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【「鎌倉殿の13人」と「草燃える」比較がたり】第3回 悩ましき弟ども

放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」と時代背景がほぼ一致する1979年の大河ドラマ「草燃える」を比べながら好き勝手に語るコラム。3回目は富士川の合戦後から亀の前事件まで、「鎌倉殿の〜」第8話から第12話の辺りをたどっていく。

石橋山合戦における大敗北から1ヶ月足らずで大軍勢へと膨らんだ佐殿こと源頼朝は無事河内源氏縁の地・鎌倉へと到着。坂東の武士どもを束ねるべく政権構築の基盤づくりに手を付ける。そんな折、頼朝のもとには腹違いとはいえ頼もしき弟たちが次々と集まってくる。

頼朝と面倒くさい弟たち(NHK公式サイトから)

その1番乗りを果たしたのは全成。頼朝の父・源義朝の七男であり、母は常盤御前。平治の乱の後、幼かった全成こと今若丸は出家させられ京・醍醐寺に預けられていたが、以仁王の令旨発令を受け密かに寺を抜け出し東国へ下ってきた。「鎌倉殿の〜」では、政子たちのピンチに駆けつけ謎の呪文を放つも不発に終わるという、コミカルな初登場シーンが印象的すぎた。一方、「草燃える」での全成の初登場はあっさりしたもので、建築ラッシュに賑わう鎌倉の町にひょっこり現れ、その容姿の清楚さから巷の女たちから熱い視線を浴びていた、という感じだった。

さらに、六男の範頼、八男の義円も登場。範頼はこの先、平家追討軍の総大将を預かることになるが、何かに付けて地味だとか、戦下手などとあまり印象を持って語られない、ちょっと不憫な存在だ。そのせいもあり「鎌倉殿の〜」ではそこそこ存在感はあるものの、「草燃える」では「そんなやついたっけ?」レベルの扱いにとどまる。ただし、彼はこの先ある大事件で重要人物となる(はず)。

とはいえ、範頼はまだマシな方で、かわいそうすぎるのは義円である。「鎌倉殿の〜」では最後に登場した頼朝の弟で、知性あふれる期待の人物として描かれたのもつかの間、ある陰謀にハマり呆気なくドラマから退場してしまった。なお、「草燃える」には義円の“ぎ”の字すら出てきてない。

そして九郎義経である。「鎌倉殿の〜」ではすでにかなりヤベーやつ扱いになっていた菅田将暉演じるこの人物、脚本書いた三谷幸喜はまるで義経に前世で相当の嫌がらせを受けたのではないかと勘ぐるほど、鬼畜野郎に仕上がっている。居並ぶ頼朝配下の御家人たちを前に「俺は弟だから特別の存在なんだぞ」と言わんばかりに(ほぼ言ってる)、わがまま放題な態度をとる。当然、回りからの印象はすこぶる悪い。ただし、戦となると天才ぶりを顕にする。頼朝も、普段は手を焼くばかりの義経を、戦場においては一目置く。やがて義経が数々の伝説を築き上げていくのはご存知のとおりだが、そこは三谷脚本。この天才的バーサーカーの振る舞いをどう料理していくのだろう。

その義経を、「草燃える」ではどう描いたか。演じたのは当時イケメン俳優として人気上昇中だった国広富之。京・鞍馬寺で預けられて天狗を相手に腕を磨いたとの伝説もある彼は、京の街に密かに出没し、盗賊どもとつるんで暴れていた。その後、奥州平泉の藤原秀衡のもとに身を寄せた義経は、以仁王の令旨に接し奥州を立ち、頼朝と駿州黄瀬川で対面。そのまま鎌倉に入るが、やはり「鎌倉殿の〜」と同じく「頼朝のの弟」を傘に着て横柄に振る舞う。ヤバさで言えば菅田将暉版のそれよりはマシだが、とにかく空気を読むということを知らないという意味では、国広富之版もいい勝負と言えた。

それにしても、同腹の兄であるはずの義円を煽りに煽って挙げ句戦死させてしまう腹の中真っ黒けの義経が、この先対決することになる従兄弟・木曽義仲や平家の面々たちをどう扱っていくのか。相手をすることになる彼らが不憫でならない。


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