7話で大化けしたアニメ「LOST SONG」はNetflixで見るのが一番正しい
6月に入り、4月スタートの深夜アニメの多くが佳境を迎えつつある。出だしの勢いが一巡し、各作品の真の評価が問われるタイミングとも言える。最初のインパクトは良かったものの徐々に息切れが見えてる作品もあれば、安定した巡航モードで進んでいる作品も。中には予期せぬ総集編を挟まなければならない、残念ながらここ数年度々見られる光景も垣間見られる。
そんな中にあって、ここにきて大化けした作品が「LOST SONG」だ。歌を歌うことで特殊能力を発揮する2人の少女をめぐるファンタジー系冒険物語、というのがこの作品の基本路線だ。主人公の一人・フィーニスは歌に膨大な破壊力を宿し、その力に目をつけた王国の下の戦争兵器として使われていた。もう一人の主人公・リンは王国から離れた片田舎に住むあどけない少女だが、歌うことでけが人の傷を完治できる奇跡ののいう力を持つ。しかしその力を我が物としようとする王国から狙われる身となったリンは、故郷の村を焼き払われ、大事な人々を失い、王都を目指し旅に出る。一方のフィーニスは、暗殺者に命を奪われそうになったところを助けてくれたイケメンの騎士・ヘンリーと恋に落ち、王国の支配から逃れる道を模索する〜。
歌の力が兵器になったり奇跡を起こしたりと、「マクロスシリーズ」のような要素をはらみつつも、極めて王道なファンタジーストーリーが展開して行くのだが、第7話で大きな転機を迎える。歌うごとに吐血するなど限界を感じていたフィーニスに、非道な性格の王国の王子は最後の歌を歌えば許してやると、磔にした1人の騎士を歌で火葬するよう命じる。その命令に従ったフィーニスだったが、亡骸だと思われていた磔の主は歌の力による炎の中で叫び声を発する。その声はフィーニスの想い人のヘンリーだった。まさかの事態に我を失ったフィーニスは怒りを歌に込め「終滅の歌」を歌い出す。すると空から大量の隕石が降り注ぎ、王国は炎に包まれ滅亡する。しかし、歌ったフィーニスだけは衣服がボロボロになりながらもほぼ無傷で生き残った。世界でただ一人になったフィーニスは、絶望に苛まれ崖から海へ身を投げるが・・・。
ところがである。もう一人の主人公であるリンと旅で知り合った仲間たちは、廃墟の王国跡にたどり着くが、どういうわけか「ここって太古の遺跡だよね」と妙なことを口走る。そして、廃墟の城壁から見下ろした先には、フードで顔を覆ったフィーニスらしき女性が。リンはつぶやく。「あれってフィーニス?」え?これどうなってるの?と腑に落ちない疑問を残したまま第7話は終了してしまう。
そして1週間後、第8話の冒頭に直面した視聴者の多くが我が目を疑ったこ
とだろう。いきなり飛び込んできたのは高層ビルが乱立する夜の大都会。ニューヨーク?あれ?冒険ファンタジーだったよねこれ。見るアニメ間違えた?新番組?疑問がとける間もなく、場面は天文学の学会のような場所へ。スクリーンに地球っぽい星があって、その周りを月のようなもう一つの星が周回しているのだが、ある異変によってその軌道がずれ、徐々に地球(仮)へ迫りつつあると、一人の学者が説明している。その学者の姿、高価そうなスーツでパリッと決めている金髪イケメン男、おおヘンリーじゃないか。って、どういうこと?そしてその話を聞く聴衆の中にはキャリアウーマン風のスーツを着てはいるがどう見てもフィーニスの姿も。
結局何がどうなったかというと、第7話でフィーニスが歌った歌のせいで隕石が降り注いだ時、月(仮)の軌道も狂い、徐々に地球(仮)に近づいているとのこと。そして月が激突するのは6万年後だということ。で、フィーニスはどうしたかというと、海に身を投げたあとも死ぬことができず、死ねないことにより命を失うという逆説的な状況を悟って、新たな文明が生まれるたびにフィーニスはどこかに必ず老いることもない同じ姿で存在し、周囲からは魔女だの化け物だのとバッシングを受けながらも、ただひたすら再びヘンリーに再会する奇跡を追い求めていた。そしてフィーニスは何百回?と文明の勃興・滅亡を経験んし続けていた。そうしてたどり着いたのが、実はリンたちが暮らしているこのアニメにおける「現代」だったのである。
つまり、第1話から6話まで、フィーニスのいる世界とリンのいる世界は、同一世界にいるようで実は何千年も隔たれた別々の世界が絡み合うように描かれていたのである。要するに視聴者たちは、「森田と純平」という監督であり脚本家にまんまと騙されていたというわけだ。
言われてみればと、もう一度1話から6話までを見返してみると、第1話でヘンリーがなぜかボロボロになって森をさまよっていた時にリンと出くわすのだが、なんでヘンリーがキズ付いていたのかよくわからないことに気がつく。そして、リンのパートで度々出てくる王国の将軍が、王子と一切絡んでこない。もちろんこれは7、8話を見たから認識できることに過ぎず、疑問を呈する視聴者など普通はいないだろう。
ここまで緻密に仕掛けを作りまんまと欺いてみせた「森田と純平」、一体何者なんだ?
作品はまだこの先も続くので、これで全てを悟ったつもりになっていては、またもや「森田と純平」のワナにかかることになりかねず(すでに術中にはまってるかもしれないが)内容を先読みするのは危険だ。
ただ、ここまでの展開で、すごいと思ったこと
が1つある。本作品はテビアニメでもあるが、Netflixで1週分先行配信されているというもう一つの性格を持つ。Netflixの会員ならば1話から最新話までを何度でも繰り返し見ることができる。もちろん、テレビ未放送の最新話も含めてだ。この仕組みを本作は極めて有効的に活用している。7、8話を見た視聴者の多くは、もう一度最初から確かめたいと感じたに違いない。「それならNetflixで存分にどうぞ」というわけだ。テレビアニメなら、毎週録画して保存しておけばそれも可能だがほとんどの視聴者は一度みれば消去してしまうのではないか。そんな視聴者の落とし穴をもののの見事に埋めにかかろうとしているのが「LOST SONG」なのである。
このような、配信サービスの利点を巧みに使うコンテンツは今後何本も生まれるだろう。それは、映画でも、テレビでも味わえないない、全く新しいコンテンツ体験の胎動である。