくても理解できる物語進行は、シナリオを読み進める上では全く弊害にならず、キャラクターのギャグ寄りな掛け合いも面白いため、いつまでも読めてしまう。
軽い疑問点を最初に設置しておき(アビドスは何故ヘルメット団に襲われているのか)、後にその伏線回収しつつ新たな展開に繋げていく流れは爽快感さえ覚える。正直、シナリオの構築はかなり上手いと言わざるを得ない。
以下のような具合でプレイヤーは徐々に世界観の浸透を感じていくことになる……と個人的には思った。
①世界観プロット
世界観説明A
世界観説明B
世界観説明C
②シナリオプロット(対策委員会編)
本編における伏線A→本編における伏線B→本編における伏線C……
例えば、本編が進む中で、世界観説明Bだけをシナリオプロットへ投じることで、プレイヤーは漠然と脳裏で世界観の構築をする。そして他の世界観説明同士が点と点で繋ぎ合わさっていき、終盤になってようやく世界観の全貌が掴める。
と、いうことはつまり。ブルアカ世界においては、世界観そのものがシナリオでは重要視されていると考えていいだろう。あえて全てを説明しないのは、プレイヤーが疑問に感じている各要素が世界観の根幹へ直接的に繋がるモノであるからだ。
・何故、キャラクターの頭上にはヘイローと呼ばれる天使の輪が浮いているのか
・何故、キヴォトスには先生と呼ばれる存在が必要なのか
・先生自体が何者であるのか
・銃弾を浴びた程度では死なない少女らは何者なのか
・キヴォトスには「外の世界」があるらしく、先生はそこから来た存在である
・何故、先生には世界を揺るがすほどの権限が許されているのか
・そもそもキヴォトスの存在自体が不明瞭
挙げればキリがない。また、上記の疑問は世界観プロットであり、ホシノ先輩の過去のような伏線はシナリオプロットに含まれる。
当然、説明しすぎないで物語を進行するのはもってのほかだ。しかし、ブルアカにおいては世界観プロットの露出の仕方が絶妙で、プレイヤーの気を惹くような構成になっている。
アウトロー集団の襲撃→便利屋68との対峙→借金を背負わせた闇金融との接触→ホシノ先輩の失踪→明らかになるアウトロー集団の襲撃理由(闇金融の狙いはアビドスの土地)→闇金融と繋がる黒幕との対峙により世界観プロットの露出(ゲマトリア関連のあれこれ)→ホシノ先輩の救出劇
シナリオの流れも華麗だ。ヘルメット団なる陳腐な名前の集団からの襲撃という小さな点から世界観の根幹に関わる部分(ゲマトリアとの対峙)という本流に繋がり、最終的にプレイヤーへの説明責任も果たすのだから、膝を打つしかない。
やられた、と思った。
シナリオを読み終えた頃には、いつの間にか世界観の虜になり、キャラクターへの造詣が深まることにより愛着も湧いている自分がいた。正直なところ、舐めていた。頻繁に話題に挙がるコンテンツだが、よくある美少女ゲーだろうとみくびっていた。
しかし、実際は認識とは大きく違っていた。シナリオの構築力、差別点を含ませたキャラクター群、世界観プロットを絶妙に露出させ読み手の興味を惹き続ける。こんなんつまらないワケがない。突飛な要素があからさまに多いのに、それらが上手いこと噛み合っている。対策委員会編を読み終えただけで、もう続きが気になって仕方がなくなっているのだ。