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「大統領専用階」(サミット2016[2])

202304291720  2016年伊勢志摩サミットのお話(その2)
「大統領専用階(フロア)」

 彼女の話は熱を帯びてくる。
「それがすごいのよ。会議の開催が発表されてからは、大統領が宿泊することになった部屋の階(フロア)は関係者以外厳しく立ち入り制限がされたの。それでもって彼が泊まる部屋の絨毯(カーペツト)は全部新しい物に取り替えられたのよ、スィートルームぜーんぶよ。やっぱり新品の絨毯じゃないと失礼だということだったのね」

 重要な会議の舞台となったそのホテルに勤めていた彼女は、ホテル始まって以来最高の賓客へのもてなしとしてアメリカ合衆国大統領が泊まるスィートルームの絨毯を新しくした、と思ったらしい。それはもちろんその可能性もないでなはいが、本当はそういう理由ではないだろう。つまり大統領警備担当者や防諜担当者が、部屋のどこかに爆発物や毒物が仕掛けられていないか、電波や音響での諜報活動(盗聴や盗撮)はされていないか、などを入念にチェックしたに違いない。だからカーペットを剥(は)がし、家具をいちいち裏まで確認し、不審物や電子機器がないか、あるいは本国との通信手段を盗聴されないか、軍関係者も含めて常に安全に連絡を取れるかなどを確認したはずである。

 先進国首脳会議「G7サミット」は経済関係の討議が主で、二国間協議の切った張ったの外交交渉をする場ではなさそうだ。だいたい政府首脳だけの会議でことが決まるわけではなく、事前に各国の官僚などが折衝して合意案を作り、最終的には首脳どうしの話し合いで決まるようにする。もちろん、事前折衝では決まらず本当に首脳どうしがサシで話をして決まることもあるだろう。今は亡き我らがP.M. Abeが会議でどんなことを言ったのかはわからないけれど。

 高校中退の彼女がいつそのホテルに就職したのか私は知らない。その高級ホテルで真面目に働き、英語が出来なくても外国からの宿泊客が欲しい物、例えば英字新聞などはちゃんとわかって部屋まで持っていくことが出来たようだ。彼女いわく『掃除のおばちゃんよ』だったのかも知れないが。
 長く勤めていたが途中で正社員から子会社が雇う形の契約社員にさせられ、最後は留意されたもののもう20年以上そのホテルで働いたから充分と考えて、ホテルとしては超大掛かりな会議であるサミットが終わった後、彼女はそのホテルを退職した。

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