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《サス経》 選挙で気候は変わるのか?
今年(※)は世界中で大きな選挙が目白押しです。アメリカの大統領選が注目を集めるのは当然ですが、国内でも7月の都知事選が話題になっています。そんな選挙シーズン真っ只中に、アメリカのフロリダ州でとんでもない新法が施行されるのをご存知でしょうか?
「気候変動と言ってはいけない!」
CS/HB 1645という法案番号だけではピンとこないでしょうが、「気候変動と言ってはいけない(Don’t Say Climate Change)法」という通称を聞くとこれは何かと思うでしょうし、中味を聞けばさらに驚かれることでしょう。フロリダ州では2050年までに100%再生可能エネルギーへ移行する計画が進んでいたのですが、この法案はその計画をまるっと削除してしまいました。さらに、海岸から1マイル以内の洋上風力発電は禁止され、州が購入する自動車は低燃費車とする義務も廃止されます。世界の流れに逆行するかのような内容です。
逆に電力会社は政府の承認なしで最大100マイルの天然ガスパイプラインを建設できるようになります。これまでの15マイル制限から一気に緩和されるのです。さらに驚くことに、法案全体で気候変動に関する記述が8箇所も削除され、温室効果ガスの削減についての節など丸ごと削除されています。
この法案に署名したのは、共和党のロン・デサンティス知事。彼は「ミニ・トランプ」の異名を持ち、昨年大統領選への出馬を宣言しました。そして、トランプ氏の政策を手緩い、左寄りになっていると批判したほどの保守強硬派です。
その政策は時にかなり過激で、小学校の低・中学年においてLGBTQ+教育を禁止するいわゆる「ゲイと言ってはいけない(Don’t Say Gay)法」を通したり、強硬な移民対策、法人税の引き下げなどで多くの支持者を集めています。しかし、反ESG法も制定するなどして、サステナビリティ関係者を中心に頭を抱える人々も少なくありません。
現実にはこんなに被害が発生しているのに
興味深いことには、フロリダは気候変動の影響を最も受けている州の一つです。昨年に続き、今年も史上最高気温を更新中で、5月は既に45度の猛暑に見舞われ、5月としては15年ぶりに猛暑注意報が発令されました。そんな中でこの法案に署名したのです。
大雨や洪水も頻発し、現在も洪水が発生しています。毎年の海面上昇により住宅の保険料は全米平均の4倍にもなっているのですが、それでも撤退する損保会社が続出しているあり様です。さすがのデサンティス知事も洪水対策に11億ドル(約1600億円)以上の予算を支出しているのですが、気候変動との関係性は認めず、この法律はフロリダ州を「環境狂信者たち」から守るためのものだと主張しているのだそうです。
投票こそ最強の解決策
これはさすがに酷いと、地元の有名な気象予報士であるスティーブ・マクラフリン氏は、これは「気候変動と言ってはいけない法」だと非難し、「気候変動に対する最も強力な解決策は、投票権である。誰に投票しろとは指図はけしてしないが、ぜひ調べて欲しい。気候変動を信じる候補者や解決策もあるし、そうでない候補者もいる」と市民に呼びかけています。このことは最近日本でも報じられましたので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
それにしても、なぜフロリダの有権者はデサンティス知事を支持するのでしょうか? 気候変動問題以外の背景も影響しているのは明らかですが、外部から見ると理解しがたいことが多いように思います。しかし、日本でも似たような状況はかなりいろいろな地域で見られるのではないでしょうか。社会の二極化が進み、優先度が大きく異なってくる中で、合意点を見つけるのはどの国でも難しくなっているのかもしれません。
どのような思想信条を持つかはもちろん個人の自由です。けれどもここで改めて申し上げたいのは、気候変動は、人の意思に関わらず進行する物理現象です。対応が遅れれば遅れるほど、取り返しがつかなくなることは科学者が指摘しているとおりです。
何より、選挙は単なる人気投票ではなく、私たちの未来を決める重要な選択です。見た目や発言の派手さに惑わされず、候補者の信条や政策をよく見極めて投票することが、望む未来の社会を形作るのです。イメージだけで候補者を選んでしまっては、将来気がついたときにはとんでもないところに連れて来られてしまったということになりかねません。
誰に投票するかで未来は変わる
そしてマクラフリン氏の言うように、気候変動に対する最も強力な解決策は投票であり、もっとも有力な武器は私たちの投票権かもしれません。どんな候補者を選ぶかで、私たちの未来が大きく変わるのです。特に若い世代と高齢者では利害が対立することも多々あります。「将来世代の被害よりも目の前の利害や経済を優先する」という政治家も存在しますので注意が必要です。
7月以降も日本でも選挙が続きます(※)。自分が望む社会像に近い政党や候補者を見つけ、そうした人に投票することが、私たちができる最も大きな選択なのです。次の選挙では、ぜひ慎重に、そしてしっかりと投票していただきたいと思います。
サステナブル経営アドバイザー 足立直樹
※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)494(2024年6月24日発行)からの転載です。
したがって、本文中の年号なし日付は2024年のことです。