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だれがなんと言おうと「いだてん」はおもしろい!

NHK大河ドラマ「いだてん」が、袋叩きにあっている。やれ視聴率が過去最低だの、出演者から逮捕者が出ただの、それらの記事の多くは、週刊誌や夕刊紙などスキャンダルをネタに読者を集めることを目的とする、煽動型媒体が中心だ。

だが、ドブに落ちた犬は徹底的に叩くのが大好きらしいこの国の国民、なかんずくネット界隈にはびこる「批判するオレ一番エラい」と思いこんでいる連中の格好の餌となり、ネガティブコメントの嵐を引き起こしている。

その光景は、まるで1940年に開催される予定だった幻の東京オリンピックがヒステリックな国民達によって潰された様子と重なる。それはまさに、「いだてん」がこの先描こうとしている時代である。

だが、あえて言おう。「いだてん」は大河ドラマ史上五指に入る快作であると。

私は、とかく新しくはじまることが大好きだ。大河ドラマの視聴者層は年寄りを中心とする保守的な人間の集まりだと勝手に思い込まれているフシがあるが、冗談ではない。1963年の第1作「花の生涯」から半世紀余り、大河ドラマは概ね挑戦と冒険をエネルギーに続いてきたのだ。

戦国時代や幕末だけが大河ドラマだと誰が決めた?
大河ドラマは重厚でないといけないなんて誰が決めた?有名人が主役じゃないと大河ドラマじゃないなんて誰が決めた?

ちょんまげ時代以外の大河ドラマは過去に3作あった。昭和を描いた大河ドラマは過去に2作あるが、そのうちの一つ「いのち」は、幕末でも戦国でもないし、主人公は無名どころか架空の人物だ。「重厚にかける」と言われた大河ドラマの先駆といえば、鎌倉武士たちが現代言葉を喋りまくる「草燃える」があるが、やはり当時「軽すぎる」と批判された。ところが、「いだてん」よりも重厚のドラマの例として「草燃える」を上げてる意見さえあった。三谷幸喜が筆を振るった「新選組!」や「真田丸」も、昭和の大河ドラマと比べれば、実に軽い。そのノリは「いだてん」を手がける宮藤官九郎のノリとどっこいどっこいではないか。

「いだてん」は2つの時代を扱うことが当初から公表されていた。途中で主役が変わるリレー方式の大河ドラマといえば司馬遼太郎原作の「国盗り物語」の先例がある。同作では、前半で平幹二朗演じる斎藤道三の話が語られ、中盤から高橋英樹演じる織田信長の話に移っていく。そしてこの2つの物語をつないでいくのが、近藤正臣演じる明智光秀。筆者は残念ながらこの作品を、総集編でしか見ていないが、最後まで見ていくうちに、この光秀こそが司馬が描きたかった影の主役だったという見方が浮かび上がってきた。

「いだてん」の主人公は、前半がオリンピック日本代表第1号となった金栗四三と、1964年の東京オリンピック招致最大の功労者である田畑政治だ。そしてこの2つの時代をつなぐのが、前半では森山未來が演じ昭和30年代ではビートたけしが演じている古今亭志ん生だ。第1話を見た時、「なるほど、“国盗り”の明智光秀に当たるのが志ん生なんだな」とピンときた。

前例はあったわけだ。だが、「国盗り物語」と「いだてん」が違っているのは、前半の物語の幕間に後半の一部が挟み込まれるという展開。第1話の冒頭に中盤のクライマックスをとりあえず見せつつ、第2話からは時系列通りに進めていくという方法は「葵徳川三代」や「新選組!」「義経」などでもやっている。「いだてん」も第1話はまるまる先行公開方式をとったが、第2話以降も後の時代の話が挟み込まれていくというパターンはこれがはじめてのはずだ。

これを、たたき記事の多くが「視聴者を混乱させた」と悪評の代表例に取り上げていたが、本当にそうか?

あの程度の、幕間つなぎくらいの脱線で、混乱する視聴者なんてそんなにいるのか?裏番組とザッピングしながらというのなら話は別だが、そんなのは大きなお世話だ。むしろ、あの時代を行き来する流れに、先の期待をふくらませる力が働いていると、自分は感じた。

これまでのところ視聴率が一番低かったとされる第17話では、金栗四三が一念発起し史上初の駅伝競走を思い立った様子が描かれた。その際、京都〜東京間のレースをたどるのに、昭和編の主要メンバーの阿部サダヲ演じる田畑政治や松重豊演じるあずま東京都知事らによる聖火リレーの打ち合わせと連動させ、彼らにレース実況をさせてしまうという大技をやってのけた。その徐々に湧き上がってくる展開は、まさに箱根駅伝の生中継を見るような高揚感そのものだった。

こういう時代を大胆にまたいでの史実の表現は、教科書や書物に書かれた字面だけでは絶対に身につくことはない。それがビジュアルで体験できたことはありがたいというほかない。こんな今まで見たこともなかった、四次元的視点からの時代の表現を発明してくれただけでも、「いだてん」の功績は極めて大きい。この傑作回が史上最低の視聴率だなんて、日本国民は見る目がなさすぎる!

一方、批判的な声の中には「あの落語さえなければ」などと知った風な意見が散見されるが、おそらくそんな声は作ってる側は百も承知のはず。この先、志ん生の物語が金栗四三や田畑政治の物語になくてはならない存在ななるだろう。それはいつでどう紡がれるのか、むしろ今から楽しみな私だ。

最新の第18話ではまだ男女平等など誰も考えなかった時代の女子体育の黎明期という、教育番組でもなければお目にかかれない歴史の断面を、クドカン流のユーモアと大胆な色使いで、視聴者の脳裏に刻み込んだ。これも、ドラマを見ていないと味わえない最高の醍醐味だ。

おそらく、今後も「いだてん」の視聴率が飛躍的に上がることはないのだろう。だが、そんな他人の視聴態度など知ったことではない。NHKのエライ人が「特効薬はないか」とほざいたそうだが、そんなドーピング行為など一切不要だ。これまでの18週、「いだてん」が面白くなかった、45分見て損した、なんて思った週など1度もない。

「いだてん」制作陣諸兄! 金栗四三がストックホルムを駆け抜けた如く、己を信じ、何も恐れることなく最後までスピードを緩めることなく、新しい時代の、新しいドラマを私たちに見せるべく、疾走してほしい。視聴率などクソくらえだ!


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