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米国人記者 (サミット2016[9])

202305190440「米国人記者」
2016年サミットのお話(その9)

 その白人の男は、近鉄(きんてつ)鳥羽(とば)駅の改札口を出るとまっすぐに私たちボランティア通訳の所に来た。そして英語でこう言った。
「ここにはフリーW-iFiはないのか?」
 聞くとUSA Todayの記者だと言う。USA Todayは有力ではないが合衆国唯一の全国紙のはずである。しかし、だ。マスコミつまりちゃんとした新聞社の記者が原稿を編集部へ送るのに公衆Wi-Fiを使うのか? 私は信じられなかった。自分の国から、出張先(日本)で使えるsimカードを探してそれを挿した無線ルーターを持ってくるのが普通なんじゃないのか?
 サミット開催のために慌てて(?)整備された公衆Wi-Fiが鳥羽駅周辺にもあったからそれを案内するにはした。でもそいつは自分で自分のiPhoneを公衆Wi-Fiに繋ぐことすら危うかった。バカじゃないのか? 仕方がないからこっちが手取り足取り指導してなんとか繋がった。セキュリティの概念とかITのスキルがないらしい、彼には。
 次に彼は「『ワグ』とはどこか?」と聞いてきた。ワグはどうも地名らしくそこの民宿がその日の宿らしい。しかしサミット取材の記者が民宿? 本来なら取材申請を受けた段階で日本の外務省か三重県のどこかの部署が記者の宿を手配したはずだ。それがホテルでなくて民宿? ま、いいかと思ったが私にはあいにく鳥羽市内の土地勘がない。『ワグ』で思いつくのは志摩市志摩町和具(わぐ)であるがそこは鳥羽駅からはかなり遠い。
 すると先に記した交通費出ないボランティアが口を出してきて
「それは鳥羽市答志島(とうしじま)の和具(わぐ)だろう」
と言う。記者を名乗る男が持っていた宿泊先を英語で記したメモとも合致した。そして交通費出ないボランティアが
「答志島なら鳥羽市営の定期船が近くの港から出ている」
と私に言った。そうか、なら、と私が
「そうですか、それは良かった。ではその港まで貴方(あなた)がこの記者を案内して下さい」
と交通費出ないボランティアに言うと
「君、やってー」
と投げ捨てる様に命令してきた。要するに土地勘があって日本語で観光案内が出来ても米国人を相手にする英語能力がまったく無いのだった。何なんだよ、鳥羽市のボランティアって。

 さっきから出しゃばる割には全く役に立たない。居なくていいよ仕事が出来ないなら。邪魔。交通費出ないボランティア!

(つづく)

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