《サス経》 カーボンニュートラルが現実になった日
カーボンニュートラルは、今や多くの企業が目指す当然のゴールとなりました。とは言っても、自社で直接排出する、あるいは使用するエネルギーを通じて間接的に排出する温室効果ガス(GHG)の削減については取り組みを進めていても、それ以外のいわゆるスコープ3については、まだ多くの企業が手をつけられていないのではないかと思います。サプライヤーにもカーボンニュートラルを求めなくてはいけないからです。
サプライヤーへもカーボンニュートラルを求める時代へ
一方で、世界の先進企業では、サプライヤーにカーボンニュートラルないし再生可能エネルギーへの切り替えを求めるところが急速に増えつつあります。これからはここが競争ポイントになりそうです。
最初にサプライチェーンのカーボンニュートラル化にコミットをした会社の一つがアップルです。アップルは自社分については2018年にグローバルでカーボンニュートラルを実現したので、2030年までにはサプライチェーンも含めてカーボンニュートラルを達成することを2020年に宣言しています。
それ以来のサプライヤーへの働きかけが成果を上げ、既に世界で300社以上のサプライヤーが2030年までに再エネに切り替えることにコミットしています。これはアップルの1次サプライヤーの90%以上をカバーするそうで、それだけでもすごいことです。
カーボンニュートラルな製品を発売
ところが先月12日発売されたApple Watch 9という新製品は、なんと製品自体がカーボンニュートラルだというのです。もちろんアップル初のカーボンニュートラル製品ですが、おそらく世界的にも初めてのカーボンニュートラルな電気製品ではないかと思います。
カーボンニュートラルな製品を発売するために、既に再エネを導入しているサプライヤーを活用したのでしょうが、それ以外にも時計のケースに使われるアルミニウムは100%リサイクルされたものにしており、こうしたところでも電力消費量が圧倒的に減らされています。輸送時のCO2発生を大幅に減らすため、飛行機による輸送は減らして、海上輸送や陸上輸送に切り替えています。また時計のバンドや包装も、CO2の排出量が多い素材は排除しています。
このように製造プロセスのあらゆる部分においてCO2の発生を少なくしてカーボンニュートラルを達成したのですが、さらに驚くのは、使用時も含めたカーボンニュートラルを達成しているという点です。
どういうことかと言うと、Apple Watchは毎日充電する必要がありますが、製品の平均的な使用期間中にユーザが充電するであろう電気量を計算し、それに相当する高品質のカーボンクレジットをアップルがあらかじめ購入しているのです。そのことにより、世界中のどこで充電しても、平均的な製品寿命中に使用する電気からのCO2排出量がオフセットされるという仕組みなのです。
目標とした2030年よりも7年前の今年にこのような製品が出たことにまず驚きましたが、さらに使用時の電力まであらかじめオフセットするという大胆な発想にはもっと驚かされました。
アップルのサステナビリティ委員会に出席したのは?
そしてこうした取り組みを紹介するのに、アップルは非常にユニークな方法を使っています。もちろんウェブ(※1)やサステナビリティレポートでも詳しく報告していますが、製品を発表するときに、それをちょっとユーモラスに紹介するビデオ(※2)を作ったのです。
※1 「Apple、初のカーボンニュートラルな製品を発表」
※2 「2030年 現状報告 | Mother Nature | Apple」(YouTube)
CEOのティム・クックやCSOのリサ・ジャクソン本人も登場するビデオですが、そこにマザーザネイチャー、すなわち母なる自然が登場し、アップルの環境への取り組み状況を厳しく質問し、チェックするという内容です。とても面白いビデオ(※2)ですので、ぜひ一度ご覧ください。
そしてこのビデオの中で、クックCEOは、Apple Watchだけではなく、2030年までにはアップルの全製品をカーボンニュートラルにするとマザーネイチャーに約束しています。
ほんの少し前まではカーボンニュートラルなんて夢見たいな話だと誰もが考えていたと思いますが、それが今年、現実となったのです。2023年9月12日は、カーボンニュートラルな製品が現実になった日として、歴史に残るのではないでしょうか。そして次は、どこのどんな製品がカーボンニュートラルになるのでしょうか。今からとても楽しみです。
サステナブル経営アドバイザー 足立直樹
※トップの写真はAppleのwebから。ここに写っている機能は今のところアメリカ国内だけのものですが、現在どのぐらいグリーン電力がグリッドに流れているかを示しており、充電するのに最適の時間が分かるようにアシストしてくれるものだそうです。
※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)477(2023年10月16日発行)からの転載です。
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