《サス経》 2023年、そして2033年の世界のリスクは?
グローバルリスクレポート2023が発行
先週15日から20日にかけてスイスのダボスで世界経済フォーラム(WEF)の年次総会が開催されました。いわゆるダボス会議です。そしてそれに先立って、グローバルリスクレポート2023年版が発行されていますので、今回はこれについてご紹介したいと思います。
“The Global Risks Report 2023” (World Economic Forum)
今年も昨年と同様、目先2年間の短期と10年後の長期に分けてリスクを分析しています。その結果、2025年までの2年間においては最も重大なリスクとして挙げられたのが「生活コストの上昇」で、3番目には「地経学的な対立(geoeconomic confrontation)」が選ばれています。言うまでもなく前者は世界的なインフレ、後者は米中対立であり、現在の世界的な危機感を強く反映したもので、なるほどと思わせます。
環境に関わるリスクが半分
一方、環境に関わるリスクとしては、全体で2番目に深刻なリスクとして取り上げられたのが「自然災害と極端な気象現象」、そして「気候変動の緩和の失敗」(4位)、「大規模な環境被害の発生」(6位)、「気候変動の適応の失敗」(7位)、そして「自然資源危機」(9位)の5項目、つまりトップ10のちょうど半分が環境関連となっています。
ちなみに社会面の深刻なリスクは「社会的結束の低下と二極化」(5位)と「大規模な止むを得ない移動」(10位)であり、これも社会の崩壊を感じさせる深刻な現状を象徴しています。
そして2033年までの10年間になると、最も深刻なリスク10のうち過半数の6項目が環境関連になります。短期リスクでも挙げられていた5つの環境リスクとそれにプラスして「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」が第4位に入ります。
生物多様性の喪失は今すぐに経済に影響を与えるわけではないけれど、10年後には間違いなく大きな問題になっている、世界のビジネスリーダーはそう認識しているということです。
日本のリーダーが考えるリスクは?
ちなみに今年のレポートでは、各国のリーダーが考える5大リスクも国別に掲載されており非常に興味深いのですが、日本の場合には、
1. 地経学的な対立
2. 自然災害と極端な気象現象
3. 長引く景気停滞
4. 深刻なコモディティ価格ショック
5. 資源を巡る地経学的な議論
となっており、ほぼ新聞の見出しどおりです(笑)。
もっともこの傾向はどの国も同じで、顕在化した目の前の問題が何なのかがリストアップされたような結果になっています。唯一イギリスで「陸上の生物多様性の喪失と生態系の崩壊」が5位になっていることが、他国と温度感が違うように感じました。
そしてこのことは、これらのリスクに対する準備の状況やガバナンスについての認識調査の結果にも現れています。32項目の様々なリスクのうち、準備状況が悪いワースト6のうち5つが生物多様性を含めた環境リスクなのです。分かってはいるけど、まだあまり準備が出来ていない。それがどこも現状のようです。
リスク・クラスターで考える
そうした状況を打破するためにかどうかは分かりませんが、今年のレポートでは、将来の危機となりうるリスク・クラスターというものを新たに取り上げており、具体的に5つのクラスターを紹介しています。
その筆頭が「 自然生態系:取り返しがつかなくなる点を通過」なのですが、生物多様性の喪失の問題が、他の環境リスクと相互に深い関係があり、生物多様性の喪失、気候危機、エネルギー供給、食料生産の4つを一緒に解決する必要があることや、そのソリューションとしてTNFDなどによる情報開示や、環境再生型農業など、いくつかの動きが始まっていることを紹介しています。
リーダーといえども、やはり気になるのは既に顕在化した目の前のリスクです。しかし、それだけでなくさらに10年先の長期リスクも示し、さらにはその解決方法まで紹介しているという意味で、示唆に富むレポートになっています。まだお読みになっていない方には、ぜひ一度目を通すことをお勧めしたいと思います。
サステナブル・ブランド・プロデューサー 足立直樹
株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)No. 460(2023年1月23日発行)からの転載です。