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《サス経》 サステナビリティに王道なし

 前回は、グリーンウォッシュが世界的に厳しく見られるようになっている現状についてお話をしたところ、いろいろご反応をいただきました。またそこでご紹介したグリーンハッシングについても、初めて聞いたと言う声をお聞きしています。せっかくなので、今回はこれらにについてもう少し深掘りしてみたいと考えます。日本でももう少し意識する必要があると思うからです。

不言実行ではダメなわけ

 日本では、特に少し前までは、「不言実行」が良いとされてきました。良いことをしてもそれを声高に語るのではなく、ただ黙々と実行すれば良い。わかる人はいつかそれに気づくのだから、それで良いではないか。陰徳こそが美しい、というわけです。

 確かにそれが美しいとは私も思います。私たちの美学なのでしょう。ただ、それではなかなか多くの方々に理解していただくことはできず、せっかく行動してもそれが報われないということになりかねません。そればかりか、そうした行動をさらに加速しようというインセンティブが働かず、結果的にはせっかくの行動や変化を促進しないという残念なことになりがちです。

 なのでサステナビリティを実現するためには、単に行動するだけでなく、そもそもどこを目指すのかを最初にしっかり示してから行動すること、すなわち「有限実行」が重要だと、私は20年ぐらい前から機会があるごとに繰り返してきました。

 すなわち、自分たちが解決すべき課題を明確にし、そのために達成すべき野心的な目標を掲げ(できれば定量的に)、そのために必要な行動をバックキャストして考え、行動計画に落とし込むというわけです。

願っているだけでもダメ

 最近はこうした思考様式も、企業の中にかなり定着してきたと思います。一方で、とりあえず横並びで目標だけ掲げておこうとか、カーボンニュートラルやSDGsへの貢献を宣言すれば、それで半ば義務を果たしたかのようにしている企業や組織もないわけではありません。

 だから、それではグリーンウォッシュだよ。十分な行動を伴わなくてはダメだよ、という声が出てきたののでしょう。あるいは最近では、これに少し似たもので「グリーンウィッシング(greenwishing)」という表現も海外では言われるようになりました。

 これは企業や個人が、環境が良くなることを願います、と口で言うものの、具体的な行動が十分に伴っていない場合を指す表現です。その多くは善意から出たもので、自分の行動をよりよく見せるためにごまかそうという悪意はありません。けれども、必要な行動をしていないという意味ではグリーンウォッシュの一形態と言ってもいいでしょう。そして、当然、問題の解決にはつながりません。

 だからと言って、グリーンウォッシュやグリーンウィッシュにならないようにダンマリを決め込むという「グリーンハッシング(green hushing)」では意味がなく、逆効果であることは前回述べた通りです。それにEUを始めいくつかの地域や国では情報開示をより厳密に行ったり、義務化する動きも始まっていますので、特に大企業においてはそもそもハッシングは認められません。

 さらにもう一つ紹介すると、最近はもうひとつ「グリーンボッチング(green botching)」という表現も見かけます。ボッチングとは、しくじるとか、台無しにするという意味で、たしかに善意に基づいて環境問題の解決に取り組んでいるのだけれど、知識の不足などにより、それがむしろ悪影響をもたらし、企業の評価も下げてしまっているような場合を指します。

 たとえば善意からリサイクルをするのだけれど、やり方がまずいためにかえって環境負荷を大きくしてしまうような場合です。善意から出発しているだけに残念ですし、下手をするとそのまずいやり方をさらに広げようとして、状況を悪化させてしまうことにもなりかねません。

 日本では自分たちがやってることをより大きく見せようという意図のグリーンウォッシングや、そう避難されることを恐れて黙り込むグリーンハッシングはそれほど多くないかもしれません。けれども、グリーンウィッシングで終わっていたり、結果的にグリーンボッチングになっている場合は少なくないかもしれません。

結局どうしたらいいの?

 何もしなくても怒られるし、下手にやっても怒られる。私たちは一体どうしたらいいのか?

 そう悩む方も多いと思いますが、だからこそしっかり問題の全体像を理解し、何が本質的な原因なのか、それを解決するためにはどうしたら良いのか、そうしたことをきちんと考えて(つまりは科学的に)、それを一つひとつ実行していくしかないのです。サステナビリティに王道なし、と言ってもいいかもしれません。

 グリーンウォッシュではなく、グリーンウィッシュでもなく、グリーンウォークだと言っている人もいて、うまいことを言うなと思いましたが、それでWalk the Talkという言葉を思い出しました。20年ぐらい前に、まだサステナビリティではなくCSRという言葉がよく使われていた時代ですが、先進的な企業のリーダーがスピーチの中で使っていて、今でも印象に残っているのです。

 Walk the Talkとは、言ったことを実行する。すなわち「有言実行」です。Talk the walk and walk the talkという言い方もあるようです。何をするかを語り、語った通りに実行する。今ではさらに、語る内容も厳しくチェックされるようになりましたが、それでもきちんと考え、示し、行動すれば、グリーンウォッシュなどとは無縁で、そして常に高い評価を得られることでしょう。

 正直者が馬鹿を見るのではなく、しっかり行動した者が高く評価される。本来当たり前のことが当たり前になる時代が近づいて来たということでしょう。

サステナブル経営アドバイザー 足立直樹

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)485(2024年2月13日発行)からの転載です。

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