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まちぶせ 2月29日〜365日の香水
『翻訳できない世界の言葉』という絵本には、その国の歴史や文化的な背景から生まれた独特のものがあって、その歴史や文化の中に身を置かなければ理解できないような、いわば”翻訳では伝わらない”言葉が集められていておもしろかった。今は世界共通概念になったカワイイやモッタイナイなども日本的な価値観やコミュニケーション、暮らしの背景からでてきたものなので単なる翻訳は難しいのかもしれない。
「幸せ」ということばも、欧米では運の良さに起因するけれど日本では仕合せ、つまり人と人との関係性の中で生じるものという概念だ。
基本的に言葉というのは歴史文化の中で育まれるものだから、地域性や民族性を伴うはず。
まちぶせ(AMBUSH)の概念
ところが、にフランス語でも英語でも日本語でもインドや中国の言葉でも、この言葉の概念はほぼ一致していた。
AMBUSH~まちぶせ。
軍事の戦術としての”まちぶせ”、サプライズアタックといわれるような不意打ち、である。身を潜めて奇襲する。ハンニバルも用いたし、中世騎士道の世界でも十字軍遠征時には勝利を優先するため「待ち伏せ作戦」が用いられた記録が散見するという。
野生動物の世界でのハンティングもそうだし、スポーツの作戦としてもつかわれる。そして不測の事態に際して「問題が待ち伏せていた」という言い方をすることもあるようだ。
意表を突いたやり方というニュアンスがこの言葉にあった。
ヨーロッパでのこの言葉の記録は13世紀くらいまでさかのぼれるらしく戦争に関わる戦術として登場している。先に書いたように野生生物の獲物獲得にもこの戦術は用いられるので、生命維持のために備わった本能から出たものとすれば、あらゆる言語で概念が一致してくるものうなづける。
AMBUSH orignal/dana/1955
香りはこのタイプの大傑作といっていいゲランのジッキー(Jicky/Guerlain)の系譜で、オリエンタルノートにフゼアノートを効かせている。
後にメンズフレグランスの代名詞のようになっていくフゼアノートだけれど、エレガントにオリエンタルとアコードをとるやり方は、このアンブッシュくらいまでは継承されていた。
この香水は1997年にリニューアルされて、違うタイプの香りになったため、区別するために「ambush origial」としているようだ。
まちぶせの物語
この時代に女性用の香水として、この名で世に出たのだから、この香水が持つ物語はやはり女性が好きな人に不意打ちをする、そのためのチャンスを狙っている、という緊迫感。同時にその張り詰めた時間を楽しむ余裕。
大戦が終わって、若者たちはエルビスプレスリーのロックなど新しいカルチャーに夢中になり、経済復興、成長の中で消費者文化が開花した時代。
輝く女性たちは、欲しいものを獲得するためにサプライズアタックをする。
そのアクションへの称賛。
力が湧いてくるような物語だ。
香り、思い、呼吸。
2月29日がお誕生日の方、記念日の方、4年ぶりのあなたの日!おめでとうございます。