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《サス経》 サステナビリティはサステナブルではない!?

サステナブル・ブランド国際会議は大盛況


 ちょうど一週間前、先週の14日、15日にサステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内が開催されました。二日間で延べ6000名近い方にご参加いただき、しかもそのかなりの割合が会場でのリアル参加でした。私は主催者側だったので、この二日間に向けてここ1ヶ月ほどはかなり忙しかったのですが、会場で沢山の方々にお目にかかることができ、久しぶりにお会いする方も多く、とても嬉しく感じました。

 今回は久しぶりに東京での開催になったということと、コロナの規制も緩んで海外からの参加者も復活し、そして何よりサステナビリティがメインストリーム化してきましたので、今まで以上に大きな盛り上がりを見せました。

 いろいろと印象に残る発表や議論がありましたが、特に海外のスピーカーの方の話は、日本とは違った視点やアプローチで、とても勉強になることが多くありました。なので今回はその中から一つ、プレナリーで講演をして大好評だったチャド・フリシュマンさんの話を取り上げたいと思います。

 彼はポール・ホーケンの『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』という本のリサーチ・ディレクターも勤めた方ですが、その後さらにリジェネレーションの研究を進め、現在はご自身で創設したRegenIntel社の代表を務めていらっしゃいます。

 『ドローダウン』をお読みになった方であればご存知だと思いますが、この本は副題が示すとおり、地球温暖化を逆転させるためCO2を吸収したり、発生を削減するための方法を分野ごとに100以上もまとめたものです。しかも興味深いのは、その少なからず多くの方法が最新のハイテクではなく、むしろ昔から知られていた方法であったり、その応用だということです。つまり私たちが以前から知っている方法をすべて使えば温暖化を逆転させることはできるし、私たちは絶望する必要はないというメッセージでもあるのです。

 “100 solutions to reverse global warming”(TED)

サステナビリティはサステナブルではない

 リジェネレーション(regeneration)とは日本語にすれば「再生」と訳すのが相応しいかと思いますが、 まさにその言葉通りで、いろいろなものを再び機能するようにすることで気候変動を始めとする様々な問題を解決しようという考え方です。

 彼がまず多くの人を驚かせたのは、「サステナビリティはサステナブルではない」というステートメントです。なぜなら現在のサステナビリティは、SDGsなどもそうですが、存続するためにギリギリのことしか考えていないというのです。

 例えば、飢餓をなくす、クリーンな水にすべての人がアクセスできるようにする、という目標があります。もちろんこれらはいずれも重要で、絶対的に必要なことですが、それが達成できたとしても私たち皆が豊かな暮らしをできるわけではありません。なので、そうではなく、もっと一人ひとりが真に豊かで幸せな生き方ができるような社会を実現することを目指さなくてはいけないし、それは可能だというのです。

 あなたはそんなことは理想だと思うでしょうか、まずは最低限の目標から始めるのが順当だと思うでしょうか? しかし私は彼の話を聞いた時に、むしろなるほどと思ったのです。飢餓をなくすことは確かに道徳的に望まれることではあるけれど、達成はしなくてはいけないけれども、ではそのために何かしようと心の底から熱い衝動が沸き起こって来るかと問われると、正直なところそれほどでもないのではないでしょうか。

 けれども、飢餓も当然解消した上で、皆が豊かに幸せに暮らせるような仕組みを作ろう、そのために一緒に働こうと言われれば、より高い目標ではあるのに、その方がもっと頑張ろうとする気持ちや、ワクワクするような気持ちを感じたのです。 しかも、それが可能だとは、何と力強いメッセージでしょう。

 ギリギリのところを狙うのではなくむしろその先にあるより豊かなものを目指すことで私たちの気持ちが刺激され、本気で動き出す。これはちょっとした発見でした。

 さてそれをどう実現するかが肝心なのですが、具体的な方法としては森林を「再生」したり農地を「再生」したりと様々なやり方があるのですが、ここでもやはりポイントは生物や生態系の力を最大限に使うということです。

 もちろんそれ以外にも人為的なものを含めて様々なアプローチを紹介してもらったのですが、マイナスをゼロに近づけることを目指す(=サステナブル)のではなく、マイナスをプラスにまで持っていく再生の仕組みを目指す、作るということがミソです。より具体的な事例については、今後さらにご紹介していきたいと思います。

"We are the Re-Generation"

 もう一つ彼のメッセージの中でとても重要だと思ったことは、最近はよくZ 世代とか、さらにその先のα世代のことが話題になります。そして、そうした世代ごとに考え方や行動様式が異なっていると、違いが強調されます。しかしチャドはそうではなく、私たちは全員がリジェネレーション、すなわち「再生」世代なのだというのです。

 単なる言葉遊びのように思えるかもしれませんが、私たちがこれから今までとは全く違う新たな生態系を再生していく役割を持った世代だと思うと、これもとても勇気が出てきますね。

 リジェネレーションは実は少なくとも1970年代からアメリカで言われ始めた考え方で、生物の再生にヒントを得ていました。最初は概念的な使われ方が多かったように思いますが、閉鎖系の中で長く持続するには再生を繰り返す生物の仕組みは本質的なもので、時代がそれにようやく追いついてきたということのようです。

 最近では欧州、特に北欧を中心に大きな共感を得ているようで、これからますます大きな潮流になってきそうです。皆さんもぜひこのリジェネレーションという言葉と考え方にご注目ください。

  サステナブル・ブランド・プロデューサー 足立直樹

株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)462(2023年2月21日発行)からの転載です。


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