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《サス経》 グリーンウオッシュは歓迎すべきこと!?

 最近よく耳にするようになったのがグリーンウォッシュ問題です。グリーンウォッシュは、環境への配慮を装ったり、事実と異なる広告を通じて環境に対する真のコミットメントを欺く手法を指します。ここ数年、ヨーロッパやアメリカを中心に、この問題に対する規制が厳しくなり、企業の環境への姿勢が詳細に検証されるようになりました。

 例えば、2021年にはイギリスで競争・市場庁(CMA)がグリーン・クレーム・コードを発表し、グリーンウォッシュに対する規制が強化されました。これにより、企業は環境に対する主張を裏付けるエビデンス(証拠)を提示する必要が生まれ、曖昧な広告は許されなくなりました

先進企業であっても厳しくチェック

 私が衝撃を受けたのは、2023年12月に発覚したユニリーバの事例です。ユニリーバはサステナビリティの先進企業として知られています。その行動はお手本になるものが多く、私も先進事例としてよく紹介しています。ところがそのユニリーバの広告が、英国の「不公正な取引からの消費者保護規則(CPRs)」に基づいてグリーンウォッシュであるとの疑いが浮上し、捜査されているのです。環境に対する取り組みがあるにもかかわらず、広告が曖昧であったことが原因です。

 なお大変興味深いことに、まだ捜査が開始されただけで「調査対象の事業者が消費者保護法に違反していると考えるべきではありません」との注釈も付けた上で、その詳細はイギリス政府のウェブサイトに公開されています。

 ちなみにこの事例は、グリーン・クレーム・コードを日用消費財に拡大してから最初の捜査ケースです。第一号にあえてユニリーバを選んだのは、今後はグリーンウオッシュを厳密に取り締まるぞという当局の強い意志を示す意図があるように思われます。

アメリカではグリーンウオッシュの訴訟の嵐

 こうしたことが起きているのはイギリスに限りません。そもそも訴訟大国であるアメリカにおいては、気候変動に関連するグリーンウオッシュの疑いに対して1500近い訴訟が起こされているというから驚きです。また2022年には国連が「ネットゼロ報告書」を発行してネットゼロの正確な定義を決め、「カーボンニュートラル」という言葉を安易に使うことを事務総長が強く諌めたのも記憶に新しいところです。あるいはEUは現在、環境訴求指令を整備しています。これが施行されれば、日本企業もEU域内ではこれを遵守する必要があります。

日本ではいまだ野放し状態

 日本では景品表示法や環境省の「環境表示ガイドライン」等によってグリーンウォッシュは制限されているものの、消費者庁や環境省はこの点についてあまり積極的に動いているとは言えず、事実上野放し状態です。広告の自主規制機関であるJAROも、苦情受付の窓口を設けているものの、グリーンウオッシュに関して機能しているようには思えません。それどころか昨年12月のCOP28では、日本政府が推進するアンモニア混焼石炭火力発電所はグリーンウオッシュであるとして、環境NGO等から強い批判を受けたほどです。おそらく海外からは、日本はグリーンウォッシュ天国と思われていることでしょう。

 そうした現状の日本からすると、海外のグリーンウオッシュ規制は厳しすぎるように思えるかもしれません。しかし、ここには私たちにとってのいくつも重要なヒントが隠されています。

なぜグリーンウオッシュが問題になるのか?

 まず一つは、なぜグリーンウォッシュがこれほど厳密に考えられるのか、です。もちろん、気候危機等に対する危機意識の高まりも一因です。これだけ大変な危機が目の前に迫っている中で、見せかけの取り組みでは許さないという苛立ちもあるでしょう。しかし、それ以上に私が重要だと思う理由は、環境の取り組みが企業の競争の軸になってきたということです。

 環境への取り組みが消費者や投資家にアピールしないのであれば、企業がこれほど熱心に環境について語ることはないでしょう。つまり、環境問題に対する企業の取り組み姿勢や実績が問われるようになってきたという意味で、これは大きな進歩なのです。

効果で定量的に評価する時代に

 もう一つには、最近の傾向として、エビデンスに基づき、また主張の対象や範囲を明確に定め、厳密に主張することが求められるようになってきました。つまり、環境に良いことをするだけでは不十分で、努力の積み重ね、その効果(量)で評価する時代になって来たということです。「我が社はSDGsに貢献しています。」と言って、何か一つ二つ良さそうな活動をしているのではまったくお話にならないのです。

 けれどもこの傾向は、真摯な取り組みを積み重ねている企業にとっては歓迎すべきことです。口先だけの会社や広告がうまい会社ではなく、きちんとした取り組みをしている会社が正当に、そして高く評価される社会になってきたのです。正直者がバカを見ない時代になって来たと言ってもいいでしょう。

 そして、そうした成果で評価が決まるということから、今後は環境に対する取り組みがますます加速することが期待できます。そう考えると、グリーンウォッシュに対する目が厳しくなることは、きちんと頑張っている企業にとっては悪いことではありません

沈黙は金にはならない

 ところで、グリーンウォッシュと批判されることを恐れて、あえて自社の環境の取り組みを主張しないという企業も出て来ており、グリーンハッシング(hushing、沈黙)という言葉までできました。これは一見、リスク回避のための合理的な行動のようにも見えますが、長期的には意味がない、むしろ有害な行動と言えます。

 なぜなら、既に環境への取り組みが競争軸になっており、消費者も投資家も透明性を求めています。特に投資家は厳密なフレームワークに基づいた情報開示を求めているのです。これに対応しない限り企業の価値は下がりますし、せっかく進めてきた取り組みも評価されません。そして、なるべく目立たないように社内だけで縮こまっていれば、他社と切磋琢磨する機会を失うことになります。つまり、世の中の動きから取り残され、かえって競争力をなくすリスクがあるのです。

グリーンウオッシュへの規制はむしろチャンス

 結局のところ、グリーンウォッシュへの対応は企業にとってポジティブな変革の機会だと私は思います。真摯な取り組みが報われ、企業価値が向上する良い環境になって来たのです。そしてもちろん、これからますます厳密なエビデンスに基づいた環境コミュニケーションが求められるようになる中、まずはしっかりした目標設定と、着実な取り組みです。あなたとあなたの会社の努力がより報われることを願っています。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹


※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)484(2024年1月26日発行)からの転載です。


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