僕の好きだったひと 8
わたしは満月がだいすきだ。
いつからかわからない。
あの光に心が吸い込まれてどうしようもない。
満月のたびに光を求め、何時間でも眺めてしまう。
月明かりでできる影もわたしを高揚させる。
都会で育った人はあまりわからない感覚かもしれないが、
わたしの実家では街灯がほとんどない。
懐中電灯を持って出かけないと四方八方暗闇のような世界だ。
だが、満月の日はびっくりするぐらい全てが見える。
月明かりが反射して全てのものがキラキラと眩しく光る。
街灯でできる影と月明かりでできる影は全く違う。
月明かりでできる影は輪郭がくっきりとして、
影じゃないところは地面がキラキラと光って見える。
街灯の方がすぐそばでわたしを照らすのにその影はぼんやりとしている。
そのため満月の日、わたしの首は真上と真下を行ったり来たりする。
「満月のたびに君を思い出す」
別れてから訪れたとある満月の日に、君からメールが届いた。
一度も一緒に月を眺めてなんてくれなかったのにね。
いつも、わたしは窓際に一人で座り、君はベッドから出てこない。
ほんの数メートルの距離はわたしが近づかないと縮まない。
何度も差し伸べた手を掴まなかったのは君なのに
差し伸べなくなった手を何度も何度も掴もうと何キロもの距離を毎日逢いにきた。
あの数メートルさえ動けなかったこと、君は覚えてないでしょ。
君の時計も遅かった。
君のおかげで、だいすきな満月のたびに
少し、君を思い出す。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?